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妖精は片翼で飛ぶ  作者: Nica Ido
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1話

ピッコマノベルズ大賞 西洋風ロマンスファンタジー × 結婚 に応募しましたが、落選でした。


前回の「悪役令嬢」と、今回の「結婚」の2つのお題にチャレンジしましたが、どちらも落選……。


初めて小説を書いて、未完の2作品しか手を付けませんでしたが、実際に関わってみて……作品を作り続けている皆様には頭が下がります。私には「継続して書き続ける」ことが出来ないと思ってしまいました。


実際に執筆活動したのはたった3か月でお恥ずかしいのですが、これで筆を折ろうと思います。


30話以降のざっくりと思い描いていたあらすじを、31話に書き込んで、完結として終わろうと思います。


もし読んでくださる人がいたら、報われます。ありがとうございました。

「何の恨みもないが……死んでもらおう」


 剣や銃を持った数人の男たちに囲まれている。彼らに切りつけられたが、際どくかわしながら森の奥へ懸命に走って逃げる。


「なぜ俺を? あいつらは誰なんだ? ここは戦地だぞ、なのに敵国の兵じゃない……」


 アルフレッドは狙われる理由がわからなかった。しかし彼らは確実に自分を殺すつもりで追いかけてきている。


「俺は生きて必ず帰ると約束したんだ! ジュリア、待っててくれ! ジュリア……ジュリア!」


 数発の銃声が森の中に響き渡る。アルフレッドの身体に命中し、血を流して倒れ、地面の窪みに落ちた。


 撃たれた痛みで悶え苦しんでいると、頭上から男たちの話し声が聞こえた。


「このまま埋めてしまおう、死体は出てこないほうがいい」


 躊躇なく埋められ、暗闇に閉じ込められた。意識が遠のいていく。


「……ジュリア、もうすぐ君との結婚記念日だったのに……」


 男たちが去っていく足音も、もう聞こえない。森の静寂に包まれて、わかるのは自分の心音だけだった。




ーー遡ること14年前、アルフレッド6歳ーー


「むかしむかし、ある森に妖精がいました……」


 ベットで幼い息子に添い寝をしながら、母親が妖精の物語を聞かせようとしていた。


「えー! ママ、またその話……妖精さんのところから誰も戻ってきませんでしたってやつでしょ? 何回も聞いたもん」


「じゃあ、他に何の話をしようかしら? さっきは勇者の話をしたし……」


 困っている母親を見て、隣のベットで本を読んでいた兄のアランが声をかけてきた。


「もう寝ろよ、アルフレッド。母さんはもう2つもお話を聞かせてくれたじゃないか。どんな話をすれば眠くなるんだ?」


 鮮やかな赤い髪のアルフレッドは、首筋の後ろ髪をさわりながら「えーっと……」と返事を考えている。


 ちょうどいいタイミングだと思った母親は、「はい、今日はもうおしまい」と添い寝をやめて立ち上がった。


「おやすみなさい、アルフレッド。もうあかりを消すわよ。アランはまだ本を読むならこっちへ来なさい」


 母親に部屋を真っ暗にされて、しょうがなく目をつむる。小さいアルフレッドがなかなか眠れないのには理由があった。


 明日は幼なじみのジュリアが遊びに来る。天気も良くなりそうだ。外に出てピクニックをするか、それともお菓子を食べながら一緒に本を読むか。会うのを楽しみにしながら色々考えているうちに、いつの間にかスヤスヤと眠ってしまった。


 このとき、アルフレッド・モンタニエとジュリア・キャトリーは同じ6歳。親の爵位はともに『子爵』で領地も近い。


 同じ年の子が男女で生まれたこともあり、お茶会で母親同士が盛り上がって、勝手に『許嫁』と決めた。母親たちが会う時は子供を連れてきて、幼少からよく遊ばせていたこともあり、アルフレッドとジュリアも自然と惹かれ合い、大切な存在となっていた。


 翌朝、アルフレッドは楽しみにしすぎてソワソワしながら待っていた。ジュリアが到着したと聞くと、急いで出迎えに玄関まで走っていく。


「アルフレッド!」ジュリアが手を振り、カフェオレのような色の髪をなびかせ、輝くような笑顔で駆け寄ってきた。


「ジュリア! いらっしゃい! さあ、今日は何をして遊ぼうか?」


「外でランチがいいわ!」


「そう言うんじゃないかって思ってたんだよ」


 アルフレッドは未来を言い当てたかのように、少し自慢げだ。メイドにランチの用意をしてもらい、手をつないで散歩しながら近くの丘の上まで向かった。


 村全体が見晴らせるところに到着すると、その場所でランチの準備をした。たくさん話して、話し疲れてその場で一緒に昼寝をした。メイドがブランケットをそっとかけてくれた。2人は手をつないだまま幸せそうに眠っていた。


