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第四話 おっぱい星人、暗躍する


「おおお」

 思わず声が出た。冒険者と言えば荒くれの代名詞だ。武器を見せつけるかのように身に帯びているのも少なくはない道理ではあるが。

 この世界における武器とはすなわち〈房珠〉である。つまり武器を見せびらかすがごとくおっぱいを誇示する冒険者がギルドにはあふれていた。


「あ、ミルヒア、また薬草採取行ってたのー?」

 気さくに声をかけてきた猫のようにくりっとした目の栗毛の少女のむき出しの〈房珠〉はCカップ。

「そろそろ貴方もパーティに入ったほうが大きな仕事ができるんじゃない?」

 顔程もある推定Iカップ〈房珠〉を揺らした魔女風の恰好をしたあちらの妙齢の姿は、なんと〈魔頭〉にお札のようなものだけを貼って隠している。

 他にも様々なおっぱ……〈房珠〉持ちたちが個性的な格好でくつろぎ、談笑し、時には真剣な顔で相談をしている。


 そんな中をミルヒアはあちこちに会釈しながら、カウンターへ向かう。見失うわけにはいかない。

 その場にいたすべての女性の〈房珠〉を写真記憶として脳内に焼き付けるにとどめて、意志の力を総動員し俺はつとめて冷静を装いミルヒアの背中を追う。



「はい、依頼の薬草の納品ですね。たしかに」

 ミルヒアが受付に置いた小さな服をの中には、細かい草の実が詰まっていた、

 それを検める受付のお姉さんは見たところ20代半ば。柔らかそうなFカップ級の白い〈房珠〉に色の薄いに大きめの〈呪紋〉、大ぶりの〈魔頭〉がむき出しなのは荒くれ相手の受付の常在戦場の心得と言ったところか。

 得意な魔法は身体拘束系と催眠や鎮静を中心とした精神操作系、あとは近距離に衝撃波を放つ魔法か。


(いかにも受付向きのいい〈呪紋〉をしていやがるぜ)


 俺の視線にも気づかず、ミルヒアに数枚の銀貨を渡したお姉さんは俺の視線も気にせず、そのまま別の書類の手続きに入った。

「ではこの登録証に、従者の名前と必要事項を書きこんでください」

 横からのぞき込むと、名前のほかにも髪の色などの身体特徴を書かされているらしい。

 まるでペットの登録だなと思っていると、ミルヒアの名と俺の名が刻まてたタグまでつけるように言われた。ますます首輪つけられている感がある、とか油断していた。


「同じタグを管理者の方も身に着けてもらいます。照合用の割符も兼ねているのでなくさないように」

「わかりました」

「俺だけじゃないの!?」

「……? 当り前じゃないですか」

 思わず叫んでしまった俺を受け付けのお姉さんが冷ややかに見る。

「ごめんなさいね、バスティアは全然そういうのわかってないんです」

「ほんとちゃんと管理してくださいよ」


 なんでもないようなミルヒアと呆れたようなお姉さんの会話を聞きながら、俺はひそかに悶絶していた。

 俺の知ってる限り、これはお互いの名前が入ったペアアクセサリーというシロモノである。

 なんだこれ、ものすごくなんかこう、照れる!

 そんなこんなで俺はどれほどおっぱいを凝視しても表情を変えないためのおっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)〈雪庇〉(せっぴ)を全力で駆使して、かつてない感情の波と人知れず戦う羽目になった。正直むき出しの〈房珠〉の誘惑より俺には難易度が高い試練だ。

 


