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3. 暴れる炎

 私の中に炎が生まれて、今にも外に出たいと言い出す。

 心の中で暴れまわっているものを少しずつ小さく小さくしていく。

 魔法学園にいた理由を自分に問う。

 コントロールするためではなかったのか。

 玉のような汗が額にうかぶ。その汗が頬を伝う。

 最後に自分の手で蓋をするイメージで、炎は鎮火する。

 負担に思っていることがあるといつも炎は生まれる。

 ため息がこぼれる。

 大事にならなくてよかった。


「おいっ、大丈夫か?」


 その言葉で我に返る。

 肩を掴まれた感覚がして、ゆっくりと彼の瞳が近づいてくる。

 エドモンド王子のマリンブルーの瞳が私の瞳をのぞき込んでいる。

 私の漆黒の瞳、その心の闇まで溶かすようなきれいな海の色。

 炎が海の水に消されていくのを感じる。

 

「大丈夫です……」

 

 何に対して大丈夫なのか。

 自分で自分に問いかけるが曖昧な問いに答えはない。この優しさは別の人に向けられたものだと思いこみたくなる。

 真っ黒な瞳がきれいな何か別の色だったら、愛してもらえたのだろうか。

 足元にもふもふの存在が近づいてきて、体をこすりつけてきた。

 俺のものだと言わんばかりに足にまとわりつき、マーキングをしている。

 この感覚はわかる。


「ティア、ありがとう」

「俺に対してはないのか?」

「……ありがとう、ございます」


 変なところで区切ってしまったせいか王子の顔がゆがむ。


「こんなはずではなかったのに、な?」


 誰かに問いかけるように小さな声は、私の耳にも届いていたけどもう何も言う気持ちになれず黙っていた。

 それは私のセリフである。

 ティアの首をゆっくりと撫でる。

 気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らす。

 ティアを抱きしめると、彼はすぐに降りたがるのに黙って抱っこされている。

 私の不安と困惑をわかっているかのよう、目が合うと自分の鼻を私の鼻にこすりつけてきた。

 その後に舐めてくる。それは、猫の愛情表現の一種だとわかっている。


「ティア、大好き」


 言葉に出して伝える。

 ティアは、わかっていると言わんばかりに目を細めてさらに鼻をこすりつけてくる。

 こんな風に素直になれていたら、何かが変わっていた。

 きっと王子の隣にいたのは、私だったのかもしれない。

 王子の視線を嫌というほど感じながらもそれを無視する。

 彼の隣には、もう違う人が座っている。

 視線を合わせてしまうとまた炎が生まれてしまうかもしれない。

 そんな危険は冒せない。

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