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第3話 異常事態。

元々あった田畑の改修を女手に任せ、足の悪いものや力仕事に従事できない者は衣服の修繕や、軽くまとめた剣術、戦術戦法、農法、保蔵法などに関する書物の複製をお願いした。


そして、子供らには、実質的な薩摩藩の武士に相当するテイムされた民を先生として、手始めにと基本的な剣術を教えていた。


「ーー・・脇を締め、重心を下ろすと同時に叩き落とす。」


そう言って模擬形式の組み手として、テイム民が刀を振り下ろした。


「ぬんっ!!」


ズンっ!!


相手は刀で受け切り、その際の衝撃波が子供らの頬を切った。


「「「......。」」」


「っ!....よし、やってみろ」


「「「いやいやいや」」」


集められた子供らは、いきなり化け物染みたパフォーマンスを見せられ、さらにはそれを実演してみろと言われ全力で首を横に振っていた。


「俺ら天恵にすら見捨てられたんだぞっ!」


「そうだそうだ!」


「無茶苦茶だよぉ...」


口減らしで奴隷として売り飛ばされ、女神から授かれる天恵と言われるギフテッドすら貰えなかった彼らにとっては、薩摩の郷中スパルタ教育は少々酷だった。


「うむ、どうしても無理なれば内職に移っても良い。」


「なら僕はそっち....」


初日で心が折れかけていた彼らの中、一人東元に肩車されていた男の子は拙くとも、一人淡々と素振りをしていた。


「...ふんっ!...ふんっ!..」


「「....。」」


彼からは何を言わずとも、もう守られるだけでは嫌だという思いが滲み出ていた。


「...先生。もう一度、お手本を見せてください・・ーー」


そして、他の者らも彼と同じ魂を有していた。




「ーー・・うむうむ、順調であるな。ろう助。」


「はっ」


 簡易的な行政執行機能を冠した建物で、テイム民らが作成した報告書を眺めていた。


「して、子供らはどうだ?」


「えぇ、初めは乗り気ではありませんでしたが、今は皆精進してます。」


「うむ。して、この辺りに人里は少ないのか?」


そこまでは想定内であり、今はそれよりも仮・薩摩国周囲の環境を把握する方が先だった。


「はい、この島自体、本土から離れていて、尚且つ強力なモンスター達が生息しているので、せいぜい開拓民か冒険者くらいです。」


「冒険者?」


開拓民ならとにかく、その単語は前の世界でも聞きみ馴染みがないものだった。


「はい、ギルドという組合に属して、依頼に応じてダンジョン攻略したり、モンスターを討伐したりする人たちです。」


シレイが付け加えるように説明すると、続いて質問が返った。


「うむ、兵とは違うのか?」


「あー、いえあくまで括りとしては個人ですね。主人がいるわけではないので。」


「ふむ、しかし...なぜモンスターが多い島を奴隷商がわざわざ通ったのだ?」


老婆と子供と正直使い道は限られているであろう面子だったため、そこまでの危険を犯すまでの価値があったのか甚だ疑問だった。


「恐らくですが、東の大陸に送ろうとしたのだと思います。」


同じくテイム民である、ろう十郎は壁に貼り付けられた世界地図を指した。


「その心は?」


「東の大陸は魔族が住まう大陸です。今はアメハラスの北対岸にある帝国が牽制しているため国交が断絶されてます。私見でしかないですが、ルート自体は魔族が用意したルートで、彼らの用途としては、恐らく儀式か実験か何かで人間が欲しいのでしょう。」


「ほう、魔族と来たか。」


聖書で出てきたような名の者や、帝国と、続々と新たな情報が表明しており、前の世界と変わらず乱世の世界に来たことを改めて実感した。


「...滾るのぉ」


「え...あの...東元さん?!」


そして、魔族の意図を頭の片隅に一旦置いておき、まだ見ぬ強敵達を想像している東元の体からは真っ赤な闘気が溢れ出していた。



開拓と開発が順調に進む中、魔族や帝国など一銭の油断を禁じぬ存在を知ったため、一分たりとも時間を無駄にせんとして、海岸でシレイから魔法についてレクチャーをしてもらっていた。