「あ、あとひとつ。帰り道に魔物を退治したので、その褒章申請をお願いします」

 俺の内なる戦いを知らないミルヒアが、思い出したように受付さんに言った。

 受付さんは心得たとばかりに例のバーコードリーダーらしきものを取り出す。

 どうやらこの世界では魔物の撃破実績すら〈房珠〉に記録されるらしい。後に知ったことだが、倒した相手の魔力の波長がスタンプのように記録されるのだとか。

 はたしてミルヒアの〈魔頭〉に謎のおっぱいリーダーを当てていたお姉さんの表情がだんだん変わってきた。

「倒したというのは」

「サラマンダーです」

「それはもしかして西の森の?」

「はい、そうです」


 ざわり、とギルド全体の〈房珠〉が震えたように感じた。


「……はい、識別個体フレアクロ―、討伐照明為されました。あの、その、よく倒せましたね?」

「ええと、はい。いろいろと運がよく……フレアクロ―?」

「ええ、先日Cランク3人組が返り討ちにあいまして、なんとか逃げ帰ってきた相手です。それで西の森のサラマンダーは識別個体(ネームド)に格上げになったんですよ」

「へあ」

 ミルヒアが妙にかわいらしい間抜けな声を漏らした。


 報奨金です、と置かれたさっきのものより明らかに大きな銀貨3枚を居心地悪そうにしまい込み、じゃあ、とギルドを出ようとしたミルヒアだったが、周りがそれを許してくれなかった。

「おいミルヒア凄いじゃねえか!」「あなたソロよね? どうやって戦ったの?」「まさかあのミルヒアがねえ!」「今日は流石に直帰させないよ!さっきので一杯奢れ!いやこっちから奢らせろ!」

「あはははは……」

 我が敬愛すべき主殿は完全に時の人になっていた。いやあ……私なにかしちゃいました?ってそれお前がやるんかい、と心の中で突っ込みつつ、ミルヒアの横で期せずして訪れたおっぱい包囲網の絶景のご相伴を楽しんでいたその時だ。


 バン!


 誰がが激しく机を叩いた。しんと周囲が静まり返る。

 音の先には明らかに苛立った三人組が占拠している卓があった。

「信じられないですわね!」

 リーダー格と思しき赤髪ツインテールが叫ぶ。ミルヒアより一回り小柄な体躯を豪奢な金属鎧に包んでいるが、突き出された形のいい〈房珠〉はBカップ。抜き身の〈魔頭〉は怒りに打ち震えていた。

「Dソロの貴方『草刈りミルヒア』がフレアクローを狩った? 貴方どんなベテンを使いましたの!?」

 ペテンときたか。流石にムッとして小声でミルヒアに聞く。


「あの感じ悪いのは誰だ」

「プニル・マンチェスター。Cランク冒険者です」

「ああ、もしかしてフレアクローに返り討ちにあったCランクって」

「たぶんそうでしょうね」

「何をヒソヒソ話してますの!?」

 プニルがいら立った足取りで距離を詰めてきた。そしてなんと背伸びして怒りに屹立した〈魔頭〉をミルヒアの〈房珠〉に突き入れた。

 歪む大小二組の〈房珠〉越しにプニルがミルヒアに言い放つ。

「わたくしプニル・マンチェスターは貴方ミルヒアに〈治智比べ(ちちくらべ)〉を申し入れますわ! 」



 〈治智比べ〉とは。

 魔力の強度が秩序を決めるこの世界における魔力を持つ者同士の決闘裁判方式である。

 それぞれが賭けるものを宣言したうえで双方魔法をもって勝負をし、采配はその結果に従う。

 勝敗は明確に〈房珠〉に記録が残るために、一度ついた勝負序列はごまかすことができない。

 智慧の象徴ともいうべき〈房珠〉に誓って優劣を比べ裁定を治める。それゆえに〈治智比べ〉。

 ……と横にいた新米冒険者らしきAカップが早口で解説してくれた。



「賭けるものは〈冒険者としての上下の名誉〉。勝負形式は一対一。それ以外は一切求めませんわ!!

