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第五十四話 おっぱい星人、弾丸となる


 俺たちが動くと同時に相手方の8人も一気に展開を始めた。


 数合激突しただけでわかる。やはりこちらへの特効戦力を揃えられているだけあって若干分が悪い。解き放たれたHカップの乱舞から放たれるティッツボムの爆撃魔法を障壁でガードしているバリエラ、身体強化魔法特化の小柄なそばかす女に防戦を強いられているミルヒアはこのままだと押し切られてしまいかねない。


 敵の顔など見分けはつかないが、〈抜頭〉さえしてくれればこちらは間違えない。〈幻照〉と〈追い陽炎〉の並列使用で視野を拡大。使用魔法とそれぞれの乳気を確認。五感をフルにして倉庫内を跳ねまわる16対のおっぱいの鼓動を感じ取る。戦場をおっぱいの箱庭として脳内で再構築する。


「……ッ!」

 音ばかりでなく、飛翔も呼吸すらも真空に封じられた奏鳴が苦しそうに着地する。

 一番まずいのはここか。即断即決ッ!

 戦場に介入すべく全速で駆けだす。


「男ッ! 邪魔をするなッ!」

 黒髪をおかっぱに刈り揃えた真空使いの女が俺の乱入に反応する。右〈房珠〉で奏鳴の周囲の空気を奪いながら、左〈房珠〉で俺の息を封じるつもりか!

 窒息対策に深く息を吸い込んだ俺を見てニヤリと笑うおかっぱ女。だよなあ。そう見せかけて……


 ボッ


「なにィ!」

 こっちの足元を真空にしてそこに引き寄せ転倒させようってハラだものな! 顔はきついが素直ないい〈魔頭〉だぜ! そうもギンギンに足元狙われちゃあな!

 おかっぱ女の真空魔法は一定範囲の空間の空気を消滅させるもの。瞬間的な発動と継続的な発動を使い分けられる暗殺者としてはなかなか恐ろしい魔法だが、タネがわかればそこまでだ。乳憎むもの(アンティバスト)経由で魔法の情報がすべて漏れているとするなら手の内が割れている奏鳴が後れを取るのもやむなしであるが、こうなってしまえばいつもの一対一。


 おっぱい星人(バスティアン)に揉めない相手ではない。


「来るなッ! 来るなッ!」

 狂乱気味に不可視の真空をこちらに放ってもそれが〈房珠〉の先にある限りはすべて見えている!

 〈笹流〉など使うまでもない。デボネアならここから魔力ハンマー戦法に切り替えたのだろうが、それもない。

 〈房珠〉に頼りきった戦い方の弱点でもある。自分の在るべき戦場では強いが、自分が在るべきではない戦場への対応が遅い。

 無造作に近づき、無造作に背後に回り込み、無造作に〈妨害〉(ジャミング)。それで決着だ。


「な……〈詠衝〉ができない……!」

「いまだ奏鳴ィ!」

「ばすちー……人使い荒いッ!」


〈惑乱音衝〉!


 真空圏から解放された奏鳴の収束音波が俺ごとおかっぱ女を襲う。

「ガッ!

 おかっぱ女は音波の直撃を受けて膝から崩れ落ちた。

「ばすちー、だいじょぶか?」

「問題ない」

 奪ったばかりの真空魔法で俺には音が届かないようにしてある。駆け寄ってきた奏鳴のほうが満身創痍だった。


「すまねーばすちー、耳とか息とかキーンとしてちょっち辛い、休ませてくり」

 真空漬けにされたダメージは思いのほか深刻なようだ。むしろ相性の悪い敵相手によく頑張ってくれた。

「ああ、任せとけ、こいつだけ見ててくれ」

 おかっぱを奏鳴に預けると、左手で奏鳴の〈房珠〉を揉みしだく。うん、慣れ親しんだいい〈房珠〉だ。奏鳴の魔法とやる気が俺の身に宿る。


「借りてくぜ」

「借りられたぜ」

 奏鳴にニヤリと笑うと、俺は左右のグローブの魔法を同時に発動した。


〈高速飛翔〉+〈真空圏〉!


 通常よりも空気抵抗の少ない超高速の体当たりの弾丸だ! 狙うは……デボネアに撃ち込んでる魔法矢使い!

 スピードが乗ったまま右手を突き出しそのまま激突する。狙うはもちろんその〈房珠〉!


「なん……! ぐあっ!?」

 細いツインテ―ㇽを振りかざしてハリのある〈房珠〉から魔法の弾丸を放っていた女が、横合いから俺の超高速掌底を受けて吹っ飛ぶ。あとはデボネアが如何様にも調理してくれるだろう。

 こちらに衝撃はほとんどない。なんせおっぱいは柔らかいからな! 乳揉む力を宿した俺にダメージはない。むしろいろいろ回復している! 俺はそのままその女を弾みにして俺は宙に舞い上がった。思ったより高く跳ね上がってしまったが……奏鳴に連れていかれた高さを知っていればなんということもない!

 空中で体をひねり、右手を眼下に突き出す。


〈高速飛翔〉+〈魔法矢〉!


