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『威力減衰』という外れスキルのせいで追放された僕が、S級冒険者に声をかけられた

作者: 衣谷強

思い付き短編です。

流行りに乗っているようで乗ってない、少し乗ってる短編です。


どうぞお楽しみください。

「ウィーケン。お前はクビだ」

「く、クビ!?」


 ノゴードさんの言葉に、僕は思わず叫んでしまった。

 ギルドにいる人達の視線に、慌てて口を押さえる。


「な、何でクビなんですか……?」

「お前のスキルが使えないからだよ。何だよ『威力減衰』って」

「だ、だけど守備役のウォルさんのダメージを減らしたり、ウィズさんの魔法障壁の補助をしたり……」

「それでも良くて半減だ。『無効化』じゃないなら、結局回復したり防御したりしなきゃいけないじゃないか」

「……それは、そう、ですけど……」

「それに『威力操作』じゃなくて『減衰』だけだから、こっちの攻撃の威力を上げる事もできない。そんな中途半端なスキルはいらないんだよ」

「う……」


 そう言われると言い返せない……。

 僕のスキルは、威力を弱める幕を生み出す力。

 しかも僕からの距離が離れたら離れただけ減衰率は下がる。

 『魔法攻撃無効』とか『威力操作』なんてスキルがある中で、僕のスキルが中途半端なのは事実だ……。


「そして俺が『魔法無効化』のスキル持ちをスカウトして来たのさ」

「え……!?」

「そうしたらお前がいる意味はないだろう?」

「……う……」


 ……そうだよな。

 僕のできる事なんて大した事はない……。

 『無効化』スキルに敵うわけはないんだ……。


「さ、この離脱申請書に署名してくれ。そうしたらそこのギルドの受付で手続き終了。効率的だろ?」

「……はい……」


 言われるままに署名をする。

 これで僕は『暁月あかつき』から離れるんだな……。

 皆にお礼もお詫びもできないまま……。

 寂しいし、悲しい……。


「よし、じゃあ書」

「よし! 書いたな! ならば私が受付に持って行こう!」

「えっ」

「ちょ……! え、あんた何を……!?」


 感傷に浸っていた僕から署名済みの離脱申請書を奪った人が、凄い勢いで受付に飛び込むと、


「ウィーケンと言ったな! これでお前はどこの所属でもなくなったんだろう!? 私に力を貸してくれ!」


 凄い勢いで駆け戻って来た!

 え、ど、どういう事!?


「そ、その透き通るような青髪……! 全身を覆う黒いローブ! 貴女はまさか蒼炎そうえんの……!?」

「そんな仰々しい名を名乗った覚えはないな! 私の名はセレスト! それ以上でもそれ以下でもない!」


 え。

 え?

 えぇ!?

 ノゴードさんの言葉に、改めてその姿に目を向ける!

 目を奪われる青銀の髪!

 それが癖っ毛だから、まるで燃え立つ炎のよう……!

 そして同じく燃えるような青い瞳……!

 それ以外が黒いローブで覆われているから、一際目立つ!


「よろしくな!」


 にやっと笑うセレストさんに、僕は正気に戻るために慌てて頭を振る!

 『蒼炎』のセレストさんと言えば、国内に十人いるかいないかというS級冒険者!

 モンスターの大群に一人で飛び込んで蒼い炎で焼き尽くし、王都の危機を救った英雄!

 竜を何頭も討伐しているという、僕なんかとは住む世界が違う冒険者……。

 そんな人が一体何を……?


「さてウィーケン!」

「ひゃい!」

「私に付き合ってくれ!」

「ひぇ!? ひえええ!?」


 僕はセレストさんの肩に担ぎ上げられると、凄い勢いでどこかへと連れ去られるのだった……。





「さてウィーケン!」

「ひゃい!」


 降ろされたのは人気ひとけのない荒野!

 僕一人抱えながら、走って街の外に出るなんて……!

 やっぱりS級って凄い……!


「確認だが、君のスキルは『威力減衰』だな!」

「ひゃ、ひゃい! ひょ、ひょの通り、れす!」

「ではまず私があの岩に向かって軽く炎を放つ!」

「ふぇっ!?」

「その威力を減衰させてほしい!」

「えぇ!?」


 そ、そんなS級冒険者のスキルを減衰するなんてできるわけが……!


「行くぞ!」


 でも断ったら何されるかわからない!

 やるだけやろう!


「ふっ!」

「えいっ!」


 僕の『威力減衰』は薄い膜のようなものを作り出す。

 それを通過したものは、僕との距離に応じてその威力を減衰する。


「おぉ……!」


 セレストさんの放った炎は、豆粒のような炎になり、岩に当たる前に消えた。

 あぁ、良かった。

 よっぽど力を抑えてくれていたんだな……。


「これが『威力減衰』か! うむ! 良いな!」

「あ、ありがとうございます……!」

「では次は全力だ!」

「えぇ!?」


 そんなのできる訳が……!


「行くぞ!」


 気合いの入った声と共に、セレストさんがローブを脱ぎ捨てる!

 本当に全力でやるんだ!

 なら僕もありったけ、を……!?


「せ、セレストさん!? な、何て格好を……!?」


 ローブを脱いだセレストさんは、とても豊かな胸の一部と、腰回りを少し覆っただけの姿だった!