 まだ幼く、屋敷にこもって家庭教師やメイドたちに囲まれた生活の二人にとって、同じ歳の相手と話すのは新鮮であり、心地良いものだった。気を張らず、がんばらなくていい時間が楽しかった。


 日が暮れて、ジュリアが帰る時間になった。


「じゃあ、今度はアルフレッドが来てね!」


「大きくなったら僕たち一緒に暮らせるようになるって母さんから聞いたんだ。早く大人になりたいね」


「私は今日からでも一緒にいたいくらいなの。大人になるまでって長いわよね、でも待ってるわ、アルフレッド」


 ジュリアはアルフレッドの頬にキスをして帰っていった。アルフレッドは今日のキスで、初めてジュリアを異性として意識した。家族や友人とは違う『好き』という気持ちに気付いた。




ーー幸せな幼少期を過ごした、その6年後ーー


 アルフレッドが12歳のとき、兄のアランが20歳になり、領地の村の娘と結婚した。身分の違いを乗り越え、恋愛結婚をした。


 モンタニエ子爵家は領地として大きな村を3つ持っている。モンタニエ子爵は自分の利益を削ってでも村の農具などへ設備投資するような、とても良い領主だ。金持ちではないが、村の面積は広く豊かだった。両親はとても優しく、結婚も身分より当人同士の気持ちを重視して快く花嫁を迎えた。


 結婚式にはジュリアも参列した。花嫁姿を見て、ジュリアは憧れを抱いた。


「素敵ね! ねえ、見てアルフレッド……2人ともとっても幸せそう。私も早くお嫁さんになりたいわ!」


「僕たちは幼い頃から婚約してるけど……あの頃から変わらずにずっと大好きだよ、ジュリア。もう少し、大人になるまで待っててくれる?」


 アルフレッドは首筋の後ろ髪をさわり、照れながらも告白した。


「困ると後ろ髪をさわる癖は小さい頃から変わらないわね。安心して。私もアルフレッドのお嫁さん以外は考えられないわ」


 二人は手を取り合って微笑んだ。アルフレッドにはまだ子供っぽさが残っているが、ジュリアは成長するにつれ、どんどん美しさが増していた。アルフレッドはジュリアが他の男性から目を付けられる前に婚約してくれた両親に感謝した。


 兄のアランがモンタニエ子爵家の跡継ぎだ。次男のアルフレッドがキャトリー子爵家の一人娘のジュリアと結婚するなら、婿養子に行けばいい。ジュリアと結婚できればそれでいいと考えていた。




ーーアランの結婚式の1か月後ーー


 キャトリー子爵家は2つの村と大きな森を1つ、領地に持っている。毎年その森でローゼン伯爵主催の狩猟が行われていた。


 ローゼン伯爵家とキャトリー子爵家のつながりは、何世代も前の話なので親戚というには遠すぎるが、本家と分家の関係性にある。なのでキャトリー子爵はローゼン伯爵に頭が上がらず、いつもご機嫌を伺うような低姿勢だった。


 ローゼン伯爵は資産家で首都近くの広大な町や村の領地をいくつも持ち、輸入業やショップも経営している。貴族の中でも強い権力を誇示し、裏では高利貸しや武器、傭兵まで商品として扱っているという黒い噂のある人物だった。


 狩猟の時期はキャトリー子爵家にとっても一大イベントだった。ローゼン伯爵の招待客を接待したり、馬を貸し出したり、料理人や召使いを出して料理を振る舞ったりすることでローゼン伯爵から報酬を得ていたからだ。


 今回ローゼン伯爵は、ひとり息子で跡継ぎのジョフリー・ローゼンを初めて狩猟に連れて来た。森に入る手前で出迎えていたキャトリー子爵夫妻は、馬車で到着したローゼン伯爵に挨拶した。


「今年も世話になる、キャトリー子爵。これは息子のジョフリーだ。もう16歳になって、馬乗りも上達したのでな、狩りに参加させることにした。森で迷子にならないように頼む」


 馬車から降りてきたローゼン伯爵は、自慢げに息子を紹介した。晩年にやっと生まれた跡継ぎを大事に、そして甘やかして育てているようだった。


 ジョフリーは自慢のブルーの髪が風で乱れるだけでもイライラしてしまうほどのわがままぶりで、感情の起伏が激しそうな印象を受けた。


「お父様、大物を狩ってくるから、楽しみにしててください! それにしても女性の姿が少ないな。俺の見せ場にはたくさんの女性がいるべきだと思いませんか?」


「ははは! そうだな、ジョフリー。来年はもっとたくさんの貴族の令嬢を招待せねばな。今年はお前の初の狩猟だ。来年に向けて練習するがいい」


 キャトリー子爵夫妻への挨拶を済ませると、伯爵たちは再び馬車に乗って、招待客の待つ森の中へ向かった。夫妻は使用人たちに指示を出して、狩猟が滞りなく進行するように手配する。毎年のことで慣れたものだった。


