15. 守りたい人
ティアナは座り込んで泣いてしまうが、両腕を衛兵に抑えられると連れていかれた。
未来の王、王太子という立場の者を欺いた罪は大きい。
ロチルド家全員が罪に問われたりしないだろうか。
リリーの事が心配だ。もし、罪に問われたら全身全霊をもってしてでも彼女のことは助ける。
終わったのだと思うと力が抜けた。
座り込んでしまった私を気遣うようにして、エドモンドが手を伸ばす。
その手を払いのけるのは、違う気がしてそっと彼に委ねる。
引っ張られるようにして、起き上がる。
彼に委ねてしまった手は、まだ離してもらえなくて、波が引き寄せられるようにして自然に彼の腕の中に収まった。
「助けてくれてありがとう。ひとりだったら、きっと彼女の嘘を暴くことはできなかった」
耳元で囁かれるボイスは、反則である。吐息が耳元に触れてくすぐったい。赤くなった顔を見られたくなくて、両手で顔を隠す。
「耳が赤いよ」
その声に両耳を隠す。
「やっとで顔が見れた。君との距離は、臣下ほど遠くないことがこれでわかったね」
その華やかな笑顔にますます顔は熱くなるばかりだ。
「距離は遠い方がいいと思います……」
「婚約破棄はなしだ」
「それは……無理ではないでしょうか。宣言してしまった言葉は、もう元には戻りません」
両陛下の顔を見ると、悲しそうな顔をしていた。
「アリシア、よく収めてくれた。この件はこれで終わりにしたい。ロチルド家には責任追及をして貴族の称号剝奪になる。しかし、婚約破棄を宣言してしまったことはどうにもならない。公の場でしてしまった責任は取るしかない。もう一度婚約者とするには、何か理由が必要になる。前回は巫女姫という国を揺るがす存在ということでごり押しができたが。今回は無理だろう」
ごり押しだったのか。それはいろいろなところからの反発があっただろう。
それでも私を欲しいと思った理由は、黒魔術使いと呼ばれる父の存在が大きい。
彼を宮廷にとどめておきたい。
その理由が欲しかったのではないだろうか。
父の研究結果は、確かに脅威かもしれない。
貴族側につかれると厄介だと思い、自分の手元に置いておきたかった。
「チャームの魔法にかかっていたということが公になる方が問題だ」
授業を抜け出している。勉強していない未来の王、そちらが知れ渡る方が問題だ。
それを良しと思い、利用する者が現れる。
「今日、すぐに王宮を去らせて頂きます」
「許そう。しかし、アリシア、時がたてばまた戻ってくれるか?」
「陛下、恐れ入ります。しかし、未来のお約束はできません。どうなるかもわからないこの身は、田舎で静かに暮らしたいと思っております」
エドモンドの瞳が大きく見開かれると、アリシアを逃さないというように大きな手が両肩に置かれる。
「王都を離れる……のか?」
「離れます……」
瞳をまっすぐに見ることができない。
「婚約の申し込みがたくさんきますわね」
「君はこの事態をわかっていて、婚約を見直すと言ったのか?」
何も言い返すことができない。
『わかっていた』『わかっていなかった』どちらの言葉を言っても嘘になる。
何となく婚約破棄になるのではないかという予感はしていた。
しかし、どちらとも言えない微妙なバランスの上に婚約という名前のものがのっていた。
「ごめんなさい」
頭を下げることしかできない。
それは誰に対してなのか、彼に対してなのか。両陛下に対してなのか。国に対してなのか。
力を発揮できない婚約者は、彼を守ることなどできない。




