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26. 売られた喧嘩は買う

 気のせいでも気の迷いでもなかった。

 完全に怒っている。

 ここで出て行かなかったら、もう魔法使いと呼んでもらえない気がする。

 馬車のノブに手をかけると同時にリリーが左手をメイベルが右手を掴む。

 右を向いても左を向いても二人とも首を振っている。


「出て来いって言われたらさ。売られた喧嘩は買う……じゃなくて……大丈夫だから」


 それでも放そうとしない二人は本当に気が合っている。


「あっ、ティア!」


 一瞬、二人の視線がバスケットの方向にそれた。

 手のゆるみを感じて、その隙に馬車の内カギを開ける。

 扉を開けてから後悔した。

 馬車にゆっくり座っている時には速いと思っていなかった。

 普通に走っているにしても過ぎていく景色が尋常ではない。

 それに並走して走っている馬もいる。

 下手するとあいつらに捕まってしまう。

 御者台の方を見ると、笑顔で手を伸ばしている人物がいる。


「なんのための装備だ! 手を伸ばせ!」

 

 やっぱり目は笑っていない。

 風でマントが帆のようになってしまうため、危ないと判断をしてすぐに脱ぐ。

 

「行って来る。扉閉めて」


 笑顔を作って二人の侍女を見る。二人はバスケットを胸に抱きしめて、馬車の隅っこで震えている。

 ギルド長の笑顔を信じて、思い切って手を伸ばす。

 手の力だけで引き寄せられた。


「よし、よくやった!」


 隣の席に着席すると、心臓が尋常ではない速さで脈打っている。

 怖かった……。

 それに御者台に三人も座るなんて無茶がある。


「お嬢様、やっとで来たか。森を走らずにただっぴろい荒野のルートを選んだんだ。思いっきり魔法ぶっ放せるようにな。俺はライリー、よろしく」


 雇った相手を事前にしっかり見なかったのは悪かった。だけどこんな風に仕返しをされるとは思っていなかった。走っている馬車の中から言葉ひとつで引きずり出されるとは。


「私の名前は……」

「もう知っているよ。依頼主の名前ぐらいわかってる。アリシアだろ」


 燃え立つような赤い髪が性格を表しているようだ。

 反対側を見ると美女がこちらを見て微笑んでいる。

 

「俺はシリル、よろしく。アリシアちゃん、かわいいね。お近づきになりたいな」


 きれいなお姉さんと思っていたが違ったようだ。

 握手を求められて、差し出された手をそっと握ると、力強い力で握り返された。


「ふん。貴族の娘なんて挨拶もなしだからな。キャロルは高く買っているようだったから受けたけど普通だったら仕事受けなかったね」

「挨拶しなかったのは悪かったわ。ごめんなさい」

「ライリー、いい加減にしなさいな。仕事の依頼主でしょ」


 ライリーは前髪を乱暴にかきあげる。


「さてとそろそろ動くか。俺は行ってくるぜ」


 剣を腰に携えて、馬車の隣を並走している馬に狙いをつけて飛んだ。

 キックが相手の脇腹にきれいに決まり、盗賊は馬から転げ落ちた。

 ライリーは、ずり落ちそうになっている体を馬の鞍に乗せ、いつの間にかたずなを握っている。

 装備が革装備だけなのがわかってきた。

 身軽さと剣が彼の特技のようだった。

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