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第三十二話 おっぱい星人、駆け抜ける

 

『まさか予選を勝ち抜いた飛び入りがミルヒアとはな! それも男を伴っての参戦とは! いいぞ、その賭け乗ったぞ!』

『いいのです? そんなに簡単に国家の方針を定められて』

『王たるもの確実に勝てる勝負に引き下がるとあっては名折れよ。むしろプニルよ、面白い焦らし方をしてくれるものよな。なかなかにたぎらせてくれるわ』

『ふふ、気の早い王様。まずは余興を楽しみましょう?』

『ははは、我は気分が良いぞ。酒肴の支度をせい』



『酒肴…‥砂霧、厨房通路前に動けますか』

『はいはーい、何すればいい?』

(クラーリア)が反応しました。天井裏から盃に毒を落とそうとしてる人がいるはずです。妨害を。可能なら捕縛してください』

『ああ、いるねー、ちょっと多めに〈砂埃〉吸わせておくよー』

『くれぐれも殺さないように、あと灼狩』

『なに?』

『今の男に指示を中継した男がいるはずです。東回廊二階か三階あたりに巡回兵を誘導させてください』

『これは仕留めなくていいのか?』

『もとより仕留めないでください。そこの中継員はストレスを与えながらわざと活かして指示回路そのものを殺します』

『了解』



「活き活きしてますねデボネア」

「敵が毒を使ってくるまでは予想できたけどな」


 奏鳴の〈遠隔通話〉と〈盗聴〉が必要な情報をすべてこちらに届けてくれる。連携は良好だ 

 それにしても、わざと見つけた中継員を監視下において不発する指示を出させようとは俺には思いつかない手だ。

 デボネアに任せてよかった。俺は状況に合わせて戦うだけでいい。


 なによりプニルがいい仕事をしてくれる。王をおだて巧みに誘導し、敵の手の内をこちらに伝えてくれていた。

 魔力も練度も並々ならぬ強敵ぞろいの親衛兵団ではあるが、手の内が丸裸となれば如何様にも調理できる。

 俺には手札があり、ミルヒアはソロで状況に対応してきた経験と実績がある。


「決勝まで4試合か、序盤は間が空いてるから余裕があるな」

「トーナメントを上がって行ってからが勝負ですね」

「心強いな。自信満々じゃないかミルヒア」

「え? だってバスティアが私と勝つって決めたのでしょう? なら私勝ちますよ」

「そうだな。そうだった」

 いつかしたやり取りを繰り返す。油断でもなんでもなく、本当に負ける気が一切しない。


    *    *    *


『見よプニル、あれは我が親衛兵団の一員だ。熱線魔法のセリアと光使いのカトレア、二人組ませれば熱線を屈折させて追い詰めるように敵を狩る手練よ。所見で耐えられるものではないわ。ましてや男の身とあってはな!おっと、ミルヒアはなるべく無傷でおくように伝えないといかんな』