 準備の途中で、キャトリー子爵夫人は急に思い立ち、忙しく指示を出している夫の元へ行った。


「ねえ、あなた。今からジュリアをここに呼んではいかがかしら?まだ幼さはあるけれど、女性が1人でも多いほうが華やかになると思うのだけれど……」


 キャトリー子爵は懐中時計を開いて時間を確認した。


「そうだな……ジョフリー様もああ仰っていたし、狩りが始まるまで少し時間もあるな」


「ジュリアは馬にも乗れますし、森にも詳しいですからね」と、妻はすぐに使いの者を呼び、ジュリアを連れてくるように指示を出した。


 しばらくして準備が整い、伯爵の合図で狩りが始まった。招待客の貴族たちはそれぞれに分かれて馬で移動した。森を迷わないように道案内には必ずキャトリー子爵の使用人が付いて行った。


 伯爵とジョフリーは一緒に行動した。ジョフリーはウサギや鳥を見かけては銃を撃った。しかし全然当たらない。


「狙って打たねば、動物たちは銃声で逃げていってしまうぞ」と伯爵は笑う。


「しかしお父様、この森に大物がいないというのが悪いのです。小動物ばかりでは面白くない! うさぎや鳥ならわざわざこの森まで来なくても、どこでも撃てるではないですか!」


 腹を立てたジョフリーは森の奥まで行こうとする。伯爵は案内係に息子に付いていくよう伝え、自分はここで休んで待っていると言った。


 大物を狙ってどんどん森の奥へ進むジョフリーを、案内役の使用人が制する。


「ご令息様、あまり森の奥へ入られるのは危険です」


「うるさい! お前は案内だけしてればいいんだ!」


 すると薄暗い奥の木の枝が大きく揺れ、枝を踏み折る音がした。熊のような影が見える。


「わああっ!!」ジョフリーは慌てて何発か銃を撃ったが、銃弾はかすりもしなかった。次を撃とうとしたが、弾切れしている。弾を込めようとするが、震えて予備弾を落としてしまった。


「おい! お前! うっ……馬を降りて、たっ……弾を拾え!」


 案内人は下手に動くと危ないと思い、そっと馬で近づいてジョフリーに助言した。


「そのままゆっくりと、ここを離れましょう」


「何だと! 俺が見つけた熊だ! 俺が仕留めるんだ!」


 すると後ろから女性の澄んだ声がした。


「ジョフリー様、お下がりください。その熊は大きく見えますが小熊です。きっと母熊が近くにいます。母熊はもっと大きく危険なのです。私の言うことを聞いて……静かに、ゆっくりと、こちらへ」


「何だと! お前、誰に向かって……」


 ジョフリーが振り向くと、そこには馬で追いかけてきたジュリアがいた。文句を言いかけていたが、木漏れ日を浴びるジュリアの姿は、あまりにも凛として美しく、ハッと息を飲んでジョフリーはそれ以上言葉が出なくなった。


 森の中で、馬を優雅に乗りこなし、日差しの中でキラキラと輝く少女に先導されるジョフリーは、彼女の後ろ姿に見惚れながら、おとなしく伯爵のもとへ帰ってきた。


「初めまして、ローゼン伯爵。ジュリア・キャトリーと申します。ジョフリー様をお連れいたしました」


 ジュリアは馬を降りてお辞儀した。


「おお、キャトリー子爵の一人娘だな。これはこれは……可愛く育ったものだ」


「では、狩りの続きをお楽しみください。ジョフリー様、あまり奥へ行くのは危険ですのでご用心を」


 そう告げると、ジュリアは再び馬に乗って行ってしまった。


「なっ! 生意気な女だ!」そう言いながらも顔が赤いジョフリーを見た伯爵は、「お前ももうそんな年頃になったのだな」と笑った。


 両親のところへ戻ってきたジュリアは黙って馬をつないでいた。


「ローゼン伯爵とジョフリー様にはご挨拶してきたの?」と母親に聞かれたジュリアは、黙ってうなずいた。


「そろそろ狩りを終わらせた貴族たちが帰ってくる。お前も手伝いなさい」


 父親にそう言われたジュリアは、本当は帰りたかったが、しょうがなくその場に残った。絶好の天気に恵まれながらも、ジュリアは嫌な感じがして落ち着かなかった。

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