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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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16話〜何が言いたいんじゃ?〜

 パチパチと、フィールドに虚しい拍手の音が響く。

 その音を出していたアクロイド先生が、顔だけ後ろを振り返り、待機している生徒達を見る。


「あれ?どうしちゃったの、君たち。君たちが出来ない事を、バーガンディ嬢はやって見せてくれたんだよ?ほらほら、成功者に拍手」


 パチ…。

 パチパチパチ。


 先生に急かされて、まばらな拍手が起こる。でも、生徒達は困惑気味な表情だ。

 そりゃ、さっきまで笑い物にしていた魔法がいきなり成功したんだもの。そうなるよね。

 それでも、先生は満足そうにこちらに向き直った。


「素晴らしいぞ、バーガンディ嬢。最初の授業でこれに成功したのは、今のところ君とロイ殿下、それにモントゴメリー騎士団長の息子だけだからな」

「えっ?」


 それって、Aクラスのみんなも、殆ど失敗しているってこと?あの、アンネマリー様まで?

 私はてっきり、みんなのファミリアが言うことを聞かないのは、Cクラスの生徒だからと思っていた。でももしも、高貴な血筋の方々ですら制御できないのだとしたら…。


「さて、バーガンディ嬢。そろそろファミリアを消してくれると助かる。拘束されているとはいえ、それの効力がいつ切れるか分からんからな」

「え、ええ…」


 別に、このままでも暴れることは無いんだけどな、ブーちゃん。

 召喚を解除すると、ブーちゃんが結んだ鎖が落ちる。それを消そうとしていると、先生ともう1人の女子生徒との会話が聞こえた。


「なんだ。まだ召喚していなかったのか?早く出しなさい」

「えっ、あっ、あの…」

「なんだね?まさか召喚できんのか?」

「ちっ、違います!」


 女子生徒はオドオドしている。

 先生に急かされて、目を瞑ったまま召喚と叫んだ。


「召喚!」


 そうして現れたのは、巨大なイノシシだった。

 小山のような体に、ロングソードのように太く長い牙が2本、口から飛び出している。


【フゴォ…】

「なっ!これは、カリュドーン…!?」

【フゴォオオ!!】


 突然、大イノシシが暴れ始めた。大きな体を左右に揺らし、信じられない速度で召喚者の少女へと突進し始める。

 それに、先生が動いた。


「行け!ガルム!」

【ガウッ!】


 黒いウルフが躍り出て、大イノシシに飛びかかる。

 イノシシの方が体は大きいけど、骨も砕く黒ウルフであれば勝てるだろう。

 そう思ったのに、黒ウルフは飛びかかる直前で動きを止めた。彼の後ろ足には、光る鎖が巻き付いていた。

 女子生徒だ。


「あっ、私、あっ…」


 ワザと…じゃなさそう。鎖を持っている手が震えている。

 きっと、言われた通りにイノシシを捕まえようとしたのだ。でもタイミング悪く、大イノシシの前に躍り出たウルフに当たってしまった。

 突然の拘束に、ウルフは態勢を崩して大イノシシの突進をもろに食らってしまった。


【キャィッ!】


 強力な一撃を受けた黒ウルフは消えてしまい、大イノシシが女子生徒目掛けて突進してきた。

 

「いかん!」


 先生が飛び出し、女の子を抱えて芝生上を転がる。転がりながら、大イノシシに向かって魔法を飛ばした。


「爆ぜろ!ファイアーボール!」


 ゴブリンが放った物よりも大きな火球が3つ、大イノシシの体に当たる。

 でも、大イノシシは止まらない。少し進路をズラしただけで、突進を続ける。

 その進路の先に居たのは…私。


「いかん!逃げろ!」


 そう言われても、咄嗟には動けない。

 目の前いっぱいに迫るイノシシの顔を見て、体がすくんでしまった。ギラリと光るその目が、私の足を(はりつけ)にする。

 あっ、これ、私、死ぬ?

 周りの景色がゆっくりと動く。大イノシシの毛並みとか、口から垂れるヨダレとかが鮮明に見えた。

 その中で、【ブゥ】と言う声が聞こえる。私の前に黒い穴が生まれ、そこからブーちゃんの上半身だけが出てくる。

 

 ブーちゃんは、私の足元に落ちていた鎖を掴むと、それを大イノシシに向けて投げた。鎖は大イノシシの牙にかかる。

 でも、大イノシシは止まらない。牙に引っ掛けちゃったから、拘束魔法が成立していないんだ。さっきのロデオ少年と同じ結果になっている。

 逃げて!ブーちゃん。

 そう強く願う先で、ブーちゃんは鎖を思いっきり引っ張った。まるで漁師さんが一本釣りするように鎖を引っ張り、その力を受けた大イノシシは態勢を崩す。顔からダイブするようにこちらへ突っ込んできて…。


【ブッハー!】


 すぐ目の前まで迫った大イノシシの右頬を、ブーちゃんが思いっきり殴り飛ばした。その一撃で、こちらへと滑っていた大イノシシの軌道がズレ、私のすぐ横を滑っていき、芝生を掘り返しながら止まった。

 ピクっ、ピクっと痙攣しているけど、立ち上がることはなさそうだ。

 あれ?いつの間にかブーちゃんが消えている。もう戻ったのかしら?

