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第三十五話 お嬢様、メイドに説教される


「で、結局のところどうなのです?」

 ミルヒアが帰った途端にバリエラが真剣な顔でこちらを覗き込んできます。あなたたち主をなんだと思ってるのかしら。


 台風のようなミルヒアの訪問か終わったらなぜかお部屋が広く感じます。マンチェスターの家と比べたら大したことありませんのに。

 今この部屋にいるのは私、デボネア、バリエラの3人のみ。かつてはこの3人で行動してましたが、久しぶりにこうなると軽い違和感を覚えるようになっている自分に驚きます。


 まあ、無視してもしょうがないので、バリエラの質問に答えないと。思わず舌打ちが零れますわホホホ。まあ返す内容はマンチェスター家として当たり前のこと。舌打ちは窘められましたけど。

「さっき答えたとおりですわ。私はマンチェスターの範を破るつもりはありませんわ」

「……ええと、それはどうでしょう」

「どういう意味ですの」

「その、マンチェスターの範を守るつもりでいらっしゃるの、プニル様だけなのです」

「……へ?」


(……へ?)


 …………へ?


「プニル様ー? プニル様ー?」

「お戻りになられてくださいですよう」

「どどどどういうことですの!?」

「どうもこうもないのですよう」

「ローレリア様とスリザリア様は本気でバスティア様を狙っているということです」

「あの、嫁に行ってもいいというのは冗談ではなかったのですの!?」

「仮に冗談があるとするなら」

「自分たちが嫁入りではなくバスティアを婿入りさせる気満々ということでしょうか」

「……おふざけではなく?」

「プニル様、今まで生きてきてお二人が第三者に絡む冗談をしたことがありますか?」

「すくなくとも私の記憶ではないのですよう」


 ……抜かった! あのぬらりひょんの姉たちのことだからいつものように人をからかう冗談かと!