 こんなのほとんど裸じゃないか!


「あぁ! すまない! 私が全力で炎を放つ時は、このように身体をも炎が取り巻く! するとこの竜の皮を重ねて作った防具以外は燃えてしまうのでな!」

「な、成程……!」


 言うなりセレストさんの身体の周りを青い炎が回っていく。

 お陰でセレストさんの刺激的な身体は、大部分が炎に隠れた。

 ……ほっとしたけど、少し残念なような気も……。


「おおお!」

「……!」


 セレストさんの右の手の炎が膨れ上がる!

 余計な事を考えずに全力で減衰させよう!


「はぁ!」

「やぁっ!」


 セレストさんの右手を包むように展開した『威力減衰』の幕を通った炎は、かまどの火くらいの大きさになり、岩に当たって焦げ目をつけた。

 ……あれ?

 本当に全力でやってくれたのかな……?


「凄いなウィーケン!」

「え、え?」

「私は確かに全力で炎を放った! いつもならあの岩どころかあの山の麓くらいまでは焼け野原になるはずだった!」

「えぇっ!?」


 そ、そんな物騒な威力だったの!?

 竜の息吹並、いやそれ以上じゃないか!

 そんなのをあそこまで減衰できたなんて……。

 ……そうか。

 今までは魔物の攻撃に対して使っていたから、僕から離れた位置に展開してたもんな……。

 近い距離ならこんなにも威力を減らせるんだ……。

 ……まぁこれだけ至近距離で展開しても、火としての威力は残ったわけだし、やっぱり『無効化』スキルには敵わないけど……。


「では改めて頼みたい事がある!」

「な、何をですか?」

「竜討伐だ!」

「はい!?」


 また何急に!?

 

「この炎は調整が難しい! さっきの小さい火球か全力の炎のどちらかしか撃てない!」

「そ、そうなんです、ね……?」

「これまでにも何度か竜を討伐したのだが、全力の炎

を撃つと、燃え尽きてしまって素材が残らない!」

「え」


 りゅ、竜って並の炎なんか弾くんじゃないの!?

 やっぱり『蒼炎』って凄いんだ……!


「だがウィーケンが減衰してくれれば、私の素材集めがはかどる! そうすればこの防具ももっとしっかりしたものにできる!」


 む、胸を指差さないで!


「わ、わかりましたから、その、ろ、ローブを着てください……!」

「あぁそうか! すまない! つい興奮してしまってな!」


 僕が顔を背けている間に、セレストさんはローブを着てくれた。

 これでやっと直視できる……。


「では次に竜の出現情報があったら共に行こう!」

「えっ!?」


 い、いつそんな話に!?

 あ!

 今「わかりましたから」って言っちゃったから!?

 竜討伐なんて僕には……!


「では街に戻ろう!」

「あ、あの、セレストさん……。その、僕は……」

「あぁ! 今日は何と良い日だ! 竜の皮をたくさん集められたら、私もまとも服が着れるようになるのだな!」

「……え?」

「周りの冒険者から目を逸らされたり、女性冒険者から『見苦しい』などと言われたりして肩身の狭い思いをしたものだが、これで、ようやく……!」


 ……駄目だ。

 こんなに嬉しそうなセレストさんに、「やっぱり協力できません」とは言えない……。


「そうそう! 素材以外の報酬は全てウィーケンに渡すからな!」

「えっ」


 竜の討伐って、確か一回で家一軒建つくらいの報酬じゃなかったっけ……?

 ……無理だ。

 もう頭が働かない……。

 とりあえず一回、セレストさんに着いて行ってみよう……。

 後の事はそれから考えよう……。

読了ありがとうございます。


昨今のビキニみたいな異世界装束に理由を持たせようとしたらこんな事になりました。

『僕は悪くない』


さてお名前紹介。

ウィーケンは『弱らせる』という意味のweakenから。

セレストは『青と白の中間のような明るい青色』を意味するcelesteから。

ウィーケンを追放したノゴードは、『駄目』を意味するno goodから。

ちなみにこいつ、リーダーでも何でもないのに、物理攻撃も魔法も減衰できるウィーケンを仲間に断りなく追放した事で、げちょげちょに詰められます。


さてこの後ウィーケンとセレストで竜討伐を目指しますが、そうそう討伐の依頼はなく、行き詰まる二人。

その時ウィーケンが「僕の『威力減衰』でセレストさんを包めば、服は燃えないのでは……?」と思い付き、あれこれ試した結果、手を握って『威力減衰』の幕で包めば、服が燃えなくなる事がわかりました。

しかしそのせいで気が緩み、炎のコントロールが甘くなったセレストは、ちょっとした事で炎が暴発して服が燃えてしまうようになってしまいました。

「……責任、取ってくれ……」

「せ、責任って……!?」

「……とりあえず、ずっと手を握っていて……」

「!!??」


……これだけ書いておけば続きはいらない。

古事記にもそう書いてある(適当)。


お楽しみいただけましたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 拝読させていただきました。 世の中、何が幸いするか、わかりませんな。
[良い点] ビキニアーマーの存在理由がひとつ明らかになりました。 ウィーケンさんは、ゴーレムなどの魔法生物やロボットに手を触れることができれば、エネルギー不足にさせて無力化できるかも……
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