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27. 黒き竜の炎

「魔法ぶっ放しちゃっていいよぉ。馬のたずなは離さないからね」


 シリルは、笑顔で物騒なことをサラッと言いのける。

 この人も強そうだけど剣は持っていない。魔法使いらしい杖もない。

 何が得意なのかがわからない。不安だけが渦巻いていく。

 今日の目的地であるカドレナまでは、まだ遠い。

 これ以上、馬を急がせるわけにはいかない。

 馬車に衝撃が来て、何人もの盗賊が飛び移ってきたことがわかる。

 後ろからじわりじわりと前に進んでくる。


「やだ! アリシアちゃん、これ持ってて」

「え? さっき馬のたずなは離さないって!」

「時と場合によるわよね。よろしく!」


 ウインクひとつ残して、隣ににじり寄ってきた盗賊を彼の片手の拳でノックダウンしたのを見た。 

 あの筋肉はこのためだったのかと理解する。

 慣れないたずなを持って、道からそれないように握っている。

 ドレスを着ていなくてよかった。

 一歩も動けないところだった。

 まっすぐに見ているが荒野の道は、整備されていなくて時々石を跳ね飛ばしながら走っている。

 キャロル、2名雇うのに倍額払わせるなんてみていなさい。あとで苦情をたっぷりと言わないといけない。


「さてとちゃんと制御してくれていたようね。ありがとう」


 お早いおかえりに私の方がびっくりする。

 いや、安いのかも。少なくても三人は乗ってきたはずなのにもう帰ってきた。

 体重はかなりありそうなのに軽業師のように身が軽い。


「魔力はあるんでしょう?」

「あの……魔法制御に自信がないの。巫女姫と言えば、万能で何でもできる存在でいなければいけない。私はそんな存在ではないの」

「そんなこと考えていたの! 巫女姫といっても生身の人間でしょ。失敗したって誰も責めないし、ここはもう王宮ではない。大丈夫」


 シリルの嘘のない笑顔に励まされて、(ふところ)から杖を取りだす。

 魔法を唱えると心が落ち着いていくのを感じる。

 最小限の魔法でいい。

 なるべく小さな魔法を思い浮かべる。

 

「小さな黒き竜、我に力を」


 後ろを振り向きながら、杖から魔法を放つ。

 馬で追ってきた盗賊と盗賊の間に黒い炎が放たれる。

 後ろを走っていた馬が高い声でいななく。


「ごめんなさい」


 耳を塞いでも聞こえてしまう。

 傷ついた者たちの思念が飛んでくる。

 

「炎は赤しか見たことがないから実在するかわからなかったけど、黒き竜ってことは今の魔法は黒い炎だったってことよね。黒い炎は幻術の炎、誰も傷つけない炎が生み出せるってすごいわね」


 興奮しながら、シリルが話しかけてくるが、耳に入ってこない。

 額に汗が浮かぶ。魔法を打ってしまった後に後悔が波のように押し寄せてくる。

 

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