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ブタ令嬢の試練~召喚魔術を失敗しただけなのに、私の学園生活が無茶苦茶ですわぁ!~  作者: イノセス


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15話〜何をやっているんだ、君は!〜

 バルツァー先生に誘われてから、妙な視線を感じるようになった。

 昨日までは、ブタ令嬢に対する侮蔑的な視線ばかりだったのだが、今日はその中に、熱心にこちらを探るような物が混じっている気がした。

 私の勘違いかもしれないけど。


「クロエ〜!」


 Cクラスに入ると早速、エリカさんが手を振ってきた。相変わらず、締まらない笑顔を浮かべている。


「おはようクロエ。今日は楽しみだね」

「…何が楽しみなんですの?」


 何かあったかしら?

 首を傾げると、信じられないと口と目を開くエリカさん。


「今日はあれじゃん。召喚魔術の授業じゃん。みんなのファミリアが見られるんだよ?すっごく楽しみだよね!」


 ああ、そう言えば…そんな事を昨日、召喚魔術担当のアクロイド先生が言っていた気がする。

 ペナルティが気になり過ぎて、また戦闘系部活に勧誘された事が衝撃的過ぎて、頭の中から綺麗さっぱり消え去っていた。

 まぁ覚えていても、楽しみには思わなかったと思う。他の人達の優秀さを見せつけられるのは分かっているから、惨めな思いを募らせるだけだ。

 私はブーちゃんと、楽しくハント生活をしていれば良いのに…。


 私の思いも知らずに、エリカさんはケント君と「みんな、どんな子を召喚したんだろうね」と楽しそうに話し合っている。


 そして、その時間となる。

 私達はクラスで纏まって、昨日も来た競技場まで歩いてきた。召喚の儀式では中央に大きなステージが設置されていたけど、今日はそのステージは消えていて、広い芝生のフィールドが広がっていた。

 あの大きなステージは何処に行ったのだろうと周囲を見ていると、アクロイド先生と数人の先輩達が待ち構えているのが見えた。


「おーい。こっちだぞ、君たち。上級生を待たせているんだから、走って来なさいよ〜」


 髪色と同じ金色の顎髭を弄ぶ中年の男性が、眠そうな声で私達を急かす。

 アクロイド先生だ。召喚の儀では怖そうな先生と思ったけれど、今日は幾分か目が優しい。あの時は一大イベントだったから、特に警戒していたのかな?

 優しそうではあるけれど、厳しい先生には変わりない。私達は急いで先生の前に集まり、姿勢を正す。

 それを見て、先生は方頬を吊り上げて歪な笑みを浮かべた。


「何時もより気合いが入っているな、君たち。大っぴらに召喚魔術が使えると思って、はしゃいでいるのか?結構、結構。そのやる気は買おう」


「だがな」と言って、アクロイド先生が首を傾けて首筋を指さす。そこには、ダークブルーの刻印があった。

その刻印が淡く光ると同時に、彼の後ろで大きな何かが唸り声を上げる。

 それは、真っ黒で巨大なウルフだった。フォレストウルフより、一回りも二回りも大きいそれが、先生の後ろに召喚されていた。


【グルルルゥ…】

「あまり調子に乗り過ぎると、とんでもない大怪我をすることになる。この様にな」


 先生が懐から杖を出し、それを降ると、何処からか太い骨が出てきた。人間の物ではないと思うけど…かなり太い。

 先生はそれを、ウルフの方へと放り投げた。

 途端に、ウルフがそれに食らいつく。勢いがあり過ぎて、切断された骨の半分が芝生の上を転がる。

 生徒の誰かが、短い悲鳴を上げた。

 先生の顔に、再び笑みが戻る。


「召喚魔術は強力だ。強力過ぎるが故に、召喚者に被害が出ることも珍しくない。多少の怪我であれば、ペニントン女医が治してくれるだろう。だがもし、それが多少でなければ…分かるな?」


 先生はそう言って、召喚したウルフを消しながら、転がった骨を足で蹴る。

 また生徒の誰かが、小さな悲鳴を上げた。

 先生が生徒達を見回す。私の左後ろを見て、目を鋭くさせる。


「この中には既に、その片鱗を味わった者も居るようだ。その者達は実に運が良い。まだ五体満足で、この授業に望めるのだからな」

 

