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第7話 すぅらいむテイマー


僕の生まれは、アメハラス南端のガサワラ村という小さな農村だった。


温暖で、四季が豊かなアメハラス王国は綺麗な水に、動植物に富み、領主の税は厳しくとも、家族ともに健康で特に困ることなく、何ら平和に暮らせていた。


ただ、あまり人とのコミュニケーションが得意でなかったせいか、友達が少なかった。


まぁ、その分、いつも野生のスライムとウニョウニョしたり、猫のミキや牧羊犬のライデルたちと戯れていたり、懇意にしている行商人さんから時折、代金の代わりに大量の本が支払われ、その本の殆どを読破するくらい夢中になっていたため、総じて村での生活はそこまで寂しくはなかった


いや、強がりじゃないから、実は幼馴染の女の子に片想いとかしてないから


とにかく、特に困ることもなく、海風がのんびりと吹く農村で平和に暮らしていた。


しかし、僕が近所の教会で恩恵を受ける一年前....そう、あれは13の年だった。


アメハラスはとある一件を境に、西大陸最大の国、ウル・ゴールド帝国と戦争状態になった。


帝国からの貿易は止まり、主要産業であった絹・綿産業は大打撃を受け、急遽必要となった戦費を調達するために前年度に完了した最新の織物機は売払い、その金は砲弾や魔道具や魔石加工、エンチャント武器の生成などの戦略物資に当てられた。


それら影響は南端の僕の村にまで影響した。


僕の村と近所の村々くらいしか使っていなかった漁港は増設され、軍港となったが、三ヶ月を持たずに早々に多数の海洋テイマーや魔導士を乗せた海軍戦力を半壊させられ、機能不全を迎えたところでアメハラスは、地上戦に向けてカツかつの財政を振り絞り、沿岸部の要塞化を行なった。


そして、血みどろの地上戦を覚悟したところで、クレムリン教会が調停者となり、一年にも及ぶ帝国との戦争はあっけなく終結した。


運よく、徴兵される前に戦争は終結し、そしてやはり戦火から最も遠い南端の村で、自給自足の生活を営んでいたためか、戦時中も戦後も特にこれといって変わらない生活をしていた。


そして、戦争が終わった次の年。僕は15歳を迎え教会で恩恵を受け、テイマーのギフテッドを授かった。


それを両親に知らせた時は、号泣されながら抱擁され、しばらく離してくれなかった。


後から知ったことだが、テイマーは僕が机上で知っていた以上に、戦略的に重要なピースであり、歴代の勇者には、テイマーのギフテッドを持っている者も少なくなく、中にはたった一人で一国を滅ぼせる程、強力で、大勢の魔物をテイムした者も居たらしい。


いや、童話とか伝説とかでは知ってたけど、本当に勇者っているのかと驚いたのを覚えている。


ともかく、もう少しでも戦争が長引けば、僕も戦場に駆り出されるか、もしくは学院で訓練を受けていただろう、まぁ、どちらにせよ次の戦争では戦場に駆り出されるのは確定だった。


だから、僕は村を出た。


両親には、最後の最後まで引き留められたが、それでも僕は強くなってこの村を守るために、シレトコ島へと向かった。


シレトコ島は、西の大陸でも有数な強力なモンスターが生息しており、まだ見ぬ未開の大地に惹かれ、西の大陸でも上澄みの冒険者が訪れていた。


そして、彼ら冒険者は王宮抱えの魔道士や、勇者を上回る強者も多く、成長し、切磋琢磨して、強くなるには最適な場所だった。


もちろん戦争には行きたくないが、もしその時になった時に僕の好きな村を、この国を守れるように強くなりたかった。


のだが、僕はスライムしかテイムできず、結局3年間鳴かず飛ばずで、EやFランクの依頼を受けたり駆け出し冒険者のチュートリアルを手伝ったりしていた。


そんな事をして迎えた4年目に運よく後輩のパーティーに拾って貰った。


しかし、未だスライムしか扱えていなかった僕は荷物持ちや、雑用やサポートばかりしており、しまいには税金の帳簿を作ったり報告書を作成したりなど、殆ど事務員みたいな働きに注力していた。


そして、後輩のパーティーに加わって一年でCランクへと昇格が決まった所で、無事リストラされてしまった。


まぁ、実際、言い方はともかくとして、彼の言い分は正当性があり、これまでは騙し騙し工夫と研鑽を重ねながらやり過ごしてきたが、彼らのこれからの冒険にはスライムテイマーのままではついていけないのは事実であった。


そして、僕は何より、ここまで僕の冒険についてきてくれたスライム達に申し訳ない気持ちで、一杯だった。


(本当に、すまない。僕が未熟なあまりに君たちの力を引き出せなくて.....すまない...)


