第8話 スライムテイマーの天啓。
そうして、スライムの可能性を探求している内に夜を迎え、ハジーを歓迎する宴会が行われた。
「ーー・・ハジー殿。先、シレイから聞きましたが、壮絶の1日でしたの」
ろう十郎がハジーのコップにぶどうジュースを注いで、内容の濃い今日を労っていた。
「は、はい....ど、どうも(すごい、新種族かな...)」
やはり入念に今までを思い返してみても、奇妙な甲冑や剣を携えたモンスターは見たことも聞いたこともなかった。
「....あ、美味しい。」
気になったままではあるが、直接聞く胆力を持ち合わせていなかったため、聞けずじまいの中注がれたジュースを飲むと、その清涼でクセのないジュースに感動した。
「じゃろ?これはここら辺に自生していた果実を改良してな.....」
こだわりの品を褒められた東元は、つい話し込みそうになったところで、虚空から得体の知れないものが現れた。
「・・ふぅーん、楽しそうだね。東元さん?」
「おっ、飲んでおるか?トゥラン」
「それよりもー、ハジーさんがお気に入りになったの?」
結界の効能で薩摩内で起きたことは、全て把握しているトゥランは既にハジーのプロファイルを終わらせていた。
「うぇ?!...東元さんって...そ、そういう...ゴニョゴニョ..」
いいタイミングでやってきた口いっぱいに肉を頬張っていたシレイは、まんまと勘違いしていた。
だが、ハジーは勘違いするには十分すぎるほどの要素を持っていた。
今もなお月明かりに照らされ輝いている銀髪に、透き通るような白い肌、白銀色の綺麗な瞳と幻想的なまでな雰囲気を纏っていた。
「....あの....東元...さん?」
東元のキリッとした精悍な瞳に魅入られていた、ハジーは先のシレイの発言もあってか反応に困っていた。
「...うむ、イケる。」
東元は一拍置いたのち、顎に手を添えながらキメ顔でそう言い切った。
「なっ?!」
「ふーん。」
「ほぅ。」
結構真剣なジャッジがなされた上での発言だったため、一同は多種多様な反応を示しており、妙な雰囲気が流れていた。
そんな空気を変えるかのように、ハジーが口火を開いた。
「....あのっ、とにかく!僕なんかが、こんな待遇を受けても....良いのでしょうか...」
『ーースライムだけしかテイムできない?テイマーの意味ないだろ、それーー』
『ーースライムって!ははははっ!うっそだろお前』
『ーースライムに何ができんだよっ!がははははっ』
失業したその日に、王宮お抱えのテイマーにも見劣りしない程の福利厚生を提示されていたハジーは、あまりに自分に都合が良い今の状況を受け入れきれず、散々馬鹿にされてきた記憶が蘇る。
しかし、それは今までの話に過ぎなかった。
「....うむ。今日、実験したすぅらいむの農業転用が軌道に乗れば、我が国のみならずこの世界の飢餓を完全に排斥しうる。それはハジー殿と、ハジー殿のすぅらいむたちのお陰であると言っても過言ではない。」
彼の言葉を聞いた東元は一寸目を見開き、真剣な様子で改めて彼の潜在能力と、彼のスライムたちを絶賛好評した。
「っ.....」
彼の世辞のない評定は、確かにハジーの心を撃ち抜き、何より彼のスライムが評価された事に彼の目から涙が浮かびこぼれ落ちそうになっていた。
ーーおそらく彼以上に自分を評価してくれるのは、これから現れるかどうかわからない。だからこそ、ここでもう一度、彼に、この国に支えるのを表明するべきなのであろう。
そして、そこまで評価してくれている方だからこそ、ここに来てからずっと引っかかっていた事を聞かなくてはならない。
「....東元さんは、一体、何に向かっているのですか?」
モンスターの家畜化や、おそらく結界?とやらで物理的に不作を排斥する設計になっている食料インフラの整備、豊穣な魔石資源開発、そして、魔物と人間が共存している社会システムの構築。
おそらく、この街を国に昇華させるのはわかるが、その先に何を見据えているのか、より豊かな資源を求めて侵略戦争か、それとも、他国への干渉を最小限に平和な国にしたいのか、その先を知りたかった。
「...民が、人が、安心して自由に暮らせる世にする事だ。」
少し間を置いて、東元さんは月明かりに霞まない夜空の星々を見据え、誓うようにそういった。
「.....」
子供の頃から不思議だった。
いつも、物語の中では魔王が悪で、最後は正義の勇者が打ち倒して物語が終わる。
そう、そこで終わるのである。
魔王が討ち取られ、平和にはなるだろうが、次は同盟国だった人間同士の戦争になり、重ねて作物が不作になれば飢饉が起きて大勢の人が死ぬ。そして、領主の税金と国税は絶対に無くならないし、税が軽くなるわけではない。
むしろ、より現実に落とし込むのであれば、魔王との戦争で使いすぎた戦費を償却するために税は上がり、人々は魔王が世界を脅かしていた時よりも貧しく、そして、飢え死ぬであろう。
実際、西の大陸最強のウル・ゴールド帝国は、一昔前に前代の魔王を打ち倒したが、その後莫大な戦費を返すために、税を上げ、他国への侵略戦争の末、つい数十年前にようやく返し終わった。
戦争が善か悪かなんて、どうでも良くて、そんなことより、その果てに何を見ているのかが知りたかった。
そして、今、その答を持つ人が僕の目の前に現れた。
ハジーは今一度、その白銀に輝く真っ直ぐな瞳を彼へ向けた。
「....東元さん。僕をこの国に支えさせて頂きたい。」
そして、彼はこの国に支えると誓った。
「うむ。歓迎する。ハジー・クラウン殿。」
「っ....はいっ!」
東元は満面の笑みで、彼へと手を差し出すと、ハジーは感極まった様子で彼の握手に答えた。
「..あっ、あの、今更なのですが、ここの国の名前は...」
「あぁ、改めて歓迎する。ようこそ....」
「「「薩摩國へ。」」」
そして、そういえばと失念していたことを聞くと、示し合わせたかのように、彼の周囲にいた薩摩民達がハジーを歓迎した。