 ドドドドドド


 ぶつかりついでにツインテ―ㇽから奪った魔法矢を右手から狙えるだけ狙って放つ!

「うおおおおお!?」「ぬあっ!?」

 上空からの魔法矢の嵐を受けて、プニルの雷をいなしまくっていた鉄鎖使いと、砂霧を押し込もうとしていた暴風使いがバランスを崩す。反撃してきたのは氷毬を追い詰めていた光使いか! 俺はなんとか〈高速飛翔〉を駆使して撃墜を免れる。


「器用な真似をしますね貴方。でも光は避けられないでしょう!?」

 輝くような金髪を振りかざし光使いが〈光波〉を放つ。高速の面攻撃だ。これは少々しんどい! ダメージは〈聖雷光〉にはるかに劣るが、回避がほぼ不可能に近い。特定の方向には効果絶大だ。氷毬の〈反射魔法〉も点の攻撃には対応できても面の攻撃には対応できない。

 受けに回ったら負けてしまう。速攻! 右手に残った〈魔法矢〉の魔力をすべて注ぎ込んで特大の一発をぶち込む!


〈魔力矢〉!


 ボッ


「そんなゆるい攻撃でどこを狙ってるのですか!」

 金髪があざける様に余裕で極太魔力矢をかわす。そうだよな……光と魔力矢じゃあ遅く感じるよな……

 でもどこを狙ってるかに関しては、どんぴしゃりだったぜ?


〈反射魔法〉!


 ボッ


「ぎぁっ!」

 狙い通り氷毬に撃ち込まれた〈魔力矢〉は、完璧な反射をもって金髪女を背後から撃ち貫いた。


「ばすちあ……無茶する……」

 肩で息をする氷毬。急なこちらの要求に良く応えてくれた。だがこっちを見つめる氷毬の視線が、絶対にやってくれると俺に確信を持たせていたからな! 正直何も心配はしていなかった。

「やれるって信じてた」

「ふんす」

 頭をなでる代わりに両手で氷毬の〈房珠〉をわしわしする。氷毬の魔法が両手に宿る。


「よーっと」

「いただきましたわ!」

〈砂牢〉!

〈収束雷穿〉!

 その時にはすでに砂霧もプニルも隙を見せた眼前の相手を鎮圧済み!

 さすがだぜ! あと残るは……


〈凍結〉+〈凝結〉!


 パキキキキ……ギシリ


「なにっ……私の〈霧〉が……!」

 左手で灼狩の攻撃を濃霧で封じていた霧使いの霧を凍り付かせる! そして氷と化したその霧の粒を右手の魔法で霧使いを核に〈凝結〉させる!

「な……んだ……と……」


 霧使いは霜まみれになって地面に転がった。


「バスティア様、お手数をおかけしました」

 肩で息をする灼狩。体温がかなり奪われている。

「しょうがない、灼狩が霧を吹き飛ばそうとすると倉庫の中全部焼けちまうからな」

 冷え切ってしまった灼狩の体を労うように抱きよせる。


「しゃおらーっ!」

 ドゴム

 同時に、フリーになったデボネアの妨害魔法の支援を受けたミルヒアがそばかす女の鳩尾に拳を沈めていた。


    *    *    *


「ぐっはぁっ……」

 ミルヒアの一撃を受けたそばかす女がドンの近くまで吹き飛ばされる。


「ばかな……!? 何が起こった!?」

 一瞬の攻防で手駒のほとんどが壊滅したドンが初めて驚愕の声をあげた。

 いいねえ伊達男、その顔が見たかった!


「言ったよな? 俺は(キング)じゃなくて(ポーン)だってよ」

 ふんぞり返っているのは性に合わない。せめて愛するものたちと同じ戦場に立つ。

 命を賭けるくらいしか、俺は彼女らの信頼にこたえることができない。


 驚愕に染まっていたドンの顔がだんだん怒りに染まる。

「役立たずの駒どもだ」

「……申し訳ありま……ぎいっ」


 あの野郎……足元のそばかす女の〈房珠〉を足蹴にしやがった。


「やめろ、ドン。お前の指示が悪かったんだろう」

「俺は勝てと指示を出した。負けるような戦いをしろとは言っていない。こいつらが無能だっただけだ」

 ぐりぐりとそばかす女をいたぶるドン。

「力がお前ら女の能だろうがっ! 男ごときに後れを取って何のために生きてやがる! せめて俺の代わりに戦うだけの道具として職務をまっとうしろや!」

「お前……そんな了見でバリエラに粉かけてやがったのか」

「そうだが?」

 ドンは感情のない表情でこちらを見た。


「使えるから価値がある。使えなけりゃ価値なんぞない。俺は温情だぞ? 俺に恥と損害をくれてくれたティッツボムすらこうして未だ使ってやってる。それに対してこいつらはどうだ? なにが実力主義だ。なにが〈治智比べ〉だ。男の俺が受けてきた屈辱はこんなもんじゃねえぞ!」

「がっ」

 ドンにあご先を蹴り上げられ、女は気絶した。部下になんてことしやがる……

 

