空虚の記憶、遊園地
友達を怖がらせるために書いた、いつもと違うベクトルの駄作です。あんまり怖がってもらえませんでした。
「そういえば、朝日の星動物園にもあったよね?遊園地」
その一言から全ては始まった。ジェットコースターのランキング動画を見ていたときだった。
「あったなあ。ばぁばとよく行ってたねえ」
母親とそう話しながら、私は公式サイトの存在を思い出し、遊園地のことを検索欄に打ち込んだ。そう、その判断がすべてを狂わせたのだ。
「なに、これ…」
ドアも窓もむき出しの部屋。薄っぺらく描かれた、無駄に色とりどりな星。塗料の剥げたレール。目の死んだ動物の遊具。その一つ一つが昭和臭くて、その一つ一つがカラフルで。ただただ、不気味であった。
写真を見ただけで分かるほど生い茂った雑草と、動画越しに分かる、明るく、軋んだ音楽。
それらは、遊園地の主が人間でも遊具でもなく、過ぎ去っていく時間そのものであると語っていた。
「これは、本当に、あそこなの?」
そんな疑問が、私の閉ざされた記憶の扉を開けた。
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幼稚園を休んで、母と、いとこ家族と、祖父母と、この遊園地に行った記憶。大半は楽しくてきらびやかな、優しい思い出だ。けれど、その中に、バグのように【それ】はあった。
真っ暗なトンネルを、母の袖を掴んでこわごわ歩く。少しかび臭い部屋は、歴史と形容するには小さく、不気味過ぎた。
「止まらない、止まらない。ママに置いていかれちゃうよ」
そう言われて、慌てて走った先。暗いところから見れば十分明るかったのだが、入ってみれば、薄暗く、そっけない部屋だった。
あれっ、と私は思い返す。「ママが置いていっちゃうよ」じゃなくて、「ママに置いていかれちゃうよ」?
ふと正面を見れば、虚ろな顔のピエロマリオネットがこちらを睨んでいるように感じた。
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「なんでいきなり、こんなこと思い出したんだろう」
しかも、こんなに鮮明に。
もしかして。
「行かなくちゃ」
口が勝手にそう喋り、夜中だというのに靴を履く。母親の呼び止める声は聞こえない。靴を履いたのはたしかに家だったけれど、もうどこにいるのかわからない。
ピエロの空虚な瞳は私を見つめていた。
朝日の星、転じて夜中のビー玉。
実際のモデルとなった記憶の遊園地では、ピエロの部屋そっちのけでジェットコースターに乗りまくりました。昭和臭いとかなんとか言ってたけど全然楽しかった。