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第三話 おっぱい星人、街へ行く


 道すがらこれから向かう町についてミルヒアから聞く。

 正式には最前線都市エルブレスト、というらしい。何が最前線なのかというと、人類が比較的安全に暮らせる領域とその外側の境界に位置するからだそうだ。

 ではその外側はどのようなところかというと、驚くべきことに魔族と呼ばれるものの勢力圏とのこと。


「〈房珠〉はあらゆるものに宿ります。その中でもごくまれに災害とか人間に害があるものに〈房珠〉が宿り、強力な力をもってしまうことがあります」

 それが魔族というものらしい。強い〈房珠〉を得た魔族ほどよりはっきりと人間に近い姿を取るだけでなく、より人に近い自我を持つようになるという。


「先程のサラマンダーは魔族ではないのか?」

「あれはただの魔物ですね。在り方の本能をより悪意的に叶えるように思考を始めたら初めて魔族と呼ばれます」

 ミルヒアが不思議そうに首を傾げる。

「魔族に馴染みがないとか、もしかしてかなり内地の方から来られたのですか?」

「いや、俺の故郷と呼び方が違ったから確認しただけだ」

 そうですか、と流してくれるミルヒア。いつまで誤魔化せるだろうか。


 ちなみに彼女の〈房珠〉は今小さなマイクロビキニ状のものに包まれて、いや包みきれてないが包まれている。これは〈魔頭〉を収納することで魔法の暴発を防ぐ《シース》と呼ばれるものだ。

〈魔頭〉を晒しているのは武器を抜いていることと同じなのだから、残念だがこれはこれで仕方がない。


    *    *    *


 広い街道に出ると左右に耕作地が見えた。植え付けられているのはジャガイモかなにかだろうか。いかんせんおっぱいに関係のない植物のことなのでまるでわからない。

「働いているのは男ばかりだ……」

「ええ、純粋に手数が必要な仕事が男の人の仕事ですね。器用な人は職人になったりしますし」

「従者になるものはそこまで多くないんだな」

「そりゃあ女についてこれる男の人があまりいませんからね」


 魔力による身体強化が生み出す差はそれほど圧倒的なものらしい。

 仮にも男の一人として何とも言えない複雑な気持ちになりながら街道を進む。


    *    *    *


 高い城壁が見えてきた。城壁と言うよりも堤防のように見える。

「もうすぐ城壁です。必要な手続きは私がするので、バスティアさんは付いてきてくれれば」

「了解、なにか心得ておくことは?」

「衛兵の人たちに敵意を見せなければ大丈夫ですよ」

「わかった。黙っておとなしくしている」


 街が近いせいか冒険者然とした通行人が増えてきた。

 そのほとんどがやはり女性だ。鎧姿のものもいれば、いかにも魔術師といったローブらしいものをまとった姿もある。


 そしてみな一様に胸元が大きく解放され〈房珠〉が堂々とさらけ出されている。

 力の象徴である〈房珠〉を男が恐れるのだから、当然のように隠すという意識が育っていないわけだ。

 マイクロビキニ状の〈鞘〉を使うものもいれば、スリングショット状の〈鞘〉も見られる。そして少なからず〈魔頭〉を大胆に晒して闊歩するものもいる。

 あちらの皮鎧の一団はみな〈鞘〉のデザインを赤いマイクロビキニに揃えているのだな……! こっちの大柄な赤髪の一団は……なんという圧倒的〈房珠〉! Hカップ級がゴロゴロいるぞ。

 あの小柄なローブ娘も身長に見合わぬ見事なDカップ級〈房珠〉を携えている。その連れの部分鎧娘も、〈房珠〉のサイズこそ小ぶりなものの、そのハリツヤ形、そして美しい〈呪紋〉と〈魔頭〉、素晴らしいものをお持ちだ!


「壮観だ」

 思わずうなるような声が出た。ミルヒアがそうでしょうとうなずく。

「エルブレストは土地柄冒険者の人が多いんですよ」

「みな堂々としたものだ」

「実力者が集まってますからね。交易都市ディカップや聖都ノヴァユリアより冒険者は多いかもしれません」

 俺はしみじみと口にした。

「いずれそれらの町にも行ってみたいものだ」


    *    *    *


 城門を守っていたのは豊かな〈房珠〉のみをこれでもかと晒し突き出した板金鎧の女戦士たちだった。こちらを問い詰めるかのように屹立した〈魔頭〉に囲まれて、俺は反射的に直立不動をとった。