スライム達への申し訳なさと、彼らを生かしきれなかったテイマーとしての未熟さに打ちひしがれている中....


あの日、教会で女神様から天恵を受けた、あの日に感じた眩い光と全てが認められるような温かい光を放つ、女神様が目の前に現れた。


「・・.....お話しっ!よろしいですか?!」





「ーーー・・よぉ来たっ!!わしゃここの街の長をしとる東元 慶喜だ。歓迎する!すぅらいむテイマー殿!」


女神のような彼女が持っていた、帝国でも量産化にあぐねている転移石で連れてこられた街?に居たのは見慣れない服を羽織い、髪を頭頂に一本に結んだ剣士だった。


「え、あ....ど、どうも。」


どうやって転移石を調達したのか、なぜ大陸有数の冒険者でも辿り着けない場所に街があるのか、そして、道行くモンスターが人の言葉を流暢に話しているのか、たとえ今がリストラされる前のシラフでも理解が追いつかなかっただろう状況に陥っていた。


「して、名を伺っても良いか?」


「あっ!僕の名前はハジー・クラウンです。え、ぁ、テイマーの恩恵を持っていまして....」


まだ状況に追いついていない中、彼は慌てて自己紹介を行なった。


名前: ハジー・クラウン。 Lv.15

称号:スライムテイマー。

スキル:錬金術Lv.2。草むしりLv.25。


体力: 15

魔力: 200

筋力: 45

耐久力: 50

敏捷性: 100

知性: 2000

運: 1100


「うむ、よろしゅうなハジー!早速だが色々と見せたいものがある。」


そして、早急に鑑定を終えた東元は戸惑っているであろう彼の心境を察し、まずは街の案内から始めることにした。


「ーー・・ここが行政機関で、ここが鍛冶屋、魚卸屋、ここは薬屋...あ、これがこの国の通貨じゃ。金比率はアメハラスのように誤魔化しとらんぞ、そしてあそこにいるのが...」


「...あ、え...うわっ....すご」


彼の街とされるここでは、魔物も人も関係なく自由に活動しており、あるものは商売にふけていたり、本でも見たことのない精錬方法をしている鍛冶屋や、錬金術を駆使して薬屋を営んでいる者もおり、独自の経済圏を構築していた。


そして、何よりこの街の本通りであろう、ここの通りは特に活気にあふれており、何よりゴミや糞尿がその辺に散乱することはなく、逐一店先の店員が掃除を自主的に行なっていた。


それらの風景はシレトコ島に上陸する前に寄った王都の栄えにも及んでいるように見えた。


「...やぁ、新入りかい?これ食べな!」


「え、あ...はい。これは...」


店先を通ったところ、八百屋のウサ耳のばあちゃんからりんごを渡されたハジーは思ったよりも大きく張りのあるりんごに感心していた。


「うまいぞ、食ってみ。」


「は、はい....ぁ...美味しい。」


王都の市場でも、状態が良いものでも味が抜けていたりするが、これはそのどれにも当てはまらず甘味で水気が程よく、今まで食べていたりんごが偽物のように感じさせられた。


「....でも、どうやって...」


「それは次のところで説明しよう!」


異様な高品質の要因を考え、疑問を呟いていると、見かねた東元が人差し指を突き立て、満天の笑みでハジーに笑いかけた。




そして、次に訪れたのは中心街から少し離れた酪農地域で、そこで目にしたのは更に意味不明な光景だった。


そこには、この島の特殊かつその凶暴さ故、家畜化に困難を極めるであろうモンスターたちがダイハードバッファローや、クロックピッグ、タイソンバードなど、どれも大陸では上位ランクのパーティーでも討伐に覚悟のいるモンスターが、奇妙な護石が埋め込まれた柵の中で、のんびりと干草を食べていた。


東元が色々と説明はしていたものの、出てくる単語や論理は知らないものばかりで、呆然としてる最中続けて、向かったのは農業地帯だった。


いくら家畜化されているとはいえ、強力なモンスターがいる中では中々感じれなかったここ一帯ののどかな空気に身を任せていると、ついついハジーの口が緩んだ。


「....うぅーん、気分が良いですね..」


故郷の村に似た空気を久しぶりに感じたハジーは、体を伸ばし心地の良い日向を包容していた。


「あぁ、ここは最も特異な結界を施しているからの...」


「...あのー、さっきから気になっていたんですが、結界って何なんでしょうか?」


当たり前のように話していたそれは、今まで読んだ本でも知り得なかった単語であった。


「それは、当人が来た方が説明しやすい」


「な、なるほど...」


この街に来たときもそうであったが、この街の空気は少し異質で、スライムたちの様子も少しおかしかった。それが結界の力かはわからないが、無関係という訳でもなさそうであった。