「俺にわかるように解説してくれ」

「ええと……この場合あっちが勝つと、フレアクロ―を倒したものより強いという名誉が担保されて。負けて帰った雪辱が果たせます。私が勝ったら私はCランク冒険者よりも強いという評価を得ます」

「かいつまんで言うと?」

「『お前のことが気に食わないから仕置きしたる。上下ハッキリつけたるわ』って言ってきてます」

「わかりやすい」

「どうしますのッ!」

 しびれを切らしてプニルががなり立てる。たしかに喧嘩を売っておいて放置されるのはいたたまれないだろうが。


「受ける必要はあるのか」

「ないですね。こっちに利益がありませんし」

「じゃあ断る?」

「いえ、受けましょう」

 ミルヒアから予想外の答えが返ってきた。無言で真意を問う。


「私も信用商売です。成し遂げた仕事の内容に文句をつけられたら黙って引き下がるわけにはいきません」

 ふんす、と胸を張る。形のいい〈房珠〉がぷるんと揺れる。


(……いいね、気に入った)


 心の中でこのミルヒアという少女のことを甘く見ていた不明を詫びる。

 気弱で温厚そうなお人よしなだけに見えたが、守るべきものを知っている。

 当座の主としてはまずまずの好物件だ。美巨乳だし。


(この世界に来て最初に出会えたのがミルヒアでよかったのかもしれない)


 ならばこの際、自分の主となるミルヒアの力を見ておくのも悪くない。


    *    *    *


 この手のギルドには演習場と呼ばれる模擬戦を行う場所が併設されている。〈治智比べ〉の場所にはそこが選ばれた。

 むやみに人目を引いてしまったためにギルド関係者だけでもギャラリーがとんでもない量だ。すなわちすずなりのおっぱい展示場である。とはいえさすがにそちらに気を取られている場面ではない。


 ミルヒアから軽く聞いた情報をもとに、プニルたち三人を観察する。特に〈房珠〉を念入りに見る。


 つき従っているひとりはバリエラという名だそうだ。板金鎧パーツで補強されたメイド服(もちろん胸開き)を着用している。得意魔法は硬化を中心とした肉体強化魔法と障壁魔法ということで、とことん防御に特化した色白のHカップ使いである。


 もうひとりはデボネアというらしい。バリエラと揃いの鎧を身に着け、主よりも肉付きのいいEカップの〈房珠〉は束縛魔法と惑乱魔法が得意というデバフ構成である。


 となれば、この二人に補助をさせて主に火力を出すのがリーダーのプニル・マンチェスターの役目なのだろう。得意な魔法は電撃魔法と加速魔法いう前のめり構成だ。推察するにミルヒアと戦闘スタイルは似ていると思われる。

 バリエラとデボネアの二人はもともとプニルの使用人だったらしい。マンチェスター家というのはこのエルブレストの領主の家系で、プニルは正真正銘のお嬢様ということだ。

 当然三人のコンビネーションは年季の入った洗練されたものであろう。しかし今回は一対一だから補助はない。純粋な火力のぶつかり合いとなるはずだが。


(胸騒ぎがしやがる)

 

    *    *    *


 演習場の中心にミルヒアとプニルが対峙する。両者〈鞘〉を着用した〈納頭〉(のうとう)の構えだ。その間は10m程度か。審判はいないようだが開始の合図役は他の冒険者が買って出た。ギャラリーの視線が演習場に集中する。おそらく周囲に気を散らしてるのは俺だけだろう。


 ギャラリーは降ってわいた娯楽に盛り上がっている。囃すような空気は感じるが悪意的な雰囲気は感じない。

 おいおい受付のお姉さんまで見に来ているぞ。業務はいいのか……いやギルドの施設を貸すのだから監視責任があるのだろうか。豊満な〈房珠〉を歪めながら腕を組むポーズが素敵すぎる。

 プニルの従者二人を見ればまさに躾けられたような見事なメイド立ち。腰の前に手を合わせ、穏やかかつ凛とした姿の立ち姿だ。表情の読めない瞳と磨き上げられた〈芯頭〉が演習場を見据えている。

 そしておっぱい丸出しメイドという素晴らしいものを凝視していた俺は気付いた。


 デバフ遣いのデボネア〈房珠〉が発動している……

 他の誰も気づいていないが、デボネアが呼吸で上下する胸の動きに合わせるようにわずかに〈房珠〉を〈詠衝〉させ、魔力がゆっくり練り上げられている。

 魔力の流れに集中して発動中の〈呪紋〉を解析する。〈足絡み〉だと……? 〈治智比べ〉にこっそり横槍を入れるつもりか。


(させん!)


