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16. 言葉の鎖

 エドモンドの失望する顔が目に焼き付いて離れない。

 私は優しい人間になりたかった。でもなれなかったの。この場所では負けないように歯を食いしばるしかなかった。あなたの隣で何もなかったようにして笑うことができたらよかったのかもしれない。

 頭の中に浮かんだ言葉は、お互いを縛るだけの鎖になる。

 伝えたいことは、そのことではない。

 

「今までありがとうございました」


 さようならの代わりに感謝の言葉を伝える。

 彼に背を向けると歩き出す。

 震える肩を抱きしめるのは、もう少し先にしないと気付かれてしまう。

 顔をまっすぐに上げたまま、衛兵の守るドアを抜ける。

 背中でドアが閉まる音がする。

 私の新しい人生の始まりのはずなのに終わりのような音に聞こえる。

 もっと華やかで、鮮やかに去ることができると思っていたのは、思い違いだった。

 こんなに苦しくてつらいのならば、知らないフリをして横で笑っていればよかった。

 胸が押しつぶされるような痛みと熱さに目をつぶる。

 いつの間にか背中を丸めて、自分で自分を抱きしめていた。

 今からの人生をひとりで生きることの不安と生きる目標みたいなものが崩れ去った瞬間だった。


「巫女姫様、大丈夫ですか?」


 後ろから声がかけられる。


「……ありがとう。大丈夫です」


 顔は向けないまま、丸まっていた後ろ姿をもう一度伸ばして歩き出す。

 最後まできれいな人だったと言われたい。

 これで本当のさようならという言葉をやっとでいうことができる。


「エドモンド、さようなら」


 誰も聞いていないのに言葉に出すと、本当に終わりなのだと実感がわく。

 二年間という年月は、長くも短い。

 お互いを知るには、十分な時間に思えたのに過ぎてしまえば、何も知らなかったことに気がついた。

 彼の好きな歌も花も本さえ知らない。

 ただひとつだけ知っていることは、スイーツ全般が嫌いなのにたったひとつ好きな食べ物があるということだけ。

 見知らぬ女性とキスしていたと噂になった日から、エドモンドの前から早く去りたい気持ちでいっぱいだった。

 彼とは永遠にお別れだと思うと清々すると思っていた。

 この胸のつかえも取れると思っていた。

 薔薇の棘がより奥深くに刺さったまま抜けない。

 胸を押さえながら、痛みに気がつかないふりをして歩く。

 これはいつか忘れてしまえる痛みだとわかっていながらも涙は流れる。

 涙は誰にも見られてはいけない。

 馬車に飛び乗ると二人の侍女が控えていた。


「アリシア様よりも早く馬車に乗っていたことをお許しください」

「どこまでもお供致します」


 二人の息の合った言葉にさらに涙が流れた。

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