20. 遠い約束
「体を労わってください。出発前にはまた来ます」
「すぐに旅立ってしまうような言い方ね。明日、旅立ってしまうの? もう少しだけここにいて頂戴」
王都ティアードの隣の領地ローマン、もっとも王都に近い場所。父が治める土地だが、ここは最終目的地ではない。
私が小さい頃から過ごした場所がある。避暑地として、家族で過ごした場所。避暑地なのにさらに南にある。ローマンよりも暑いのにミクロフィアは、周りを海で囲まれた半島のために風が強く、日陰は寒いくらいに気持ちがいい。夜はほどよく冷えているためにさらに気持ちよく過ごせる場所だ。冬は暖かく温暖のためにローマンほどの重装備はいらない。
「ごめんなさい。王都から離れてしまいたいと思っています」
「そんなに急ぐことはないでしょう?」
そこまで言われてしまうと何日間か留まりたくなる。
滞在しているうちに寒い季節がやってくる。弟か妹が生まれてしまったら、さらに動けなくなる。
ミクロフィアのことを思いながら、ここでしばらく過ごすことはつらい。
王宮にいた頃から窓の外をみては、思い出していた地。
「急ぐ旅です」
しばらく瞳をみつめて、決心が揺らがないことを悟ったのか。
母は軽いため息の後に目を伏せて、もう一度私を見た。
もしかしたら、父に言われていたのかもしれない。
「わかりました。夏の季節になったら、顔を出して頂戴ね」
寒がりなのを知っていたのかそんな提案をしてくれる。母こそあの大地に行くべきなのだろうけどお腹に子どもを抱えての旅は長くつらい。
「もちろんです」
本当に顔を出すのかどうかわからない。
季節が一回りする一年後の約束をする。
小さい頃に約束したことを思い出す。今みたいに一年後の約束ではなく、十年後の約束をした相手がいたことを。
どんな子どもだったのかも小さい頃の記憶は曖昧でよくわからない。
十年後に会おうと約束をした。