 こんなつまらないことで主の名に傷がついたら、この世界に来て早々いきなり無職になりかねん。

 とはいえ正面から〈詠衝〉を妨害するのは難しい。相手の魔法がある程度読めるという俺の手札をこんな大勢の前で晒すわけにはいかない。


 こっそりデボネアの近くに移動する。所詮男である俺の挙動など誰も気にも留めない。

 デボネアに近寄ったことでますます魔力の流れがよくわかる。〈幻照〉を使って正面に視線を合させつつ、視界の端でデボネアの魔法を解析する。


 発動形態は威力を抑える代わりに発動そのものをとことん隠す隠匿性重視、一定位置から動かない相手の足の重心を一瞬狂わせる程度の攻撃力のない魔法だが、高速移動を軸とした〈呪紋〉構成のミルヒアには効果は抜群だろう。このまま発動させるわけにはいかない。

 自分に与えられたカードを考える。無数にあるおっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)の中から隠密性が高く目的達成に近いものを絞り込む。

 

〈抜頭〉(ばっとう)


 〈治智比べ〉開始の合図とともに向かい合う二人は〈鞘〉を脱ぎ払った。

 同時に一気に魔力を高めたデボネアに向かって、俺はラッキースケベを期待する自然な転倒をするためのおっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)〈比良坂〉(ひらさか)を用いた。


「ああー、ごめんなさいー!」

 なるべく情けない声をあげつつデボネアの報に倒れ込む。何度も練習して磨き上げた自己転倒スキルだ。自然に倒れたふりをしつつ、ボネアの〈宝珠〉に指先をかすめさせ、ノイズとなる〈詠衝〉を加える。

 ノイズの内容は「ターゲットの位置を指定から10mずらす」というもの。簡単に言うとミルヒアのほうに向けられていた〈芯頭〉を魔法発動の瞬間だけ横向きにずらしたのである。デボネアのEカップがわずかに横に揺れる。


 ではそこに誰が立っているかと言うと……


「うっく!」

 俺の狙い通り、開始と同時に高速移動に踏み込もうとしたプニルにデボネアの<足絡み>が発動した!

 開始位置でかくんとたたらを踏むプニル。慌てて態勢を整えようとするが、正面からそんな隙を見せられて見逃すミルヒアではない。

「はあっ!」

 裂帛一閃、身体強化で一気に距離を詰めたミルヒアの風をまとったボディーブローが突き刺さった。


 信じられない顔でプニルとこちらを交互に見るデボネアと真っ青な顔で口をパクパクさせるバリエラ。

 ヘラヘラした顔で頭をペコペコさせて謝る俺。

 インチキを仕掛けようとしたのはそっちだ。俺はそれをたまたま邪魔してしまっただけだ、糾弾されるいわれもなければ、そもそも立証も不可能である。

 残心を解かないミルヒアの前で、プニルがゆっくりと「く」の字に崩れ落ちた。バリエラとデボネアが慌てて駆け寄る。


 審判はいない。だが誰の目にも決着は明らかだった。歓声こそ上がらないものの感心するようなどよめきが周囲を満たす。

 俺は何食わぬ顔でミルヒアに近寄って行った。

「お疲れ様。見事な一撃だった」

「こんなに綺麗に決まるとは予想外でした」

「これならあのフレアクロ―にも一対一で普通に勝てただろうな」

「だからなかなか綺麗に決まらないんですよ。あの時みたいに誰かが隙を作ってでもくれない限りは」

 ミルヒアがこちらの目をちらりと見上げる。

 俺はさっと目をそらす。


 ミルヒアは小さくため息をついて、まあいいです、とつぶやいた。そして大きな声で勝ち名乗りをあげる。

「決着はついた! 私は私の名誉が本物であるとここに証明する!」

 肯定するのは場を満たす拍手だ。

 それを尻目にプニルを左右から抱えて連れの二人が退場していく。


 去り際にデボネアがすごい目つきで睨んでいたのは主を打ち負かしたミルヒアか、それとも俺か。



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