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第二話 おっぱい星人、魔法に触れる


「助かりました……お怪我はありませんか」

 褐色を撃ち抜いた冒険者風金髪が駆け寄ってきた。

 余計なことを……と喉元まで出かかった台詞を多大な努力を要して飲み込む。そして褐色おっぱいを吹っ飛ばした金髪の女の子をしげしげと見つめた。


 身長は小柄だ。しかし全体的に肉付きがいい。金髪は腰まで伸びているがよく手入れされているようだった。

 緑色の澄んだ瞳がこちらを見ている。顔つきはかわいいといってよかった。多少息が上がっているのがなまめかしい。歳は16といったところか。


 そして特筆すべきはおっぱいである。

 美しく盛り上がった色白の肌は間違いなく美巨乳判定のDカップ。先端も控えめな桃色でじつに美しい。乳輪はやや大きめ。そんなおっぱいが隠されもせずこちらに晒されている。


 相手の顔から視線を移さずに視界の端でおっぱいを凝視するおっぱい星人奥義(バスティアン・アーツ)幻照げんしょう〉を駆使しつつ、紳士的に答える。

「ああ、大事ないよ。そちらこそ怪我はないか」

「助かりました。まさかこんなに強力なサラマンダーが湧いているとは思わず、後れを取りました」


(そうかあれはサラマンダーというのか)


