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第五十二話 おっぱい星人、再会する


 俺の苦悩をぶち破るように、店の扉が扉がバンと開く。


「あぁ!? お前バリエラか!?」

「アデラ……」

 扉を開けて入ってきたのは、白い髪を持つ褐色女性だった。小柄だが突き出す〈房珠〉は見事なFカップ級……肉体増強魔法の使い手か。裸の上半身にタオルだけ引っかけてる素晴らしい格好から見るに、港の肉体労働に従事しているようだ。


「よくこの界隈に顔出せたな? 一発殴ってやるからこっちこい」

「逃げねえよ……」

 苦笑して応じるバリエラ。剣呑な雰囲気のまま店を出ていこうとするので声をかける。

「バリエラ、大丈夫か」

「すまね……ごめんなさいですバスティア。少し席を外しますです。ついてこないでくださいね」

「しかし……」

「行かせてやりなよ。邪魔するのは野暮だ」

 カウンターの赤銅髪に止められた。

 肩を掴まれた思いがけず強い力に椅子に引き戻される。


 バリエラはアデラという女に連れられて出て行った。


「すまないな。あれがあいつらの挨拶なんだ」

「一体何があったんだ。あの二人に。ええと……」

「ここじゃピーコックって言われてるよ。舎弟くん」

「バスティアだ」

「バスティアはどこまでデボネアのこと聞いてるんだ?」

「昔この辺仕切ってて、ドンに粉かけられたことがあて、チームは壊滅したってとこまでは聞いた」

「じゃあ大体知ってんな」

 ピーコックはカウンターに肘をついた。


「アデラの弟な。デボネアの舎弟やってたんだが、バリバリ団が崩壊したときの戦いで死んでるんだよ」

「……」

「バリバリ団はバリエラがこの界隈の身寄りのないガキ集めて作ったチームでな。命預けられた舎弟は何があってもバリエラが守るっていうのがチームのモットーだったんだ」

「……バリエラらしいな」

 お姉ちゃん風を吹かせる小さなバリエラの姿が容易に想像できた。


「ああ、食いっぱぐれたガキをあつめて、結構きわどいことをして生活をしてた。でも、何があってもバルエラが守ってくれるってな。だからみんなバリエラのことを慕ってた」

 ミルヒアと似た生い立ちだ。だが、自らを守る魔法を目覚めさせたミルヒアと違い、デボネアは他人を守る魔法を必要として(・・・・・)覚醒させた。

 いつか見たバリエラの体の細かい傷を思い出す。


「それが……」

「ああ、バリエラがドンの誘いを断ったせいで、金の力で襲撃されて壊滅した。街の方のチームは結局そのまま押し込まれて吸収されちまったようだけどな」

 街のチーム……ティッツボムか。フリントでのあの意味深なやり取りはそういうことだったのか。

「そう、だったのか」


 それでバリエラはディカップの街を出たのか。

 そして今俺たちのために自分の身を囮にしようとしているのか。

 おそらくは彼女の中のなにかのけじめのために、一人で敵に接触しようとしている。

 バリエラ一人危険にさらせばエルブレストを、そして世界が救えるかもしれない。

 確かに、それは有効な手段ではあるのだろう。


 だが、ダメだ。

 それは、俺が嫌だ。

 俺はおっぱい星人(バスティアン)だぞ。

 一度掴んだおっぱいを手放して、なにがおっぱい星人(バスティアン)だ。

 だが……なにができる?


「……少し頭を冷やしてくる」

「ああ、この辺物騒だからよ。気をつけろ」

 俺はふらふらと店外に出る。


    *    *    *


「ちくしょう……身動きが取れねえ……」


 思いつく策がひとつある。だが、それには重大な問題がある。

 相手は商会だ。組織だ。勝算のない行動は仲間たちへのリスクが大きすぎる。

 積み上げられた木箱を蹴飛ばしても、何もアイデアは出てこない。

 冒険者を雇う……? いやすでにこの街の冒険者は輸送で拘束してしまっている。

「戦力が足りねえ……ッ!」

 それはどうしようもない現実だった。


「なんだバスティア、そんなことで悩んでたのかよ。病気かと思って心配したぜ」

 唐突に聞き覚えのある声がかけられて混乱する。

 まさか、この俺が接近を気づけないだと……いや、すると相手は男か?