「・・ほぉ、これが魔法か。」


「うわっ、一発で出来たんですか...ほんと、何者なんですか...」


簡易的な生活魔法を教えたシレイは、すでに応用までこなし、炎でできた虎と雷の竜を流動的に交差させ自由自在に操っている東元に驚愕していた。


「不思議じゃのぉ、自分は熱ぅないのに対象には影響を及ぼすとは。」


「理論的に解明されているわけではないのですが、自分の匂いがわからないのと一緒で、自身が生み出したものは自己に影響を与えないとかなんとか...」


「うーむ、わからんような、わかるような....しかし、これは...」


魔法の類は大体把握できた彼だったが、少々気になる点があった。


『・・主。敵襲です。』


『すぐ向かう。』


「わっ...ちょぅ?!」


ろう助からの念話を受けた東元は、シレイを担いですぐさま拠点へと向かった。



「・・ウギャギャっ?」


「ウギィ!!」


「ウギョっ?!」


数分もかからずに本拠点に戻ってはきたものの、既に全盛の島津軍に匹敵するクラスの兵法と戦闘力をインストールされたテイム民が見張り台の上から一方的に蹂躙していた。


「なーんじゃ、終わっちゃったのかい...」


レイドしにきたリザードン型の獣人は、完全に気配を消して物陰に隠れている完全武装のテイム民に向かって敗走しており、あとは挟み撃ちを待つだけであり決着はついていた。


「...うわぁ」


未だ担がれているシレイは、案の定挟み撃ちにされたリザードン達を同情気味に眺めていた。


「...そろそろ、戻るか....ん?」


「・・うぎゃっ!!ウギギギギィ!!!!」


大体のテイム民の力量と兵力を把握した東元は報告を聞きに帰ろうとしたが、目の端で首を刎ねられたはずのリザードンが立ち上がり、瘴気が立ち上ったのを視認した。


(あれはっ!!)


まさにこの世界に連れてきた元凶である朝鮮の将軍が持っていた首飾りと、同じ空気を纏っていた。


そして、続けて瘴気が歪な魔法陣を形成されると、前の世界では見たことのない何かが顕現した。


「.....xa.....iu.....kko」


「うわわわわっ?!なんですかアレェ?!」


「シレイ。下がっちょっれ。」


「はいぃぃっ」


彼に言われずとも、安全なところへと引き下がっていた。


そして、彼は念話でコンタクトをとった。


『ろう十郎聞こえるか』


『はい、あれは....』


『紛い神じゃ、まぁ説明は後。あいつを関門から離れさせろ』


「グンッ!!」


彼からの命を受けたろう十郎は、すぐさま禍々しいソレを関門の反対方向へと押し切った。


「deux...」


効いている様子はないが、ソレは多少は怯んだように見えた。


そして、その間に東元はろう十郎の元へと着地した。


「主...あれは...」


再会を憂う余裕なく、ろう十郎はソレへの視線を切らなかった。


「...まずいな、土壌が汚染されちょる。」


「skn..f.wf..ax」


先までソレが居た場所と、だんだんと図体がデカくなっているソレを中心に土壌と空気が瘴気で汚染され続けていた。


「...ぐっ...」


「...ろう十郎。お主らは見張り台から弓で援護を。」


刀でソレを押し切ったろう十郎の右腕は、瘴気に冒されており、見かねた東元は遠回しに撤退を命じた。


「し、しかしっ!」


「任せちょれ、あれはワシが倒す。」


「....御意。」


自身の無力さを押し殺しながら、彼は主の命を遂行した。


「・・シッ!!」


「dad....dsxxx」


「オラっ!!」


「....ss」


ろう十郎が離脱し、黒いミミズの集合体のようになったソレを前にして、東元は正直攻めあぐねていた。


「スゥ....しっかし、どうするかのぉ..」


瘴気に触れずして、剣撃の風圧で攻撃はしてみたはいいものの一向にダメージが効いている素振りがなかったのである。


「f..cds...em..」


そして、ソレは今も尚増殖を続け最初見た時よりも、一二回り肥大化した体になってしまった。


「....放てっ!」


距離を取り、見張り台の上から待ち構えていたろう十郎らに、属性魔法も施された一斉射撃を命じた。


「....ska....ddd」


炎や水、土、雷と今ある兵の手札を持ってしても、一向にソレ自体に影響を及ぼしている様子はなく、本当にソレが目の前にあるのかすら定かではなかった。


「...魔法も無効、物理も無効...」


東元は何度鑑定スキルを発動し直しても、自らと同じく意味不明なステータスしか映されないソレから距離をとり相対した。


ーーーーーーーーーー

名前: ????

称号:・・・・・・

スキル:・・・・・

加護:・・・・


体力: ・

魔力: ・

筋力: ・

耐久力: ・

敏捷性: ・

知性 : ・

運: ・

?:・

ーーーーーーー



「・・こりゃ、ほんまの紛い神やな。」


ーー・・紛い神。


ソレは、かつて人々に祀られていた神様が時の流れとともに忘れられてしまい、神体を保てなくなり紛いに堕ちてしまったモノ。


歴史に無かったことにされているが、直近では 1402年 (応永8年) 京都の街に百鬼夜行として顕現し、京都の街を酒池肉林に堕とし、最後に他の神様でようやく鎮められた。


そう、紛い神を鎮められるのは、神様だけである。


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