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19. フラメルの血

「フラメルの血ね」


 母が告げた言葉は短く、その言葉を理解するのに時間がかかった。

 母の旧姓はフラメル。祖母がいたが、王家に嫁ぐという少し前に婚約破棄になったという過去がある。血の一言で片づけられてしまった。

 泣き叫ばれるよりもましだが、もっと感情的になることを予想していたためにこれは想定外だった。

 ソファーに深く座って、落ち着いた目の色をしている。

 金色の髪と瞳を持つ母にひとつも似ていない。だから子どもには興味がないのだと今日まで思っていた。


「申し訳ありません」

「アリシア、あなたが婚約破棄したかった。そうしたかったのよね?」

「……いいえ」


 しまった。図星だったために返事を返すのが遅くなってしまった。


「そうなのね。あなたは誰かに言われたからではなく、自分で決めたのね? 小さい頃から自分の意志を押し通す子だった。あの人とそんなところまで似ているわ」


 誰かと比べられているような居心地の悪さを感じる。


「まあ、いいけど。あなたの人生よ。好きに生きなさい」

「えっ? 王家との繋がりができると喜んでいましたよね?」

「そうね。でも……いいことばかりではないわ。それは、アリシア、あなたがよく知っていることでしょう?」


 よく知っています。

 ガラス窓に映る夕日は美しく、二つの影が長く長く伸びている。

 

「おばあ様に違う報告をしなくてはね」


 ため息をつきながら、話していることから少し残念に思っていることが伺える。


「私も一緒にお墓参りに行きます」

「いいえ、大変なことなるからいいのよ。あなたが行く必要はどこにもないわ」


 母の実家からの期待の方が大きかったことを示していることから、お墓参りにはついていけないことがわかる。

 

「わかりました。よろしくお伝えください」


 いつもと違うような態度に戸惑う。母という人間と別の人が着ぐるみを着ているのかというほどの感覚。末っ子の甘ったれたような人だった。どちらが子どもかわからなくなるほどに子どもっぽい人だった。それは私の思い違いだったのか間違いだったのかというほどに別人。


「アリシア、あなたに弟か妹ができるわ」


 その一言で、ようやく母親という境地になったのか。だから私にも母として接してくれるのだということがわかった。父と結婚した年が今の自分と同じ年齢だということを考えると無理もないのかもしれない。

 二年間、アリシアが婚約破棄されるまでの期間、母はどんな生活を送っていたのか聞いてみたくなった。

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