『……だ、そうですわ』

「了解した。タネがわかれば魔力も読める。初撃だけギリギリ感出して躱すから、9手目に合わせてミルヒアに熱線のほうを潰してもらう」

「こっちに攻撃が来ないってわかってるのは楽すぎますね」

「読んでることバレないように初動のタイミングは気をつけてくれよ」

「誰に言ってますか」



『氷鞠、どこにいますか』

『指示通り観客席の、えーとF7区域あたり』

『その位置から南東側の観客席を見ておいてください。試合が始まってもそちらに反応していない客を今のうちに可能な限り洗い出したいです』

『なかなか厳しい要求。いくつ見つけられるかわからない』

「じゃあ試合をもう少し引っ張るか。ミルヒア予定変更。反撃は15手目だ」

「反応を探るなら派手な演出を何回か入れたいですね。一回バスティアを庇いに行こうとするも攻撃が激しくて近づくのを断念、とかどうですか」

「いいな、任せる」

『ボクも頑張る』


    *    *    *


『いい勝ち方でしたわ。王は含んだ酒を盛大に吹き出してむせてますわ』

『はい、布はこちらで用意したものを使わせてますですよ。毒を仕込まれている心配はなしなのです』

(クラーリア)も展開に驚いてますね。指示出しの気配はないです。おそらくは計画の見直しに入るでしょうから、しばらくは直接的な手は避けるでしょう』

『奏鳴から連絡だよー。公爵家、マルタン家だっけ、ばすちーのこと探るように言ってる声拾った』

『好都合ですね。そのスパイ張り付かせましょう。公爵家が接触してきている間は控室のバスティアも安心です』

「現段階で偶然の勝ちと見ないで探りに来るか。演技が甘かったかな?」

『そこは出場段階である程度は使えると見なされてますので』

「それもそうか」

『割り込みで氷鞠報告。三階屋根なし席の帽子のヒゲ、一番前の黒コートのにーちゃん、あとエール運んでる太めのおじさん。この3人があやしい』

『距離的に仕込み矢を使えそうなのはいませんね。灼狩、観客席の2人をマーク、移動したら報告してください』

『了解。把握した』

『氷鞠はエール売りを追跡して薄くエールを凍らせることができますか?』

『いいけどなんで?』

『エールの異常に気が付かないようなら偽物です。移動されるコマは厄介ですから潰しておきましょう』

『潰していいの?』

『訂正、無傷で鎮圧してください』

『難しい指示ばかり』


    *    *    *


『ぷっ』

『くくっ』

「あのう、そろそろ笑うのやめてもらえませんか」

『今のはミルヒアたちが悪いのです。いくらスパイ相手の嘘とはいえ限度があるです』

「だって急にお二人の関係とか聞いてくるからっ!」

『で、でも、「犬」はないですわ』

『その後にバスティアが「わん」とか言うからプニル様二度吹きしてたですよ。今だって鼻の穴めっちゃすごい膨らんでますです』

『やー、ちょ、待って、その報告がすでに面白いからっ』

『砂霧んは一度ツボに入るとだめだからねー』

『いつもローテンションなのにね』

『ア、アタシは犬のバスティア様もいいと思いますっ!』

『えー、鳥にしようよー』

『あの、そろそろ指示下に戻ってもらいたいのですが』

『『『りょ、了解』』』


    *    *    *


『いくら魔族殺しのミルヒアでも、男を庇いながらでは次は勝てまい。切断魔法のスズと、硬盾魔法のナズリアだ。攻守の弱点を補い合うまさに最強の矛と盾よ』

『先ほどの戦いでも圧倒的でしたものね』

『実はな、ナズリアも盾魔法を応用して切断魔法の真似事ができる。スズの攻撃を凌いだと思った相手にはこれが実に良く効くのだよ』

『まあ、知らない相手でしたらまずやられてしまいますわ』



「でも知ってしまったしなあ」

「どうしますバスティア。素直に少し斬られておきます?」

「俺は女と違って少し斬られると結構死ぬからな……」

「じゃあ速攻でいきますか?」

「デボネア、かまわないか?」

『ええ、排除は順調です。現段階で12人無力化拘束済みです。聞いている残りの門弟はあと8人、まだ時間を稼ぐ必要はないかと』

「しゃあ、そろそろ少しずつマグレじゃないと思わせないとだしな。魔障布グローブを使うか」

「男の人ということで道具の持ち込みは認めてもらえましたしね」

「ハンデということなのだろう。まあ、そろそろ俺も揉んでおきたいしな」

「え?」

「なんでもない」


    *    *    *


『なんだあの動きは! あの男、〈房珠〉と渡り合う術を持っているのか!』

『うちのバスティアもなかなかやりますでしょう』

『しかし……魔法の中にまっすぐ突き進んでいくとは……ううむ!』

『お気に召しました?』

『……いいや、まだだ! 順当に行けば彼らが次当たるのは親衛兵団の隊長格! ナミエスとアーカムよ。奴らなら遅れは取らん』

『ならば賭け代を追加しません? こちらからはミルヒアを上乗せしますわ』



「なんか勝手に言ってますよ。バスティア、従者として抗議してください」

「プニル、追加の賭け代に高級魔障布を要求しといてくれ」

「ちょ!?」

「勝つから問題ない」

「そーゆーことじゃなくてですねえ!?」



『王が興奮して観覧席から乗り出しました。灼狩、観覧席下方の狙撃ポイントのチェックはどうですか』

『二人動いた。おそらく観測屋と吹矢使い。ちょっと遠い』

『おけ、こっちから見える。ボクが〈氷弾〉撃つ』

『……いい感じに吹矢が爆散した。破片が目に入ったらしくのたうってる』

『じゃー、あたしが人目につかないように回収しとくよー』

『お願いします』


    *    *    *


「準決勝の相手は親衛兵団ではないな」

「ええ、勝ち残った公爵勢の残りですね。他は全部脱落してるみたいですから親衛兵団も弱くはないですよ」

「ここは情報のない相手か。ちょっと気を引き締めないとまずいな」


 闘技場に上がる。すでに闘技場には対戦相手が上がっている。

 一人は金髪ツインテ―ㇽの小柄な……見た目はもうほとんど幼女としか言いようがない武闘技姿の女だ。ローレリアやスリザリアより一回り小さく見えるくせに〈房珠〉はかなり主張してくる。小さくもかわいらしい〈呪紋〉は圧力魔法……広範囲に重力的な攻撃か可能な魔法と見た。もう一人は長身で栗色の長髪を結わえあげた、いかにも切れ者女秘書というべき女だった。大きく柔らかそうな〈房珠〉と捕縛魔法を宿した大きめの〈呪紋〉を持っている。相応に大きめの〈魔頭〉がいい調和だ。是非眼鏡をかけてほしいところだがこの世界〈房珠〉の肉体強化の影響でいまいち眼鏡の普及が高くないのが残念。新衛兵団の威圧的なロケット《房珠》ばかり相手にしてきた俺には彩があってうれしいです。食事はバランスよくを心がけようみんな。


