勇者達は白夜の歴史を知るようです その①
615 名前:以下、名無しにかわりまして日曜日夕がお送りします[sage]:2025/08/04(月)18:00:00.00 ID:1399336
(゜∀゜ )(心臓を貫かれた……俺もここまでか)
薄れゆく意識の中で武王は後悔に包まれていた。
兄達の傀儡となって守るべき民を殺めたこと。そんな世界を変えてやると言った魔王を守れなかったこと。勇者に担ぎ上げられ、今度こそ自らの手で世界を変えようと決めたが……それも今まさに挫折しかけている。
結局、なにかを守ることも、なにかを変えることもできなかった。中途半端な自分に対する悔恨の情。
(゜∀゜ )(しかし最後の最後には、ひとりだけ)
武王の目に映ったのは行商人の顔だった。彼は気づいていた。彼女達の一家は、かつて自らが燃やした村の、守るべきだった民であると。
しかし、彼の自己犠牲はしょせん自己満足でしかなかった。女神の一撃から彼女を守った。しかし、どうせ逃げ場はない。ここで女神を倒さなければ、彼女は殺されてしまうだけだ。
(゜∀゜ )(いやだ、そんなのは嫌だ。そんなの、あの"白夜"の繰り返しだ)
(゜∀゜ )(今度こそ守るんだ、民を。だから俺は……立ち上がらねぇと!)
(゜∀ー;)(動けよ、腕ぇ!)
(゜∀ー;)(動けよ、脚ぃ!)
(゜∀゜ )(……!)
精神が肉体を凌駕したのか、不思議と力が湧き上がってくるのを感じた。胸の痛みも消えている!いまなら、いまこそ!
(゜∀゜#)「立ち上がれ、俺ぇ!!」
全身全霊の力を込め、武王が再び立ち上がるッッ!
そこは、医務室のベッドの上ッッ!
(゜∀゜ )「……は?」
(*ФAФ)「ロナルドが、ロナルドが立ったぁっ!!」
( ФДФ)「あ、おはようございます。流石は武王様、病み上がりなのにお元気で」
横を見れば、自分が守ろうとした彼女もベッドの上で休んでいて、息子にリンゴを剥いてもらっている。
( ФДФ)「リンゴ食べます?」
(゜∀゜ )「……え?」
616 名前:以下、名無しにかわりまして日曜日夕がお送りします[sage]:2025/08/04(月)18:00:00.00 ID:1399336
武王の決意も空しく、彼が眠っている間に事態は終息していた。
フィオレ王国の領主館を襲撃した女神は謎の力で砂となって消えた。4柱に分身していたが全員消えた。じきにセバスチャンがフィオレ騎士団を連れてきて、戦士や、女神と死闘を繰り広げていた道化師達は救助された。そして武王も行商人の商品のひとつ「聖水(非認可)」で一命をとりとめていた。
しかし事態は終息しても、勇者達にとっては多くの疑問が残されたままであった……
617 名前:以下、名無しにかわりまして日曜日夕がお送りします[sage]:2025/08/04(月)18:00:00.00 ID:1399336
【フィオレ王国 領主館 会議室】
( ・∀・)「えー……なんか突然、女神が砂になって散ったおかげで俺達助かりました」
( ・∀・)「誰か説明して下さい」
ξ*゜⊿゜)ξ「……」(´ハ` )
( ーωー)「……」(=ω=*)
ミ ゜ω゜)「……」ミ● ● 彡
(´・ω・)「……」(゜、゜*)
( ’A`)「……」[●皿●天]
( ^ω^)「いや普通に俺達も聞きたいんだけど」
戦士の言う通りであった。一体、なにが起きたのか、起きていたのか。聞きたいのは自分の方だと、皆一様に口を噤んでいた。
そんな中でひとり、フィオレ国王が口を開いた。
( ^⊿^)「……ひとつ心当たりがあります」
(・∀・;)「おっ国王様」
( ^⊿^)「行商人さん達一家、そしてウチのメイドが持っていた"お守り"、その力だと思います」
( ーωー)「……!」
(´・ω・)「お守り?」
( ’A`)「まさか神頼みに効果があったってワケか?」
( ^ω^)「いやでも俺達、その神様に殺されかけたじゃん」
