14. 魅惑の代償
人肌につけると香りは、その人の香りと混ざって独特な香りとなる。
まだ混ざっていないということは、つけ直したのは今ということか。
ティアナの顔を見るとなぜか違和感がある。
また書き直したのか、唇の横のホクロが少し大きい。よく見ると指紋のようなものが見えた。
また? 違和感の正体を探る。
粉末上の香りを少し水をつけて練ると粘り気のある小さな香り玉が出来上がる。
それを唇の横に塗ったとしたら、そこに吸い込まれるようにして鼻を近づけたエドモンドに上手にキスしたとしたら、既成事実の出来上がりだ。
「唇の横のホクロが魅力的ですわね。でも昨日よりも少し大きい気がします」
エドモンドに返すために洗ってあったハンカチを取り出す。
彼女の唇のところに当てると拭いた。
黒い香り玉は、潰れてしまい彼女の顔に黒い汚れを作った。
半分はハンカチについている。
ティアナの顔が怒りに変わる。
「これはどういうことですの? そのハンカチで汚れをつけたのね!」
そういう言い方もできるのかと感心していた。
「これはエドモンド王子様の私物です。彼の魔法で水浸しになったハンカチを返却するために洗濯をしていました。汚れはついていません」
「嘘よ! 私を陥れるためにハンカチを使ったのね!」
うーん。これでは堂々巡りだ。
「顔を洗ってみたら、いかがでしょうか? ティアナ、さま」
甘いイランイランの香りみたいに魅惑的な言い方をしたつもりだったが、彼女が嫌だというように一歩下がったのを見逃さなかった。
「そうよね。ホクロがなくなってしまうわよね」
そうだと言わんばかりに真っ青な顔色になっている。
「これは俺のハンカチだ。ロチルド嬢、汚れはついていなかった」
「エドモンド様、どうして私が糾弾されなくてはいけないのでしょうか? 将来を誓い合ったではないですか!」
「人を魅了する香りで惑わせたときの約束は無効だと思うが? 君はどう思う?」
冷たい人を寄せ付けない瞳でティアナを見ている。
イランイランはエキゾチックで、夏を思わせるような、ひと時の束の間の恋を楽しむような、そんな香り。
この香りに惑わされたにしてもエドモンドは恋を楽しんだのではないか?
彼の顔を見るが、もう恋を忘れてしまったかのようにして、彼の瞳の中には怒りしか見出すことができなかった。




