第十二話 おっぱい星人、双子とまみえる
「よく来た! 冒険者ミルヒア、そして従者バスティア!」
「急な招きに参じてくれて感謝するぞ!」
扉を開けてすぐのホール、正面階段上から甲高い声が降り注ぐ。
そこに立っているのは胸元がゆったりしたドレスに身を包んだ、まだ少女と言っていい見た目のボブカットの二人組だった。かすかな驚きはあるが、あのプニルの姉である。時の進みも相応に遅いのだろう。ならばあの小ぶりなAカップ〈房珠〉もサイズ以上に濃密な魔力を秘めているはずだ。
片方は煌めくような金髪、片方は透き通る青みがかった銀髪をしている。
「名乗っておこうのう。われはローレリア」
金髪が青い瞳でこちらを見下ろしてくる。
「わらわはスリザリアじゃ」
銀髪の紅い瞳が高慢に歪む。
ミルヒアが一歩前に進み出た。
「お初にお目にかかります。すでにご存知と思いますが私が」
「ああ、よいよい。名は知っとる」
「これからぬしらが仕える主として一応の礼儀として名乗っただけじゃ」
ミルヒアの声を遮るようにスリザリアがドレスの胸元を一気に引き下げた。〈房珠〉がふるとと揺れる。つややかで上品な〈魔頭〉がまとう〈呪紋〉は命令魔法のそれ!
「〈捕らえよ〉」
命令と同時にこちらを捉えようと動き出すプニルたち。
やっぱりな!
相手の背後に手駒を控えさせているのだ。初手は必ずそうすると踏んでいた!
ここまでは計算通りである。俺は背後から近づいてきた相手の胸を事故に見せかけて触るためのおっぱい星人奥義〈逆凪〉を使って死角から迫ったデボネアとバリエラの〈房珠〉を後ろ手に揉み上げた。バロスペシャルをかけられたような無理のある体勢ではあるが、日々の鍛錬は俺の無理な要求にも確実に応えてくれる。
もにゅり もにゅり
「あっ!」
「うぁっ!」
よく知った〈房珠〉だ。在るべき姿もよく知っている。触覚頼りでも正常な魔力の流れに戻してやるなど造作もない。すぐに正気を取り戻すデボネアとバリエラ。
「バスティア! なぜ逃げなかったです!」
「なんて無茶を!」
「話はあとだ! 制圧するぞ!」
「わかった」
操られている間も意識はあったのだろう。二人の反応は早かった。
デボネアはすでに敵に射線を通すべき位置取りをしている。
「ほう!」
ローレリアが感嘆の声をあげるころには
「〈精神抵抗!〉」
カウンター気味にミルヒアの当身を受け膝をついていたプニルにバリエラの抵抗魔法が飛んでいた。
「ぐうっ!」
一瞬〈房珠〉を抑えて苦悶の表情を浮かべるプニルだが、すぐに正気を取り戻す。
「荒っぽいやり方ですわね!」
「お礼は要りませんよ」
「あとで嫌でも言わせていただきますわ!」
「バリ子ぉ、おぬしそこまでの抵抗術を極めておったかよ!」
「げに恐ろしきは若者の成長よの!」
ローレリアもドレスの胸元を引き下げる。こちらの〈呪紋〉は暗示魔法だ。ローレリアが暗示魔法でこちらの精神にバックドアを作り、そこにスリザリアが命令魔法を通すのがこの二人の必勝コンボなのだ。
しかし、このコンボには二手かかる。そのうえこちらは5人がかりだ。初手でバリエラを解放して手数を増やすというのがこちらの作戦の肝だった。あえて精神操作を受け入れながら術者を出し抜いたバリエラの技能を信頼してのプランだったが、万一失敗してもバリエラ一人解放すれば防御魔法でプニルたちを封じることができる二段構えの作戦だ。ここまでは作戦は満点と言えた。
彼我の距離は10mばかり。このまま一気に押さえ込む! すでにミルヒアとプニルも加速挙動に入っている。デボネアが発動させたのは双子を逃がさないための〈移動阻害〉か。俺も駆け出して……
「「〈止まれ〉」」
空間が震えた。
「あっ!」
「ぐうっ!」
俺を追い抜いて飛び出したミルヒアとプニルが墜落したかのような勢いで転倒する。背後のバリエラとデボネアも膝をついているのがわかる。そして俺自身もだ。駆ければ数歩のところに敵を収めながら、足が一歩も動かない!