 エリカさんのことだ。だから、制服くらい買い換えなさいと言ったのに。


「この授業で絶対に守ること。それは、私の言葉だ。それを守れないのであれば、諸君らの命は保証しない。上級生達が諸君らをサポートするが、それに甘んじる事がないように。絶対じゃないからな。最後に自分を守るも殺すも、自分自身だと心得ておけ」


 誰も反応出来ない。隣の生徒が、固い唾を飲み込む音が聞こえる。

 先生にもそれが聞こえたのか、急に大きな笑顔を浮かべた。


「っと、まぁ、少々脅し過ぎてしまったが、私の指示通りに動き、気を抜かねば大丈夫だ。早速、授業に入るとしよう。先ずは拘束魔法の練習からだ。君たち、フィールドに散らばりなさい」


 私達は間隔を空けて並び、拘束魔法の練習を行う。

 拘束魔法は無属性の魔法だ。魔法で出来た鎖を相手に巻き付けて、相手を拘束する魔法。

 ファミリアを縛るだけでなく、動物や人も縛る事が出来るから、イザという時に役に立つ。無属性だから、特別に魔法適性がない人でも扱いやすい。

 筈なんだけれど…。


「鎖よ!かの者を拘束せよ!チェーンバインド!」


 呪文に従って、突き出した私の手のひらから光の鎖が飛び出してくる。

 でも、それは最初だけ。

 飛び出した鎖はすぐに勢いがなくなり、芝生の上に落ちた。

 周囲から、忍び笑いが漏れる。


「えっ?2mも飛んでないんじゃない?」

「侯爵令嬢なのに、あれって不味くない?魔力もCランクなんでしょ?」

「鎖の太さは流石だけど…飛ばないんじゃ、ねぇ?」


 ぐっ…。だから、楽しみなんかじゃなかったのよ、こんな授業。

 私は悔しくて俯く。

 周りのみんなは、細い鎖ながらしっかりと的であるカカシまで飛ばし、拘束魔法を完成させていた。

 平民のエリカさんやケント君まで…。


「よーし。練習やめぇ!私の元に集まって、2列を作れぇ。2人ずつ召喚魔法を使ってもらうからな。ほら、キビキビ動く!」

「「はいっ!」」


 2列に並ぶと、私の隣に並んだ女の子が、こちらを見て凄く嫌そうな顔をした。

 大丈夫よ。私の拘束魔法はへっぽこでも、ブーちゃんは暴れないから。


「最初の2人、前へ出ろ」

「はいっ」「は、い」


 2人の男子生徒が前に出て、お互いにある程度離れてからほぼ同時に召喚魔術を使った。


「「召喚!」」

【ブモォオ…】

【……】


 片方は牛の幻獣。もう片方は虹色の鱗を持つヤモリだ。


「ほぉ。カトブレパスとイピリアか。なかなかのファミリアだな」

「はいっ」「へへ」

「ほら、気を抜いてんじゃねぇ!早く拘束しろ!」


 先生に怒られて、2人は慌てて詠唱を開始する。

 だが、


「よしっ!成功し…うわぁあ!」


 牛を拘束しようとした男子生徒は、鎖が首には当たらずに、その手前の角に絡まってしまって、拘束魔法が成立しなかった。

 芝生を()んでいた牛は、食事を邪魔されたことに怒り、鎖を引っ張り返した。それで、男子生徒は引き()られた。

 先生が目を覆う。


「ああ、ああ、ああ!何をやっているんだ、君は!拘束は首じゃないと意味無いだろうが!やり直せ!」

「先生!その、前に、こいつ、こいつを、止めてくれぇえ!」


 牛に引き摺り回され、男子生徒は悲鳴を上げる。

 その向かい側では、男子生徒が腹這いになっていた。

 先生がポカンと口を開ける。


「ちょっとちょっと、おたくは何やってんの!ファミリアどこよ?」

「分かんなくなっちゃったんです。おっかしいなぁ。さっきまでここに居たと思ったんだけど…?」

 