 私が周囲を見回した、その時、


「「わぁああああ!!」」


 喝采。

 拍手喝采。

 Cクラスのみんなが、そして上級生までもが夢中で手を叩き、キラキラした目をこちらに向けていた。


「すっご!あんなデカブツを倒したぞ!」

「何がどうなったんだ?何も見えなかったぞ?」

「分からん。でもさ、ほら、牙に鎖がかかってるだろ?」

「嘘でしょ!?あの状況で拘束魔法を成功させたって言うの?そんな神業を…」

「先生でも出来なかったのに!」


 ちっ、違うわ!


「皆さん!誤解しています!今のは、私のファミリアがやった事なの!」


 みんなにはブーちゃんが見えなかったの?明らかに、私は突っ立っていただけだったでしょ?

 叫ぶと、ちょっとだけザワザワするみんな。


「ファミリア?それって例のやつ?」

「そんな特性、オークにあるのか?」

「よく分かんねぇけど、それだってバーガンディ様の力だろ?」

「そうだよな。彼女が倒した事に、変わりはないよな!」

「そうだ!そうだ!」

「「わぁああああ!!」」


 なんか、余計に喝采が大きくなってる。

 なんでよぉー!


〈◆〉


「失礼します、校長先生」


 夕刻。

 学園の最上階まで来た私は、簡素な木の扉をゆっくりと開ける。途端に、何かが私の顎髭を引っ張った。


「くっ、おい、やめろ」

「これ、エラ。客人にまでイタズラはいかんぞ」

【キャハハハ】


 甲高い声を響かせながら天井へと羽ばたくのは、小さな女性形の妖精。

 人の形を保てるということは、中級妖精か。


「見かけぬファミリアですな、校長先生。新しいのを召喚されたので?」


 私は顎を擦りながら、椅子に座る校長に話しかける。

 彼は困った様に笑いながら、人差し指をピンと立てる。そうすると、さっき逃げた妖精が指に止まり、指を揺すって遊び始めた。


「それがのぉ。ニアの奴に惹かれて、居着いてしまったみたいなんじゃ」


 ニアとは、校長が持つファミリアの一種で、最上位の力を持つ妖精だ。強力なファミリアが故に、その同種である中級妖精も魅了しているみたいだ。


「また契約されるのですか?少し多すぎるのでは」

「貴方の言う通りだ、アクロイド先生。流石に魔力が心許ない。残念じゃが、彼女が飽きて出て行くを待つ他ない」


 それが良い。私が知っているだけで、校長は8体のファミリアと契約をされている。

 ファミリアは契約する数が多ければ多いほど、また強力であればそれだけ、契約者の魔力を必要とする。

 幾ら、歴代魔法使いの中でも最高レベルの魔力量を誇る彼でも、これ以上は厳しかろう。かなりのご高齢だと思われるし。


「っと、そうでした。今回お時間を頂いたのも、ファミリアについてご相談したく」

「ああ、今日やっていた召喚魔術の授業じゃな?」


 ぬっ。ご存知か。


「もしや、ご覧になられておいでで?」

「なに。飛んでおったら、たまたま目に入っただけじゃよ」


 凄い人だ。やはり、この人に隠し事は出来ん。

 私は心に刻み込み、大きく頷く。


「それでしたら話は早い。校長は如何見ますか?あのバーガンディという生徒」

「ミス・バーガンディは優秀な生徒じゃよ。彼女のファミリアも、同じくらいのぉ」

 

 ほぉ。

 校長のこの感じ。何か知っているな。


「優秀過ぎるでしょう。特にあのオークは異常だ。私が殺気を飛ばしながら近付いても、余裕の表情でこちらを見下ろしてきた。あまつさえ、カリュドーンを拳で一撃だ。主人の命令があったようにも見えませんでしたし、単独で実行したとしか思えません。人以上の思考能力を持つあれを、果たしてファミリアと呼んで良いものでしょうか?」

「何が言いたいんじゃ?ルーカス」


 私の名を呼んで、若干語尾を強める校長。

 ふむ。回りくどいのは逆効果か。


「単刀直入に申し上げます。かの者達は工作員の可能性があります。ロイ殿下のお命を狙う、第一王子派閥の間者の恐れが」

「それは有り得んよ、アクロイド先生」

「何故です?」


 私が身を乗り出すと、校長は少し悲しそうな顔をする。そして、目を瞑り、小さく「ニア」と言葉を漏らす。

 途端に、校長の左手が光り、私の目の前に綺麗な女性が現れた。

 輝く金髪に、空のような美しい蒼の瞳。そして、背中には蝶の様な薄く儚く大きな羽が。

 妖精の女王、ティターニアだ。


「儂が彼女達の見舞いに行った時、ニアはとても嬉しそうな顔をしておった。ミス・バーガンディの心が清らかな証拠じゃ。のぉ、アクロイド先生。今ニアの表情は、どんな風に見えるかのぉ?」

「…憂いている様な、悲しんでいる様な、私にはそう見えます」


 正直に答えると、校長はこちらを真っ直ぐ見上げて、私の目を覗き込んだ。


「アクロイド先生。将来を憂うのも良いが、大事な事を忘れちゃいかん。王太子も殿下も、まだ子供。大人達の醜い争いに、幼気(いたいけ)な子供を巻き込むのはおかしな事じゃ。特に、生徒を導く教師なら、尚更そんなものに加担してはならん」

「…留意します。アンブローズ校長」


 私は、取り繕った挨拶を並べて、その部屋を出る。

 ああ、やっぱりこの人には敵わない。そう痛感しながら。

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― 新着の感想 ―
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