眠り姫
とある古城で美しい姫が呪いをかけられて永遠に眠っている。
「どれだけの解呪の魔法をかけても姫様は目覚めないのですじゃ」
古くから古城に住まう賢者はそう語る。
聞けばこの賢者は既に数百年は生きているらしいが、そんな彼が幼少の頃からこの姫は眠り続けていたのだという。
「来たる時が来たなら姫は必ず目覚める――そう言われておりますのじゃ。そして私の一族は姫様が目覚めるのを待ち続けておるのですじゃ」
賢者はそう言って言葉を結ぶ。
それと同時に『観客たち』は姫に近づきその美貌に見惚れた。
「あぁ。その線より先には入らんでくださいね。踏み越えたら罰金ですからな」
――まったく。
呆れた賢者だ。
先祖代々から守り続けている眠り姫を観光に利用するなんて。
「あっ、それと出口の方に売店もあります故、もしよろしければ覗いていってほしいのですじゃ」
***
夜。
客が完全に消え去った古城の中、賢者は一人ため息をついて眠り姫に向かって魔法をかけた。
「……ふぅ」
その魔法は賢者が代々引き継いだ偉大なる『眠りの魔法』だった。
「姫様。申し訳ありませんがの。もうしばらく眠っていてください――ワシのためにね」
救い難き賢者は今日もケチな商売をして生きている。