 今は亡き褐色おっぱいを偲ぶ。さらばマイファースト異世界コンタクト。

「ええと、失礼ながらあなたは一体?旅人でもないようですし」

 女の子がこちらに聞いてくる。たしかにこの格好は旅人には見えないものだ。こんな森の中にいるのを不思議に思うのは無理ないだろう。

 異世界から来たことを話してしまうか? いやそれはまだリスクが高い。せっかく出会ったファースト異世界人に頭のおかしなやつと思われたら大変だ。


 とはいえ適当な嘘をついて矛盾が起こって不信感を持たれるのも避けたい。

 こんな美乳に不信感を持たれるのはとてもとても悲しい。

「実は、どうも崖から滑って頭を打ったらしくてね。記憶が混濁しているんだ。荷物もなくしてしまった」

「まあ、それは大変」

 とっさに出た嘘だったが、信じてもらえたらしい。でもそのあとの彼女の行動が予想外だった。


「では、今治癒魔法をかけますね」

 そういうと彼女は俺の頭を抱えて丸出しの胸の間に挟み込んだ。そして両乳房をリズミカルに動かし始める。

 なにこれごほうび? とっさのことにフリーズした思考の代わりに本能が俺に指示を出す。


 ここは黙ってこの状況を享受すべきである、と。


 両ほほの素晴らしい感触に意識を集中していると、なにやら俺の頭を優しい暖かい力が包み始めた。

「いま〈外傷治癒〉をかけました。どうですか」

 それが俺がこの世界で初めて受けた魔法の力だった。


    *    *    *


 居住まいを正して二人向かい合う。お互いなぜか正座である。

「私はミルヒアと言います。エルブレストの町の冒険者です。薬草採取のためにここにきていました」

「俺は……バスティア。バスティアという」

 とっさにおっぱい星人(バスティアン)をもじって名乗る。


 前世では本名より呼ばれ慣れたあだ名だ。この名前なら急に呼ばれても反応できる。よし、俺は今日からバスティアだ。


「頭の痛みは引いた。ありがとう。でも記憶の方はまだおぼつかない」

「それは……大変です」

「だから、そうだな、記憶を呼び覚ませるような話をしてほしい」

「ええと、どんなことを話せばいいでしょうか」

「たとえば……さっきかけてくれた〈外傷治癒〉の話とか」

「魔法についてですか?」

「そう、その魔法だ。どうもその辺の記憶がごっそり抜けてしまっている」


 苦しいか?と思ったが、ミルヒアはこちらに好感を抱いてくれているっらしい、

 特に疑いも出ずに美巨乳を震わせて、請け負ってくれた。

「私が孤児院で子供たちに教えている魔法の基礎講座でいいですか」

「ああ、それがいい、よろしく頼むよ」


    *    *    *


「魔法を使うには〈房珠ほうじゅ〉がなくてはなりません」

 ミルヒアが自らの豊かな乳房を指し示す。そうか、この世界ではおっぱいのことを〈房珠〉と呼ぶのか。脳の一番大事なところにしっかりと刻み込む。

 目を凝らして見ると、確かにそのおっぱ 〈房珠〉の中に何らかの力が渦巻いているのがわかった。


「〈房珠〉には魔力がたくわえられ、その大きさは蓄えられる魔力量に関係します」

 ふむふむと頷く。ミルヒアが続ける。

「蓄えられた魔力は〈呪紋じゅもん〉を通ることで魔法となり、〈魔頭まとう〉から発現します」

 順に乳輪と乳首を指さした。乳輪により魔法が決まり、乳首より放たれるらしい。実に感動的なシステムだ。感動の涙が出てきた。


「大丈夫ですか? 続けますよ? 魔法の発動には〈詠衝えいしょう〉が必要です」

 ミルヒアが両手で規則的に〈房珠〉を揺らすと、〈房珠〉の中に渦巻いていた魔力がぎこちなく〈魔頭〉に集まり、ほのかな光を発し始める。

「んっ、これが基礎魔法の〈灯明〉です」

「うん、少しずつ思い出してきた」

 さも今まさに思い出したように頷きつつ、視線は光を発する〈魔頭〉をガン見である。ご理解いただきたい。


「〈詠衝〉の仕方と、それぞれの〈呪紋〉によって、魔法は使い分けることができます」

「〈呪紋〉は生まれついて差があるものだったか?」

「成長と環境によって変化することはあるみたいですけど、基本的にはそうですね。共通で使える基礎魔法以外は、それぞれ固有魔法があります」

「なるほどなるほどなるほど……むっ?」


 チャンスとばかりにミルファの〈呪紋〉を凝視していると、素晴らしい視界にわずかな変化が起こった。脳裏に何らかの情報が浮かび上がってくる。


「治癒魔法を含む身体操作魔法と、限定された風魔法……?」

 ミルヒアが目を見開く。

「そうです、そのとおりです……よく私の所持魔法がわかりましたね」

「ああ、そんな気がしたんだ」


 磨き上げたおっぱい観察力がこの世界のルールを知ったことで魔法に関する情報を読み取れるようになったらしい。前世では相手の健康状態や疾患の有無を見抜くくらいしか使えなかったのに、だ。

 どうやらこの世界では一般的な能力ではないらしい……なるほどこれが乳を揉むために授けられた力の一つか。正直思ってたのと違う。でもそれがいい。いやよくないけど重要な能力……だと思う。


 同時にこの能力はひどく危険なものだと気が付いた。相手の武器を読み取れる能力ということになる。持っていることを知られたら命を狙われかねない。

(迂闊だったか……いや言ってしまったことはしょうがない。ここからはなるべく気をつけよう)


「珍しいですね。男の人でそこまで〈房珠〉に詳しい人は初めて会いました」

「そうか?」

「ええ。普通は男の人は〈房珠〉を恐れていますから」

 なるほど、女だけが魔法を使える世界。となれば〈房珠〉は抜き身の銃口と同じだ。その力を持たない男が〈房珠〉を忌避するのも当然かもしれない。もったいない。


「先程もあの強力なサラマンダーの動きを封じていたように見えました。なにか特別な技能をお持ちなんですね」

「さっきは無我夢中でね。何をしたのか自分でもうまく説明できないんだ。話を続けてくれ」

「ええと、〈房珠〉には、魔法を使えるようになるほかにもう一つ大きな力があります。それが〈房珠〉を持つ存在の在り方を強化する効能です」

「在り方……」

「そのものが持つ本能であるとか、性能であるとかですね。さっきのサラマンダーは〈房珠〉を得て他を燃やすという在り方が強化暴走した炎そのものです」


 おっぱいが生えると強くなる。俺おぼえた。


「他にも、狼が〈房珠〉を得ればワーウルフに、鳥が〈房珠〉を得ればハーピーになります」

「女性に近い姿になるんだな」

「そうですね。〈房珠〉を中心に女性の肉体に近い形に全体が変容していきます」

「人間が〈房珠〉を得たらどうなる?」

「人間としての在り方が強くなります。〈房珠あるもの〉(女性)は身体能力でまず〈房珠なきもの〉(男性)には負けません」


 これは厳しい情報だ。魔法抜きでもどうやら俺はこの世界では最初から弱者の側にいるらしい。

「筋力、防御力、敏捷力だけでなく、健康な肉体を保とうとする力が〈房珠〉から供給されます。健康であろうとする力が働くので魔力が強ければ強いほど老化も男性に比べると明らかに遅いです。老化も遅くなります」

 もはや種族レベルで格差があるらしい。


 しばし黙考する。大体この世界の魔法のルールはわかった。あとはこのルールの中で社会がどのように構成されているかを知りたい。

「おかげで段々記憶を取り戻してきたよ。俺はこの地よりも遠いところから流れてきたんだ。すまないが行く当てもないんだ。君の街に案内してほしい」

「でしたら、うちの孤児院でお部屋をお貸しできます!」

「それは助かる。しかし、タダで世話になるのは気が引けるな」


 それも孤児院と来た。いい歳をした男が転がり込むだけというのは体裁が悪すぎる。

 察してくれたのかミルヒアは俺に提案をしてくれる。


「でしたら、私の仕事を手伝ってもらえませんか。バスティアさんは男性なのに不思議な力があるみたいですし」

「それでいいなら是非おねがいしたい。でもこの力のことはできればなるべく秘密にしておいてくれると助かる」

「わかりました。ではとりあえず、バスティアさんはわたしの従者となっていただけますか」

「従者?」


 聞きなれない言葉だ。響きから少々不穏なものを感じる。


「ええ、これから行くエルブレストの町では男性はあまり扱いがよくないので……特定の冒険者のサポーターとして契約している従者なら、ある程度の身分が保証されます」


 実力に基づく女性優位社会ならではのルールということか。しかしそういうことならこの申し出はありがたい。


「何から何までありがとう。微力ながら手伝いをさせてもらうよ」

 俺は目の前の美巨乳に頭を下げたのである。


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