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妖精は片翼で飛ぶ  作者: Nica Ido
10/31

10話

 ひとまず夕食を買って戻ってきたアルフレッドは、リーリーと話していた。


「リーリー、今さらだけど、あれはひどいぞ。『妖精の世界と人間の世界では時間が違う』って、なぜ前もって教えてくれなかったんだ?」


「だって君が知らなかったなんて、僕は知らないもん」


「嘘だ! ならどうして『ゆっくりしていけ』なんて言うんだよ」


「ははは! 君は意外とするどい! だってそんなこと教えたらすぐ出ていってしまうじゃないか。僕たちは長生きだから暇なんだよー。行方不明になる人間ってたまにいないかい? それは僕らの世界に招待しているからだよ。良い人とか悪い人とか関係ない。僕らが気まぐれで呼び込むんだ。退屈しのぎにもてなしたり、歌って踊って楽しい時間を過ごすのさ」


 アルフレッドはぞっとした。妖精に悪気はないのだろう。ただ寿命が長い者から見ると、人間なんてあっという間に死んでしまうし、たくさんいる。『人間』と『動物』のような関係性なんじゃないかと思った。しかし悪意を持った人間は動物より悪質だ。


「誰でも君たちの世界に入り込めるなら、人間に荒らされてしまうんじゃないか? よく今まで無事だったな」


「『決まりごと』を守ることで、僕たちの世界を秘密にしてきたんだ。そうだね、アルフレッドが死ぬまで僕は一緒にいなくちゃならないんだから、君には『決まりごと』を教えてあげるよ。まず、僕たちが一緒じゃないと入れない。そして僕たちが無理やり連れてきてもダメなんだ。人間が自分の意志で入ってくること。そして僕たちと一緒に出ること。以上でーす」


「……たいした『決まりごと』じゃない気がするけど」


「何言ってるんだよ! 僕たちはいろんな『決まりごと』に縛られて、覚えるの大変なんだぞ!」


 頬を膨らませるリーリーに、さっき買ってきたパンをちぎってあげると、喜んですぐに機嫌が良くなった。


「俺が死ぬまで一緒にいないといけないなんて、大変だな」とアルフレッドは買ってきたサンドイッチを食べ始めた。


「ま、大変でもないよ。僕からすれば少しの間だけだからね」とリーリーもパンに顔をうずめてモグモグ食べている。


「君たちは結構あちこちにいるのか?」


「空気が澄んでいるところに僕たちは結構いるよ。絶対に人間と目を合わさないことっていう『決まりごと』を守りながらね」


 通常の人間が偶然妖精を見かけたとしても、凝視したところで『少し光っているような空気のかたまり』くらいにしか認識できない。しかし、目が合った人間は完全に妖精の姿を認識できるようになるらしい。


「アルフレッドのように『勘の良い人間』には、日頃から光る虫くらいに見えてるんだろうね……」と言って、やれやれと肩をすくめた。


 アルフレッドは妖精の世界に行ったときのことを思い出してみた。リーリー以外の歓迎してくれた妖精たちの姿は見えたが、彼らは話しかけても視線を外して、確かにまったく目が合わなかった。


「僕たちの中では、目が合う失敗のことを『運命』って呼んでるんだ。『奇跡』って呼んでるやつもいるよ。目が合ってしまったら、願い事を3つ叶えて、死ぬまで見届ける。しょうがない、『運命』だからってね。まあ、かくれんぼで見つかって、10数えて、探すみたいなもんかな」


「ははは! 全然違うじゃないか、例えになってないよ」


「そうかい? ははは! アルフレッドのパンもちょうだい、美味しそうだね! ミルクもほしいな」


 とりあえず、これからゆっくりリーリーと付き合っていくとして、明日は再びあの区域の小屋に行こう。介抱してくれた男の子にお礼を言いたいと考えていた。




 アルフレッドが小屋を訪ねると、それまでアルフレッドが死ぬのを待っていた人々は驚いて隠れようとした。その中のひとりを捕まえて、リーリーに聞いた男の子の特徴を伝えた。


「髪が銀色で、細身の少年がいるだろう?」


「……奥にその子の父親が寝ているから、待っていれば帰ってくるさ」


 手を離すと小走りで逃げていった。この区域にはいろんな事情を抱えている者がたむろしている。帰れなくなった者、行き場のない者。国からの支援や配給もあるが、ごくわずかなのは見てわかる。食事は貴族の寄付で成り立っているようで、いつもどこかの婦人や使用人が入れ替わりでやってきては、パンやスープなどを配っていた。


 アルフレッドは薄く汚れたシーツに包まっている男に話しかけた。


「こんにちは。昨日まで息子さんには食事などで世話になりました。お礼をしたくて……ちょっと隣で待たせてもらいます」


 父親らしき男が寝ている横に座り、待っている間に話をした。


「息子さんは今どこに?」


「神殿の掃除や使い走りをしてお金を稼ぎに行っています」


「そうですか。差し出がましいと思いますが、俺は少しお金を持っていますので、これをお礼に受け取ってもらえませんか?」


 アルフレッドは金貨を2枚渡した。これだけあれば、親子で1か月はきれいなところで生活できる金額だ。


「えっ! いいのですか!?」


「はい。見ず知らずの俺を息子さんが世話してくれたんです。おかげで何とか元気になりました」


「きっとあの子はあなたを見て、知人に似ていたから放っておけずに看病したのでしょう」


 すると男の子が自分と父親の分の食事をもらって帰ってきた。


「あ! あなたは……見違えたよ。服もきれいにしてさ! 誰かと思った。良かったよ、元気になって」


「まだ髪もひげもボサボサだけどな。ありがとう、世話してくれて。名前を聞いてもいいかな」


 男の子は顔色を伺うように父親を見た。父親はニコリと微笑んだ。


「僕の名前は……カミーユ」


「カミーユ、君の知り合いに俺が似ているんだってな。似ていて幸運だったよ、面倒見てくれてありがとう。俺の名前はアルフレッド。君の父親にお礼を預けてあるから、2人で美味しい物でも食べてくれると嬉しい」


 カミーユたちの食事の邪魔になると思ったアルフレッドは、立ち上がって帰ろうとした。


「……アルフレッド……」カミーユがつぶやいた。


 父親は、アルフレッドへ手を伸ばし握手を求めた。


「良かったらまたここへ訪ねてきてくれませんか? 近いうちに是非……ゆっくりお話ししたいのです」


「はい。首都を出ていく前に、もう一度会いに来ます」と手を握り、「カミーユ、またな」と頭を撫でた。小屋を出ていくアルフレッドを見送りながら、カミーユは撫でられた髪をもう一度自分で触った。


 そして情報屋との約束の日。アルフレッドは酒場で報告を聞いた。その内容はとても信じ難く、冷静ではいられないような内容だった。

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