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4. 既成事実

「アリシア、気分が悪いなら自室でゆっくりしてもいい。王と王妃には、私の方から説明をしよう」

「エドモンド王子様、お気遣い頂きありがとうございます。王様と王妃様にお目通り願えるのは、この日以外にないと思います。最後のお別れのご挨拶をさせて頂きたく」


 ゆっくりとした動作で、スカートの縁を握り、頭を少し垂れて腰を落とす。

 このお辞儀は、何度も何度も家庭教師に怒られて、身につけたものだ。

 最後に彼に披露できてよかった。

 唇を噛み締める。

 そうしないと涙がこぼれそうで、それを彼に見られたくない。

 大丈夫かと抱きしめてくれた大きな手の温もり。

 もうそれは過去の出来事。

 二年間努力してきたことも無に帰す。

 

「アリシア、僕たちは本当にもうダメなのか? もう一度やり直せないのか?」

「王子様、やり直せないですよね。修復なんて不可能だってわかっていますよね。何言ってるんですか!」


 思わず素が出てしまった。どんな問題も優雅に流すことが貴婦人のたしなみだと教わった。

 しかし! 握りしめた拳に力が入る。

 ここでおまえが原因だろうと殴れたら、どんなにスッキリすることか!

 おかげ様で涙も引っ込んだ。


「君のことを好きになったのは、確かだ。恋をしていた。しかし、彼女のことは、いつから好きになったのかあやふやでぼんやりとした霞の中にいるみたいなのだ」

「ふうん」


 当てはまる魔法がひとつある。

 初歩的な魔法だが、チャームの魔法が好意的に相手のことをとらえてしまう。


「王子様、座学の魔法講義をサボられましたね」


 顔色が少し悪くなっていくのがわかる。


「チャームの魔法ですわね。そんな簡単な初歩的な魔法に引っかかるなんてことはありませんよね?」

「気がついたら、彼女に……」

「ウロボロスも真っ青ですね」


 永遠を意味するウロボロス、王家の紋章にもなっている。

 王家の紋章は、二匹のウロボロスが絡み合い、それぞれのしっぽを噛んでいる。

 その紋章を汚す行為だ。

 初歩的な魔法は簡単に誰でも使えるが、彼女は巧妙に二重の罠を仕掛けたみたいだ。

 その現場を目撃した方から詳細は聞いている。


「既成事実」


 その一言をつぶやくと王子の肩がびくっと跳ね上がる。

 キスというその行為により、自分が好きなのは、この人だと思い込ませることに成功したのだ。

 チャームの魔法もかかっているので、好意的に相手を思う。

 人間の脳の仕組みをよくわかっている。

 彼女が学校の授業をサボらずに聞いていた証拠だ。しかもかなりしっかりと心理学も学んでいたらしい。

 その彼女との心理戦に負けたのは、自分だ。

 さっさと負けを認めて、去るのが得策。

 最後に罠を仕掛けた自分も相当だが、彼女も同じくらいに巧妙な人だ。

 同じ人を好きにならなければ友達になれたかもしれないと思うと少し残念な気もする。


「王子様、ひとつ助言をさせてください。授業はサボるな! です」


 可愛らしく笑ってみせたが、ショックを隠し切れない王子様には届かなかったかもしれない。


「末永くお幸せに」


 この言葉を最後に今日王宮を去るわたくしをお許しください。

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