「ちょちょちょそれずるくないですの!? だって私にはマンチェスターの範を押し付けておいて……」

「わかってねーのはプニル様ですよう!」


 あ、バリエラがやさぐれお説教モードに入っていますわ。目が座っていますわ。

 これ逆らうと〈結界〉で無理やり正座に固められるやつですわ。

 ハイ、ゴメンナサイ。素直に聞きます。


「状況が全然違うんですよう! いいですか? プニル様の認識はバスティアの秘密がみんなにバレてない世界の話なのです!」

「ハイ」

「まず、バスティアと領主様がたがやり合った段階で、プニル様が動くべきだったんですよう!」

「ど、どういうこと……デスカ?」

「この時点ではまだ領主様がたは表立ってバスティア確保に動けなかったんです。なにせ〈治智比べ〉で負けたばかりですからね」

「つまり、マンチェスターとしては奇貨としてバスティアを取り込みたい、だけど領主様がたは強権的には動けない、って状況になっていたのですよう」

「……ハイ」

「質問です。この状況で誰が動くべきだったでしょうか」


 ……


「私、デ、ゴザイマス」

「それからずっとマンチェスターの中でバスティアに近づくチャンスがあったのは?」

「私、デス」

「今この瞬間一番バスティアに近いのは?」

「私メニゴザイマス」


 もう許して。


「……そういうことなのですよう!」

「ででででも待って! それって結局マンチェスターの範に反することでは!?」

「やっぱこいつわかってねーですよう!」

「こい……っ!?」

「正座ァ!」

「ハイ」

「いいですか? バスティア自身の価値が変わってきているのです」

「……詳シクオネガイデキマスカ?」

「プニル様にとってバスティアはどんな殿方です?」

「へ、いや、そんな、急に、その」

「乙女いらねーんですよう」

「乙女ですのよ!?」

「いいから答えてください」

「……義理堅く頼りがいのある素敵な殿方であるとは、その」

「その評価は変わらず、ですか」

「? ええ」

「バスティアの正体を知った今でも?」

「そうですわ」

「……」

「……」

「なんで黙りますのっ!?」


 ……空気が心なしかひんやりします。


「プニル様、マンチェスターの家のことを考えるなら、こうお考え下さい」

「バスティアは、守神と同じ異世界人であり、守神に縁のある存在なのですよう」

「それを身内に取り込むことが、守神と近づくにせよ対抗するにせよ、どれだけ今後有利に働くかということです」

「それゆえに、領主様お二人も本気であると言ったですよ」

「パンプローヌ卿は伏せてくれるでしょうが、ほどなく聖都にもバスティア様のことは知れ渡るでしょう」

「なにより、今回バスティアは王都で名を売りましたです。英雄としての付加価値も十分なのです」


 ……


「ででででも、それって感情を無視したバスティアの名前目的とかじゃありませんの!?」

「さーきーにー! 感情を無視して家がどうこう貴族がどうこうゴチャゴチャ言いだしたのはプニル様ですよう!」

「うぐぅ」


 ど正論ですわ……


「ですから、最初の話題に戻るわけです」

「結局のところ、プニル様はバスティアのことをどう思っているのです?」

「そ、そりゃあ、頼りがいのある素敵な」

「つまりさっき聞いた評価のままということですね」

「その程度なら私だって思っていますよう!」

「わかりました、ではバスティアには私がアプローチをかけます」

「わー、ちょっと待って待って、ですの!」

「慌てるくらいならはじめから素直になってください」

「でも、そんな、急に恥ずかし」

「乙女いらねーんですよう」

「乙女ですのよぅ!?」


 デボネアがすごい大きなため息。……さすがに傷つきます。


「質問を変えます。プニル様、バスティアとどうなりたいですか」

「……今よりも仲良く……なれたら……いいなとか……」

「次乙女出したら乙女地獄に落ちてもらいます」

「乙女地獄!?」


「いいですか? 目下最大の敵は自らの従者を手籠めにせんとする外道の輩、ミルヒアなんですよ?」

「その次に控えているのが領主様がたです」

「……あのう、私たちが直接対決で負けてる相手しかいないんですけど?」

「……そうなんですよねえ」

「だから状況を整理して作戦を立てましょう。このままでは選局的に不利です」


 デボネアが机の上に紙を広げました。……この子軍師キャラに味を占めましたのね……


「まず、バスティアがいます」

 紙の中央に【ばす】の字が書かれます。


「……そもそもバスティアって女に興味ありますの?」

「それはひとまず横に置いておきましょう。雰囲気でどうにでもなります」

 いくら男の人の権利が低いとはいえそれはあんまりな気がするのですが……


「そしてここにミルヒア、そして領主様がた」

 すぐ隣に【みる】の字、だいぶ離れて【ろー】【すり】の字が書かれました。


「そして聖獣さんたち」

 かなり近いところに【4】と書かれました。……扱い雑じゃありません?


「こんなのもいます」

 やっぱりかなり遠くに【ぱん】の字。


 ……


「パンプローヌ卿はノーカンでよくありませんの?」

「バスティアが望めば神と崇めて体を捧げそうな相手をノーカン扱いで?」

「……とんでもない伏兵ですわね」


 遠くですが【ぱん】の参戦を認めますわ。


「プニル様はここです」

 だいたい【4】と同じくらいの距離のところに【ぷに】の字がやっと書かれます。


「……バスティアめちゃくちゃ狙われてますわね」

「だから言ったでしょう。ちゃんと考えてください」

「しかも【ぷに】のこの位置は【ろー】【すり】から後ろから刺される位置なのです」

 【ろー】【すり】から恐ろしげな矢印が【ぷに】に延ばされました。


「そういうゲームでしたの……?」

「構図は大体同じです」


 ……刺されるんですのね、恐ろしい。


「でもじゃあこちら側から迂回すれば……」

「いいですね、まずは【みる】と【4】がいないところ……いないタイミングでアプローチをかけるというのは正解です」

 ペンを取って【ぷに】から迂回した矢印を【ばす】に書いていきます。


 カッ


 ……行く手に【ばり】と書かれました。

 顔を上げると、バリエラのにこりとした顔。


 さらにデボネアがすました顔で【ばり】の少し内側に【でぼ】と書き込みました。


 ……


「あなたたち味方じゃないんですの!?」

「私は最初から本気だってミルヒアに言ったのを傍で聞いていたはずですが?」

「やっぱりプニル様状況わかってなかったですよう!」


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