( ^ω^)「水の大天使なんて、未だにバグってるし」
[●皿●天]「copylight(C)0000 Golemeth,Inc. CPU:AgamemathDawnFaith Boot failure. PRESS ANY KEY TO EXIT.」
( ’A`)「どこにキーがあんだよ」
(・∀・;)「……国王様、話を続けてもらっても?」
(;^⊿^)「あっはい」
( ^⊿^)「あのお守りは、かつてこのフィオレの地に栄えていた"タットム教"のもの」
(゜、゜*)「どこかで聞いた名前ね」
( ^ω^)「俺は知らねぇぞ?」
(;・∀・)「エルフの村で長老が言って……あ、そうか戦士あの時いなかったっけ」
ξ*゜⊿゜)ξ「お父様、私も"タットム教"なんて聞いたことがありませんわ。教えて下さいまし」
( ^⊿^)「お前が知らないのも無理はない。マルク帝国では、その名前は徹底的に秘匿されているからな」
( ^⊿^)「とは言っても私も、"タットム教"が実際にどんな信仰だったのか、詳しくは知らない。"タットム教"の信徒はもはやこの世にはいないし、原典だって帝国によって消されている」
(・∀・;)「ちょっと待って下さい。なら、アナタは何故、行商人さん達のお守りが"タットム教"のものだと分かったんですか?」
( ^⊿^)「"タットム教"という器が失くなっても、その神への信仰が失われることはなかった、ということです」
(・∀・;)「?」
( ^⊿^)「まぁ、なんというか、これは私より行商人さんの方が詳しいでしょう」
(ーωー )「……」
( ^⊿^)「行商人さん、アナタは聖アガメマス教会北麓派ですね?」
(ーωー )「ええ。その通りです。僕は幼い頃から、女神様とは別に山の神様がいる、そう教えられていました」
ξ;゜⊿゜)ξ「山の神様?なんですのそれ?」
(ーωー )「なに、と仰られても山の神様は山の神様ですからねぇ……イテーツクの峰から僕達を見守ってくださる、女神様の旦那様といったところでしょうか」
ξ;゜⊿゜)ξ「女神様に、夫?いやいやいやいや、そんなの聞いたことがありませんわ!」
ξ*゜⊿゜)ξ「女神様はシゴデキキャリアウーマン!男なんていませんわ!」
(ーωー;)「そう言われましても……山の神様は、働く女神様の帰りを待つ、家内安全の神様。北麓派はそういう教えなのです」
(ーωー )「そして彼の象徴こそ、家造りに必須の"釘"なのです」
行商人はそういうと、懐からお守りを取り出した。
(ーωー )「だから僕達は"釘"をお守りとして肌身離さず持ち歩くのです」
ξ;゜⊿゜)ξ「なんですのそれ……アナタ、ホントに聖アガメマス教徒?」
(ーωー )「ええ。ただもちろん、中央の人々とは少し違うことは自覚してますよ」
ξ;゜⊿゜)ξ「少しどころじゃないですわ!」
(^ω^ )「同じ宗教なのに、なんか設定が違う」
(^ω^ )「あっこれ前に教えてもらったことあるかもしんない!」
(゜、゜*)「あら、少しは賢くなったわね」
(・∀・ )「つまり北麓派とは、"異端信仰"ですか?」
(;^⊿^)「ええ、仰る通り。彼らは聖アガメマス教会でありながら、山岳地方の伝統信仰を色濃く残した集団でした」
(・ω・`)「でした。過去形の意味は?」
(;ー⊿ー)「耳聡いですね……さすがです」
(;ー⊿ー)「北麓派も、もはやどの記録にも残らぬ存在となっています。十年前、マルク帝国がこのフィオレの地で行った"正統な編纂"によってね」
(゜、゜*)「"正統な編纂"?帝国はなにをしたの?」
(;^⊿^)「村ごと、信仰を燃やし尽くしたのです」
(゜、゜;)「……はぁ?」
( ^⊿^)「北麓派の住民が住む村を聖伐軍が包囲し、教会、図書館、民家を、ことごとく焼いたのです……全てを"なかったこと"にするために」
( ^⊿^)「その炎は一晩中つづいた為、こう呼ばれています」
( ^⊿^)「"白夜"と」




