これぞ平穏
生まれてからすぐに両親は俺を捨てた。
俺が育ったのは暗い闇に閉ざされた世界だった。
そこは裏世界とも呼ばれるもので、
表向きでは表せることができないもの。
いや、表示不可というのが妥当だ。
自身の存在理由なんていらなかった。
不必要なものは全て切り捨てた。
俺の存在理由はこの世界でいらないものを消していくこと。
掃除人だとか綺麗なものじゃない。
暗殺者などというかっこいいものでもない。
俺は俺という、"アルバート"という存在。
まあ、俺はこの世界のクズにもみたないんだろうが。
裏世界がいけないんじゃないんだ。
不必要なものを増やす表世界が悪いんだ。
良いことと悪いことはまったく正反対のものであり、
どこかがどこかと繋がっている。
今回の仕事はもう終わりを見せていた。
この路地裏の先に標的がいる。
黒のスーツに身を纏い。
正装といわれるものだが余計に醜悪がはみ出ている。
「good-by...」
怨むなよ。
てめぇが悪いんだろう?
俺は知らねぇさ。
指を引くと黒い光沢をはなつそれから鉛が飛び出し
おそらく恐怖という感情に捕らわれた男の胸を貫通して
心地よい匂いを漂わせる。
「今回も派手にしでかしたな。」
「アンタも言えねぇだろう……ダグラス」
「そうか?」
周りは真っ赤に染まっていた。
雑魚は任せろと言ったダグラスを信用した結果だ。
「俺はヤツしか殺ってねぇぜ」
「はいはい、俺の手だけ汚れたってことでいいじゃねーか」
「俺はなぁ…」
「わかった、わかった。」
ギブアップとでもいうようにダグラスは両手をあげた。
「悪いと思ってねぇくせに・・・」
ぶつぶつという俺の愚痴は見事に宙を舞った。
今日、裏組織の幹部の一人が消えた。
依頼人は同じ組織のボス様様だ。
ミスの制裁を施そうとしていたようだった。
理由が見つからなかったんだろう。
何も言わずに殺すのも当然、恨みを買う。
任務の失敗と言えば死んだ彼は英雄と名を残されるだろうな。
「おめでとうがいいのか?」
「何がだ。」
「コイツ。」
指を指した時、包帯を適当に巻いた腕がのぞいた。
返り血で鮮やかに赤く模様がついていた。
目を細めながらダグラスは脳を回転させた。
「ああ、いいんじゃねー?」
その方がコイツにも家族にも誇れるだろう
ぽつり。
頬に冷たい感触を感じたと思ったらつう、と滴り地に落ちた。
「雨か?」
「そうだろう。ルイスが今日は雨が降ると言っていたからな。」
「ルイス…か。まだやってたんだ。」
「ああ、あちらの親がえらく俺を気に入ったようでな。」
「護衛も大変だな。」
護衛の仕事やらなくてよかった。
本当にそう思った。
特にダグラスの依頼主の子供、ルイスはちとやっかいだ。
頭がいかれている上に自分は神の生まれかわりだのなんだの。
ただ単にたまたま当たっただけだろう。
やつの親も手間がかかる。過保護すぎる。
「くれいじー。」
「お前がな。」
そんなやり取り。俺はこいつと居る空間は嫌いじゃない。
むしろ心地よい。
だから俺はコイツには嫌われたくない。
"汚い"
何度言われたか覚えてもない。
何度も脳に伝達され一瞬も経たぬ内に消された言葉。
人々の罵声、暴言。
悪いけど、俺はあんたらよかましだろう。
欲をひた隠しにしたあんたらより。
ずっとましだ。
見上げた空は灰色に曇りだして雨も本格的に降り出しそうだ。
「帰ろう。」
「どこに?」
ばつの悪そうに頭をかくダグラス。
俺には泊めてもらえる場所はあっても帰る場所は無い。
それは職業柄の問題で別に他人にどうのこうの言われる筋合いはない。
しゃーねぇ。ぼそりと彼が呟いた言葉は雨の音にかき消された。
「げぇ、相変わらずの部屋だなぁ」
「うるせぇ、文句あんのか」
部屋の壁にはダグラスの大切にするナイフの数々。
俺にはナイフの良さは分からないが。
また互いの武器について口論になるな。
さっと思ったことだった。
現実になるのはそう遠くない。
end
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