足だけではなかった。腕からも感覚が消えていく。
何が起こったんだ……!
目の前では、双子がチークダンスのような格好で互いの〈房珠〉をすり合わせていた。
押し付け合わされた小ぶりの〈房珠〉が蠱惑的に揺れる。
「〈共振詠衝〉まで披露する羽目になるとはのう」
「なかなかやるものじゃ。バスティア。そしてミルヒア」
「手駒となった後も大いに期待しておるぞ」
自由になる目を使って魔力の流れを見る。互いの〈房珠〉を揺らし合うことで〈詠衝〉を行い、擦り合わされた〈魔頭〉を鈴のように振るわせて、空間一帯に直接〈命令〉を〈暗示〉している……!
手の中にある魔障布のロープが熱を持っている。これは領主たちを鎮圧したのち〈房珠〉ごと拘束するために用意したものだったが……
魔力を遮る効果があるなら、こちらに送り込まれてくる魔力そのものを僅かなれど遮断できるのか!
指先の間隔が徐々に薄れていく。間に合うか? 賭けるしかない。
おっぱい星人奥義〈朽縄〉……!
偶然を装い、対象のおっぱいにひも状のものを食いこませるための技である。
反復して体が覚えた挙動は魔障布のロープを空中で操り、俺の頭にロープを絡めることに成功する!
一気に感覚が戻ってきた! ロープを頭に鉢巻きのように括り付ける。
そのまま立ち上がる。〈房珠〉さえ掴めば、この魔法は打ち消せる!
ローレリアたちもさすがに驚いている。
「それは魔障布かよ!」
「まさかそんなものでわれらの魔法をわずかながらでも耐えるとはな!」
しかし、そこ止まりだった。双子は嗜虐的な笑みを浮かべると突き付ける様に言い放つ。
「だが、無駄よ」
「おぬしにはここからさらに強烈な支配魔法をかけてくれるわ」
「「〈跪け〉!」」
より押し付け合わされた双子の〈房珠〉が激しく擦り合わされる! それに合わせて今まで鈴の音のように空間に放射されていた魔力の流れが、指向性を持った魔力の音波になって俺に向かってくる。
「うおおおおおおおおお!?」
先ほどとは比べ物にならない痺れが全身を襲った。熱、匂い、音、色、あらゆる感覚がノイズで揺さぶられて埋まっていく。そんな中で体だけが意に反して動き、拳を床につき、片膝を立てようとしている。俺の体が俺以外の何かによって支配されていく!
だめだ、このままでは俺が消えてしまう。
目の前におっぱいがあった。
だが、このおっぱいは……
「……プニル……?」
「バスティア……耐えて……」
いまだ支配魔法の拘束がほとんど解けていないのだろう。プニルは息も絶え絶えだった。
それでも渾身の力を振り絞って、俺の頭に巻きつけたのは……プニルの〈鞘〉。
わずかに意識が引き戻される。
「みんな! バスティアに〈鞘〉を!」
プニルの悲鳴のような声に、デボネアが、バリエラが震える手で俺の頭に〈鞘〉を重ねていく。
「バスティア……託します」
「勝って……ください……です」
一枚、もう一枚と〈鞘〉が重ねられてい九たび、俺が取り戻されていく。
そうだ、俺は……
ふぁさ
「バスティア……負けないで……」
最後にミルヒアの〈鞘〉が俺の頭に乗せられた。
俺とミルヒアが一緒に買いに行った〈鞘〉だ。
そうだ、俺は
おっぱい星人だっ!
