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10. 君は行かないのか?

「ティアードに遅れますわ。あの学園は遅刻を何度も許すほど甘くありません」


 王子にとっては苦言だろう。これだから嫌だと思われたのだとわかっていても自分をすぐには変えられない。


「君は行かないのか?」


 まっすぐな瞳で私を見てくるところから、悪びれた素振りも嫌味で言ってるとも思えない。

 自分が昨日決めたことを忘れたかのようなお気楽ぶりに手が震える。


「昨日、ご自分が決められたことをお忘れですか? 私はもう学園に行けません」

 

 何も罪はなかったのだけれどもまるで他の人と恋をしているようにして、一方的な断罪イベントがあった。学園にはもういけない。

 断罪イベントって何? 自分の頭に浮かんだ単語に戸惑いを覚える。

 頭の右脳が意識を持ったようにして、ずきりと痛むのを感じた。頭が波打つようにして痛む。立っていられなくて倒れる。


「思い出せ」


 野太いNOと言わせないような声が頭の中を支配する。


「何を思い出すの?」

「君の役割を思い出せ」


 耳を塞ぎたくなる。


「アリシア!」

 

 エドモンドの叫ぶ声に誰かとのリンクが切れた。頭の中に直接語りかけるような声だった。

 彼の手のひらが背中に添えられるのを感じる。

 そっと目を開けると、彼の瞳が近づいてくるところだった。

 キスされるのかと思ってぎゅっと目をつぶる。

 彼の額が私の額に当たったとき、心配して熱を測ってくれているのだとわかった。

 自分の勘違いに頬が熱くなる。


「ふむ。熱があるのか?」


 額は熱くなかったのに頬が赤くなったことから、熱があると思ったらしかった。

 片手で背中を支え、もう片方の手でハンカチを取り出して、魔法で水を作り濡らす。器用に片手でハンカチを絞ると私の額にのせてくれた。


「婚約者でない私に優しくしないでください」

「まだ婚約者だ」


 上半身を起こすと額からハンカチが地面に落ちた。


「昨日の言葉は嘘ですか? ティアナ様はどうされるのですか?」


 ティアナという言葉を聞いて、エドモンドの開いていた手が拳を握るのを見逃さなかった。


「彼女の魔法にかかっていたのかどうかを確かめたい。君の協力が必要だ」

「何もご協力できません。それに私は今日中に王宮から立ち去りたいと思います」

「それはできない」


 背中に添えられた手から逃れたくて、両手で突っぱねようと彼の胸に手を置いた瞬間、抱きしめられた。

 両手を自由にするためには、彼の背中に手を移動させるしかない。

 その図はまずい。もっとも避けなくてはいけない。こんなところを誰かに見られたら、どう思われるのか。

 婚約破棄したいのにできないんじゃないかという思いが頭の中で回りだす。

 東屋でゆっくりとした時間を過ごしていたことを悔やむ。

 このままじゃ、婚約破棄できないーーーー!

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