「止まれ。身分を検める」

「エルブレスト所属Dランク冒険者ミルヒア、薬草採集の依頼を遂行し帰還しました」

 堂々と受け答えしながらミルヒアが〈鞘〉を外して〈房珠〉をさらけ出す。

「照合する」

 なにか〈呪紋〉にバーコードリーダーのようなものを当てている。

「〈呪紋〉照合。ミルヒア確認した。して、そっちの宝珠なし()は?登録がないようだが」

「出先で保護しました。まずまず動けたので私の従者として使うつもりです」

「Dランクで従者を持つ気か。まあそのほうが仕事が緩い分使い道はあるかもしれんな。なるべく早く登録しておくこと」

「そうします。では、お疲れ様です」

 ミルヒアに倣って衛兵たちに頭を下げる。もっともこれはいいものを見せてもらった感謝と敬意が98%ほど込みである。


 さて、軽く整理しておこう。

 どうやらミルヒアの冒険者としてのランクはD。これは衛兵の反応からするとどこまで高いわけではないらしい。

 衛兵の無警戒ぶりから男が何かできるとも思われてもいないらしい。というよりこれはこの世界では当たり前にできないのが当然なのだろう。

 とすると、やはりなるべく自分が授かった「胸を揉むための力」の存在は知られないほうがいいだろう。

 運よくミルヒアとは協力関係を結ぶことができたからいいものの、かなりの綱渡りをしていたのだと自覚する。


(この世界では俺は間違いなく危険分子だ)

(あのサラマンダーを封した力はおそらく〈房珠〉の力に何らかの影響を与えるものだ)

(そしてそれはこの世界における強者である女性にも通用するという確信がある)

(女性に抵抗するにはこの力を使わねばならない。しかし、力の正体がバレたなら俺は危険分子として狙われる)


 つまり、乳を揉むには命を賭けねばならず、そして生き残るには乳を揉まねばならぬということだ。

 乳を揉まねば生きながらえられるかもしれない? 馬鹿な、そんな選択肢はあり得ない。

 俺は乳を揉むために再びこの世に生を受けたのだ。

 この命に賭けて乳を揉む使命が俺にはある。


(まだだ)

(まだこの世界で自由に振る舞うには情報が足りない)

(そのためにはより注意深い世界の観察が必要だ)


「なかなかの賑わいでしょう」

「うん、すごいな。すごい」

 ミルヒアの声に思索から引き戻される。今いるところはおそらく都市の目抜き通りなのだろう。通りの左右に様々な店舗が並んでいる。

 パイナップルを積み上げている屋台。その隣で売られているのはプルーンの実か。こっちの喫茶店はプリンの専門店だ。


 物量や品目が多く流通している。文化レベルも中世然とした見た目に比べてはるかに高い。あちらに見える〈鞘〉専門店らしき店頭には見事なレース編みの〈鞘〉が飾られている。

 通りにはたまに〈魔頭〉を晒して歩いているものもいるが、多くは衛兵ないし冒険者のようだ。

 店の主をしている女性たちはみな胸元を大きくけてはいるものの、〈魔頭〉は基本しまっている。そして時折明かりをつけたり調理台に点火をしたりする基礎魔法を使うために〈魔頭〉を晒している。

 食事処でメイドのような服を着た給仕が〈房珠〉をさらしてぷるんと〈詠衝〉し、水差しになみなみと水を生み出している。

 馬車で引くような荷物を無造作に担ぎ上げている女性は〈魔頭〉をむき出しにしていた。〈呪紋〉から筋力増強の魔法が発動しているのがわかる。歩くたびに〈房珠〉が揺れて〈詠衝〉が為されている。


 通りには男の姿もあるが、いずれも小間使いのような買い出しをしているか、店舗の品出しをしていたりだった。


    *    *    *


「あれが冒険者のギルドです」

 ミルヒアが指さした建物は、町の中心部にほど近い、頑丈そうな石造り三階建ての建物だった。

掲げられていた文字はまるで読めなかったが、ミルヒアが冒険者ギルドと紹介してくれたことでなぜか読めるようになった。

 どうやら、俺が人の言葉と認識した言葉はわかる言葉に、文字であると認識した文字は読めるように脳内で調整されるらしい。

 渡守の爺め、これはなかなか便利な能力を与えてくれたものだ。いやその世界で意思疎通するというのは乳を揉むのに必要な力の一環と言うことか。


「今から依頼の報告と、バスティアさんの従者登録をします。一緒に来てください」

「ああ……そういえば、ミルヒアのことは人前ではどう呼んだらいいだろうか」

「あー……そうですね。うーん。ミーちゃんはどうですか」

「本気でそう呼んでいいならそうするが」


 俺が真顔で返すと主殿も真顔で頭を下げた。 


「ごめんなさい嘘です。ミルヒアでいいと思います。私そんなにランク高くないですしそこまで不自然じゃないかと」

 やっぱりDランクはそこまでのモノではないらしい。聞けばどうやら最上ランクはAとのこと。


「わかった。俺のこともバスティアと呼び捨てにしてくれ。その方が自然だろう。必要なことがあったら従うからそのときは指示してくれ」

「わかりました。じゃあおねがいしますね、バスティア」

 心なしか楽しそうにギルドに入っていくミルヒアのあとに従う。



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