「……! 立つかよっ!」
「なぜ立てるのじゃ!」
「俺を支えてくれているものがある。倒れていられるか!」
そう、今俺の肩には4人のおっぱいが乗っているのだ。
「負けられるはずがないだろうがっ!」
足を踏み出す。まるで濡れた砂にでも膝まで埋まっているかのようだ。だが、歩ける。
「ぐぬう……! なんたる執念か」
「させぬぞっ!」
「「〈跪け〉」!!!」
「ぐうううううううう!」
今なお衝撃は強烈! だがもう意識を手放すほどではない。飛び散りそうになる意識を撒きつけられた〈鞘〉たちが繋ぎ止めてくれる。
残り五歩。
「おぬしは……一体何者なのじゃ……!」
「〈房珠〉なきものの分際で、なぜ戦える……!」
双子の声に初めて驚愕が混ざる。
「俺が何者かだと……」
残り四歩。息が苦しい。
そう聞かれたなら俺の答えはひとつしかない。
「おっぱい星人奥義バスティア! 己の存在に賭けてまかり通る!」
残り…三歩。
ぐらり、と倒れかけた、俺を見て、スリザリアが吼える。
「わらわたちの勝ちじゃっ!」
「バスティア―っ!」
ミルヒアが悲鳴を上げる。
……心配するなよ主殿。この射程なら、あれが使える。
おっぱい星人奥義極技〈坂戻神〉……!
正しくは〈比良坂〉外れからの〈虎伏〉〈点睛〉コンボという。一度の転倒では狙えなかったラッキースケベをキャンセルし、再度ラッキースケベを力技で狙う外法の技だ。その無理な挙動から身体に負担が極めて大きく、決して連発できる技ではない。だが、全身の痛覚すら麻痺している今ならば、使える。
「なんとっ!」
転倒を利用した無拍子の歩法。完全に虚を突いた!
「……掴んだぜ」
残り、零歩。
俺の両手は抱きかかえるように双子の片〈房珠〉ずつ掌中に収めていた。
「うおおおおおお!」
吼える。そして揉みまくる。仲間たちを苦しめている魔法を揉みほぐす!
しかし、敵も頂点に立つもの。その〈房珠〉の恐るべき柔らかさとハリツヤよ。並々ならぬ魔力の密度にここまで至ってもいまだに決着がついていないことを思い知らされる。片〈房珠〉ずつしか攻略できないというのも決め手に欠けていた。
一瞬ひるんでいた双子ももちろんこのままさせるがままにさせてはくれない。
「ええい、放せ、放さぬか」
「放さぬならば、直接お主を書き換えてくれようぞ!」
左右から両こめかみに当てられるローレリアとスリザリアの空いている方の〈魔頭〉!
「ぐああああああああ!?」
直接脳内に流し込まれる〈暗示〉と〈命令〉が頭蓋の中で反響する。より、圧を食わえて頭の逃げ場をなくそうとしてくる。きつい。今度こそ意識が飛びそうだ。視界が赤く染まり鼻血まで流れてきた。だが!
「こやつ、全く放そうとせぬ!」
「それどころか、より強く……ううっ!」
おっぱい星人が一度掴んだおっぱいから手を放すかよ!
たとえ意識なんかなくても、本能と指に染み付いたおっぱい星人奥義が俺に乳を揉む術を教えてくれる。
そして!
左右からの〈房珠〉から流し込まれる強烈な魔力からも、今なお頭に巻き付いている4人の〈鞘〉が守ってくれていた。
これは魂焼け落ちても負けられない乳揉み!
恐るべき〈房珠〉に〈妨害〉を送り込み続ける!
揉む! 耐える! 揉む! 耐える! 揉む! 揉む! 揉む!
「あーーーっ!」
「やーーーっ!」
やがて、左右からの圧が消える。ゆっくりと力尽きて倒れるローレリアとスリザリア。
双子の魔力を、すべて揉み潰したのだ。
「俺の勝ちだっ!」
俺は頭に4人の〈鞘〉を巻き付けたまま、拳を天に突き上げた。