 こいつは……ダメだ。こいつの価値観とはもう話すだけ無駄だ。

 そうか……乳憎むもの(アンティバスト)がなぜこの男に接触したのかよくわかった。

 こいつも、この世界を呪うものの一人だったのか。

 もう、かけるべき言葉はない。

 こいつは俺の敵だ。


「観念しろ、ドン・マルミエ」

「それを言うのは少々早いのではありませんか?」

 ボンデージ姿のティッツボムが立ちはだかる。んんん正面からみるとやっぱりド迫力〈房珠〉だぜ。前会ったときはスーツに無理やり押し込まれていた〈房珠〉が今は惜しげもなくまろび出ている。されど練り上げられた魔力は本物。剣呑な爆裂魔法をいつでも雨あられと降らせるだけの準備はあるようだ。


「ふは、ふははいいぞティッツボム、そいつらを抑えてろ!」

 ドンが懐から取り出した笛を吹くと、倉庫の内外からぞろぞろと新たな手勢が現れた。

 その数……30人はくだらない。それにまだまだ手勢は控えてる塩梅だ。〈房珠〉を晒した女がいっぱいだがさすがに喜んでいる場合ではない。


「こうなったら出し惜しみはなしだ! 物量に押し込まれて死ぬがいい!」

 半ば狂気に染まったドンが叫ぶ。すでに王の器もなにもない哀れな姿だった。

 

 囲まれてる……か。ならば!

「砂霧ィ! 氷毬ィ!」

「あいよー」

「うんっ」

建てろ(・・・)

「「お任せッ!」」

 猛然と〈房珠〉を〈詠衝〉させる二人。

 圧倒的多数相手に乱戦は不利。ならば、敵陣の真ん中で籠城戦をしてやる。

 この展開は事前に予想出来ていたこと。二人にやれるかと聞いたら、やってみせると頷いた奇策。

 二人の消耗は決して軽くはないが、信じろというなら俺は信じる。万にひとつも疑いはない。


 今まで何度も繰り返されていた二人の連携建築魔法。いつもの倍以上の速度で繰り出されるも、ここ一番で寸分の迷いも歪みもない。

 倉庫の中心を軸に無味上がっていくは……


 バキ、バキバキバキ、バキ、バキバキ


「と、砦だッ!?」「氷壁の砦だと……!?」

 チンピラたちの驚愕の声も氷壁の彼方にくぐもって聞こえる。

 倉庫の中で、完全に俺たちとドン、そしてティッツボムだけが5mほどの氷の城壁で囲まれた中に隔離されていた。


「はは、さすがにー、無理をしたかなー」

「からっけつ。でも20分は持つ」

 砂霧と氷毬が息を荒げてへたり込む。それを抱きとめたのは灼狩。


「バスティア様、外の雑魚の応戦はアタシたちで引き受けます。そちらはお任せしました」

「飛び道具持ちは外の応戦に出たほうがいいですね」

 ミルヒアも障壁にとりつく。

「バリエラのことは頼みましたわ」

 プニルも外に雷撃を放つ構えだ。

 デボネアはすでに氷壁の上で小火精(ティンダーベル)に指示を出している。


「なんなのだ……なんなのだ貴様らはあ……!」

 驚愕を繰り返したドンにもはや気障男の面影もない。しかし、それでもティッツボムはドンの傍らを離れようとはしなかった。

 その正面に立つ俺とバリエラ。


「退いて、は、くれないか」

 バリエラがティッツボムに念を押すように尋ねる。

「お断りします」

 ティッツボムも悠然と答えた。

「この街の全てを捨てて生きている貴方にはわからないでしょうけれど、私にはこの街で守るべきものがあります。そのためには、どのような命令であれ、為すべきことをただ為すのみ」

 ティッツボムの瞳に燃えるのは冷徹な決意。


「そうか、こっちはお前ほど賢くは生きられなかったよ」

 バリエラの口から洩れた言葉は、あるいは過去の好敵手との決別の言葉。 


「はは、ははは。いっぞティッツボム。褒美に次はなににしてやろうか。そうだ聖都を掌握した暁にはそこの支店をお前に」

「もう黙れよ金満野郎」

 これ以上このクズに口を利かせるのは、この目の前に立ちはだかる女の覚悟と、素晴らしい〈房珠〉に失礼だ。

 

おっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)バスティア、だ」

 〈治智比べ〉の儀礼に則り、俺は正式にティッツボムに告げた。

「元ボムボム団総長にして、ブラーレス商会所属特殊秘書官ティッツボム」

 俺の意を解したティッツボムが悠然と受け答える。


 そして、バリエラが名乗る。

「マンチェスター家付き戦闘メイド、バリエラ、なのですっ!」

 それは今を生きるバリエラの名乗り。


 どこか満足そうな、それでいて寂しそうな顔を一瞬見せて、ティッツボムは俺たちに襲い掛かってきた。

 俺たちも迎え討たんと駆けだす。

 過ぎ去ってしまった残酷な過去の因縁を断ち切るために。

 

 

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