 大混乱だ。

 サポートする上級生も、ワチャワチャする2人に苦笑いを浮かべている。


「おーい、君たちぃ。召喚を解除しろ。君らの出番はお終いだよぉ」

「あっ、そっか。解除、すれば、良いのか!」


 泥だらけになりながら、ロデオ少年が声を上げる。トカゲ少年も、お腹に付いた草を払って解除を宣言した。


 それに、先生は特に反応することもなく、次の人達を呼んだ。

 あれだけの失態を見せたのに、何も言及されないなんて…。

 そう思った私だったけど、すぐにその考えを改める。その後に続いた人達も、まぁまぁ酷かったからだ。


 拘束する前に、ファミリアに逃げられる者。鎖がファミリアに当たらず、逆襲される者。拘束は成功したのに、鎖が細すぎて引きちぎられて、逆襲された者。召喚と同時に攻撃される者。

 誰も彼も、まともに拘束を成功させる事が出来なかった。

 

 それに、私は驚いた。

 あまりに、ファミリアが普通の獣みたいだったから。

 ファミリアって、主人の言うことを聞くものじゃないの?ブーちゃんみたいに、召喚者と力を合わせてくれるもの筈でしょ?


「いっったぁあ!」


 盛大な悲鳴を上げて、エリカさんが医務室送りになる。

それに、先生は最早何も言わない。半分流れ作業で次々と生徒を舞台に立たせる。


「ほら、次は誰だ?早く前に出なさい」


 そして、とうとう私の番となる。

 両手を前に構えると、急に不安が押し寄せてくる。

 もしかして、この場所が不味いの?みんなに見られているから、ファミリアが不安になって襲い掛かって来ているんじゃない?


「どうした?2人とも。カカシみたいに突っ立ってないで、早く召喚しなさい」


 先生の声に合わせて、小さな嘲笑も聞こえてくる。召喚も出来ないの?と、挑発してくる。

 私の不安が、吹っ飛んだ。

 やってやるわ!


「ブーちゃん!」


 右手の刻印が黒く浮かび、黒い穴が出来上がる。

 ブーちゃんがのっそりと、そこから出てくる。


【ブフゥ】


 控えめの鳴き声だ。

 こちらを見返してくる彼の瞳も、何時もと変わらない穏やかなものだ。

 大丈夫そう?じゃあ、行くわね?


「チェーンバインド!」


 魔法の鎖が生成されて、真っ直ぐにブーちゃんへと…。

 ああっ!しまった!失速しちゃった!このままじゃ、また失敗す…。


【ブハッ!】


 失敗かと思ったら、鎖が引っ張られて、いつの間にかブーちゃんの首に巻かれた。

 ううん。違う。ブーちゃんだ。

彼が落ちそうになった鎖を受け止めて、目にも止まらぬ速さで首に巻いたんだ。その証拠に、結び目が昨日のベールと同じ蝶々の形になってる。

 でもこれって…成功って言えるの?


「素晴らしい!」


 私が戸惑っていると、拍手と共に先生が近付いてきた。


「素晴らしい魔術と魔法だ、バーガンディ嬢」


 そう言う先生の顔には、満面の笑みが浮かんでいる。

 だけど、その瞳だけは鋭かった。

…せ、成功?

これって、成功なんです?


「結果良ければ、全て良かろうなのだ」


そう…なの?

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― 新着の感想 ―
>「素晴らしい魔術と魔法だ」 極太かつ対象がいれば追尾加速して美しく巻き付く上に追尾以降の術式がわかりにくいようになっててすごい!とか思われてたりしないよね……?全部人力、いや豚力なんですが
ブーちゃんは刻印の中にいても外の状況を理解することができるんですね。 これがファミリア共通能力なのかブーちゃんの固有なのかは不明ですが。 クロエ自身もちょっと謎で、鎖自体は太いらしいので瞬間的な魔力…
ケッケッケッ、これは中々愉快…考察しがいがある…召喚者の刻印、一見地味なようで興味深いのは、位置が固定されていないこと。これ、服とかで隠せる場所にあれば、小さいファミリアを気付かれずに召喚して、暗殺と…
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