 幼女風のほうが蒼い瞳でこちらを値踏みしながら声をかけてくる。

「貴様がバスティアか。男のくせになかなか見事だ。このライラック・マルタンが褒めてやろう」

「公爵家の方々のお眼鏡に叶うとは光栄です」

「しかし、おしいな。卑しくないものであれば当家で抱えたいと思っていたが」

「なにかお気に障ることでもありましたか」

「貴様、『犬』なのだろう?」

「ぶっ」『ぶっ』『ぶっ』

 ミルヒアと〈遠隔通話〉の先の何人かが吹き出す。そうか……忠実に伝えたかあのスパイ。

「当家に犬は要らん。打ち据えてくれる」


 ……


 ミルヒアが言うのは許そう。だがお前が言うのは許さん。


「あ、バスティア、その魔障布ロープ使いますか」

「温存しようと思っていたんだがな……これはちょっと使わせてもらおうかなと」

「目が怖いですよバスティア」


 ライラック様にはおっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)〈朽縄〉の餌食になってもらった。

 

    *    *    *


「決勝の相手は……予想どおりナミエスとアーカムか」

「どう見ますか」

「魔法はさっきの戦いで確認した。純肉体強化の魔力ハンマー使いと、もう一人は風魔法に氷魔法、あと妨害魔法を隠し玉に持ってる。手札が知れなきゃ合わせて1.5パンプローヌってとこだが、これだけ〈呪紋〉を分析させてもらえりゃせいぜい0.7パンプローヌってとこだな」

「どんな単位ですか」

「1パンプローヌが俺と互角くらい」

「じゃあ問題ないですね」

「2人がかりなら3パンプローヌまではいけるさ」

「絶対今パンプローヌさんくしゃみしてますよ」

「だろうな…さて、デボネア、どうだ? 捕まえきったか?」

『最後の一人がまだです。さっきの中継員はもう押さえてありますから、ほんとうにあと一人だけ』

「どのタイミングで何をしてくる?」

『定石なら撤退一択ですか、思いがけず必要と求められて、熱に浮かされて成し遂げようとしてくるなら、おそらく観覧席ごと自爆でしょうね。(クラーリア)が観覧席を離れた瞬間で仕掛けてくるはずです』

『ばっ!?』

『どうしたプニル。なにかあったか』

『いえ、なんでもありませんわ王。ちょっとしゃっくりが』

『そうか?』

『万一があっても観覧席全域を〈障壁〉で包むくらいはいつでも大丈夫ですよう。もとより直撃してもプニル様なら焦げる程度ですし』

『では、最後はこちらから狩りたてましょう。砂霧、氷毬』

『爆破と聞いて砂霧参上ー、観覧席近くで火薬の匂いさせてる奴探せばいいね?』

『氷毬了解』

『灼狩了解』

『いえ、灼狩はそのまま付近警戒継続で。相手は火薬ですし』

『……了解』


『……これで、チェックメイトです』



「勝ったな」

「勝ちましたね」

「ああ?」


 思わず、声に出していた。目の前にいるナミエスが気色ばむ。見た目お嬢然としながらも口を開けば存外口の悪い目つきの悪い黒髪美人だ。〈房珠〉はもちろん兵団仕様のロケット級。委員長とかしてほしい。

 いかんいかん、戦いの相手に失礼をしてしまった。


「いや、こちらの話だ」


 もう時間稼ぎの必要もない。俺はグローブを外した。あとは王に向かってただひたすらに力をアピールする場面だ。

「やっちゃいますか、バスティア」

「ああ、思う存分やらせてもらう」


「お集まりの紳士淑女の皆様! まさかまさかの展開です! 双輪武術会決勝までとうとう勝ち上がってきてしまいました! 果敢な挑戦者の名はバスティア&ミルヒア! それを叩き潰すべく迎え撃つのは王の懐刀、ナミエス&アーカムです! さあ、この奇跡の対決、是非瞬きはお控えになってご観戦いただきたいと思います!」


 派手なアナウンスが会場に鳴り響く。周囲に軽く手を振ってやった。王がこっちを見ている。いや俺を見ている。横にいるクラーリアは……はは、すごい顔をしてるな。さすがに、俺たちが全部仕込んだことに気づいたかな? その隣にはプニルと……全任務完了したデボネアが立っている。デボネアは胸元で「〇」のサインをした。


 もはや何の憂いもない。


 おっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)の限りを尽くしてやった。



無事に一か月連続更新できました。

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