「あんたは……!」

「よう。久しぶり、って程でもないやな」

 それは、その場にいるとは思っていない人物だった。


「セプト……師範」

「よう、忘れられてないようで何よりだぜ」

「なんでこんなところに!?」

「そりゃあ王命よ。今一番潜入調査が必要なのがこの街だってな。弟子たちの実地研修も兼ねて俺が派遣されたってわけだ」

「宵影流の皆も来ているのか」

「おうよ、ブラーレスに探りを入れてたら、お前らが来たんでな。あんたらも念のために監視させてもらってた」

「ああ、尾行してたのはあんたたちか……」

 灼狩が感じ取っていたのは彼らの気配だったのか。


「なんだよ、ずいぶん遠くから見てたんだぜ? バレてたのかよ」

「うちには規格外がいるからな……」

「ああ、こりゃあ俺もあのボンクラどもに強く言えねえな。鍛え直しだ」

 セプトは愉快そうに笑った。その笑い声を聞いているうちに、なんだか涙が出てきた。

 頼ってもいいのか……? ただ俺のわがままを通すために……?

 いや、縋る。かっこつけて大切なものを失うのはうんざりだ!


「セプト師範、力を貸してくれ!」

「いいぜ」

「このとおり……えっ!?」

「そもそもそのつもりで接触しに来たんだ」

 セプト老はぽりぽりとほほを掻いた。


「ブラーレスには探りを入れてたんだけどよ。やり過ぎちまってな。警戒させちまった」

「もしかして、この数日ブラーレスがかかりきりになってたってのは」

「俺たちへの対策だな。だから、仕掛けるっつうならむしろこっちからお願いしたいくらいだ。ブラーレスに正面から揺さぶりをかけてほしい。もう潜入や絡め手じゃどうにもならねえ。そして奴が尻尾を出さないうちは奥の手も使えねえ」

「奥の手とは……?」

 

 セプト老のもたらした情報は、俺の想像を超えるものだった。

 そして、俺が最も欲しかった最後の(ピース)となった。


    *    *    *


 店に戻った俺の表情を見て、ピーコックは軽く眼を剥いた。

 自分でもわかる。きっと今の俺の顔からはすべての憂いが吹き飛んで見えるだろう。

「どうした、バスティア、何があった」

「ピーコックさん、ひとつ頼まれてくれないかな」

 構わず俺はカウンターにつく。軽く気圧されながらもピーコックは応じる。


「なんだい? バリエラの依頼を取り下げてくれってのは聞けないよ」

「逆だ。広めてほしい情報がある」

「へえ?」

 俺の提案を聞いたピーコックは、興味深げに身を乗り出した。 


    *    *    *


「やあ、お前さんに手紙届いてるよ」


 バリエラとの外出から数日が経った夕食時、ギルドの係員が俺たちのテーブルに手紙を持ってきた。

 さっと受け取りに立つバリエラ。しかし係員はバリエラをかわすと、俺に手紙を投げてよこした。

 ぽかんとするバリエラ。フフフその顔が見たかったんだぜお姉ちゃん。

 俺は無造作に【BL】の封蝋を切った。

 

 予想通りの内容に俺はにんまりする。

 読み終わった俺は皆の集まる円卓にその手紙を投げた。


『バスティアなるものへ

 貴君のかたわらにいるBに関して雌雄をつけたい。

 二日後の日没時にBを連れて25番倉庫へ来られたし。

 逃げることなかれ。

                D・M』


「これはなんなのです!?」

 バリエラが悲鳴を上げる。

 声こそ上げないが他の仲間たちも同じような視線を俺に向けている。

「ん、知り合いに情報を流してもらった」

 俺は努めて冷静に言った。



「『バリエラに新しい男ができたらしい』ってな」

 

 ドン・マルミエなんかにお姉ちゃんは渡さない。


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