甲斐甲斐しく案内してくれる東元さんの素性は未だわからないが、今さっき会った仲でしかないのに、妙に心が安らいでいた。


そんな事をぼんやりと考えていると、浅池?に植えられている稲穂らしき物が目に入った。


「....これは、小麦...ではなさそうですね..」


「よぉ気づいたの!これは米じゃ」


「米?小麦の一種ですか?」


農業に従事していた身だったため、時折、街の交易都市や港の市場で様々な食物に触れていたが、そのどれもに当てはまらない回答だった。


「あー、そういや本土にはないんだったか....」


開拓して間もない頃、野生化していた米の群衆地を引き当て簡易石臼で漉し、石釜で炊いた米をシレイたちにご馳走した時は、あまりの美味さに感涙していたのを思い出した。


「?....えぇ、本土でも見たことはありません。飼料用でしょうか?」


「まぁ、古くなった備蓄米は家畜にやっとるが、基本は民が食べる。まぁ、後で用意するけ、食ってみ」


「は、はい...」


この日の夜、炊き立てのご飯を食べたハジーが歓喜したのは言うまでもなかった。




農業地帯の用水路を辿って、のどかな田園地帯から一転して次に連れてこられたのは肥溜めであった。


「・・す、すごい臭いですね....」


「あー、あれは下水道から引かれた糞尿をため池に入れておってな、その都度別の堀に入れ替え発酵熱で、寄生虫や病原菌を死滅させてから下肥にして、ここら一帯の農作地帯の土に馴染ませているのだが、中々、工程の速さが足りなくてのぉ、」


「ほぉ...あの、試しに、僕のスライムをあそこに放流しても良いでしょうか?」


「うむ」


常にスライムの活かし方を考え続けていた癖で、彼の話を聞いている中で一瞬でアイディアが閃き、東元からの許可を得た彼の防具や、籠手、フードなどの服の中から、どこからともなくスライムが現れため池へと向かわせていた。


「みんな、お願いね。」


無色に近かった彼のスライムは、次第にため池の色が浸透し、細胞が活性化しているような僅かな光が、ため池にポツポツと浮かんでいた。


すると、瞬く間に糞の色をしていたため池は、ハジーのスライムがいる所を起点にどんどんと浄化されていき、下水路に引く前の透明な山水に近くなってきた。


「....ほぅ」


大体は予想してたとはいえ、汚れていた水が段々と綺麗で清潔な水に戻っていく様は、この世界に来て一番驚愕した。


「...それと、おいで!....うっ、ちょっと臭うか...とにかく、先の所へと向かいましょう」


「うむっ」


ハジーのやりたい事はこれからのようで、変容したスライムを呼び、そのスライムを連れて先の農業地帯へと向かった。


「・・ここで、良いか?」


「はい大丈夫です。じゃあ...お願いね。」


彼の指示を受けた少し臭う茶色スライムは、種付前の畑に向かい土の中に潜っていった。


「「....。」」


「ッ!」


地中で畑を耕しているのか、地面が蠢いているのを眺めていると先のスライムが体を出し、畑の地表を闊歩したかと思えば、また地面の中へと潜っていった。


「わぁー、うまく行きましたね!」


「.....っ」


ハジーの閃きは実を結んだようで、一方で東元は茶色スライムが耕したところの土を手に取り感触を確かめていた。


「...と、東元さん?」


「....ハジー・クラウン殿。」


そして、大体を確かめた東元は神妙な面持ちで、ハジーに向き直り名を呼んだ


「は、はいっ!」


何かやってしまったかと思い背筋を伸ばしたが、それはすぐに覆された。


「ワシは、ハジー殿のようなテイマーを探していた。貴殿をこの国に迎え入れたい。」


「....はい、僕で良ければよろしくお願い致します。」


その言葉はまるで想い人に積年の思いを伝えるかのように、ただ真っ直ぐで清々しく、答は得ていた。


その後、通常のスライムよりも10倍は下らないデカさのスライムを用いて、任意の範囲の畑を丸ごと覆い、現代で言うビニールハウス的な運用方法を試すと、日照量と湿度、温度、空気の量などもスライムが調整できるらしく、これからの進化によってはより最適化できる可能性があるらしい。


また、肥溜めにスライムを自生させ、形質が変容してから別途設けた通路から、畑へと直行し畑を耕すと同時に畑を肥やすシステムを確立させ、それは米の区間も同様であった。


また、これらから分かるように、ハジーは自身がテイムしているスライムに任意の指示を行えるらしく、ステータスパネルから管理でき、種付けや、水やりだけをするスライム、ゴミを処理するスライムなどによる分業化も可能で、単純作業の自動化が大きく進んだ。


そして、彼のテイムできるスライムの許容量であるが、自動化したスライムを含めても際限は見当たらないらしい。

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