ここに私は婚約破棄を宣言する。
「オーレリア・メルシスト公爵令嬢。ここに私は婚約破棄を宣言する。
そして私は隣にいるマリア・ハーレス男爵令嬢と改めて婚約を結ぶ。」
周りに立ちあった人達はそう宣言したこの国のパリス王太子とその傍にべったりとくっついているマリアに視線が注がれる。
神官長がおもむろに、
「王太子殿下。今、ここで行われている事を解っての発言でしょうな。」
メルシスト公爵も憤慨したように、
「婚約破棄も何もないでしょう。今、この状況で。」
メルシスト公爵夫人もハンカチを目尻に押し当てて、
「本当になんて酷い。わたくし達の悲しみを考えて下さらないのですね。」
そう、今まさにここではオーレリア・メルシスト公爵令嬢の葬儀の真っ最中であった。
周りの人達が黒衣を着て参列する中で、パリス王太子とその傍にべったりくっついているマリアだけは派手な金色の衣装を着て、オーレリアの棺の前に立っている。
パリス王太子は叫んだ。
「葬儀だからこそだ。ここに婚約破棄を宣言しておかないと。私は今までされて来た事に耐えられない。この女は私の婚約者である立場を利用して、どれだけしつこく付きまとったか解るか?
朝は、共に馬車で王立学園へ通い、授業中もべったり隣に座って、お昼はあーんをしないと食べる事を許されず、帰りの馬車も一緒だ。王宮までくっついてきて夕飯もあーんをしないと食べる事を許されず、さすがに結婚前だという事で、夕飯を食べたらオーレリアは公爵家に戻るのだが、王宮の出口まで見送り、お休みのキスは必須。どれだけ私が我慢してきたか。」
マリアはパリス王太子にしがみついて、
「そうですわ。どれだけパリス様が苦しんだか。解っておいでですの?オーレリア様。」
「だから、私はお前に婚約破棄を告げに来たのだ。死者に力はない。悔しいだろう。悲しいだろう。お前は凄く嫉妬深かったからな。文句の一つも言えず、棺の中で歯ぎしりしている事だろう。ざまぁみろだ。」
「そうですわ。そうですわ。わたくし、パリス王太子殿下にうんと愛して貰って、イチャイチャして、幸せになるのですわ。ざまぁみろですわよ。」
メルシスト公爵は怒りまくって、
「いかに王太子殿下と言えども、酷すぎる。これが死者への言葉ですか?」
メルシスト公爵夫人も、
「可哀想なオーレリア。死んでまでもこんな事を言われて。この子は一途に王太子殿下の事を愛していただけなのに。」
その時、棺の蓋がガタガタと音がして、バンと棺の蓋が弾け飛び、白いドレスを着た女性、オーレリアが身を起こして、パリス王太子とマリアを睨みつけていた。
「酷すぎますわ。人が死んでいるというのに、言いたい放題。」
パリス王太子とマリアは、ぱぁっと顔を輝かせて、
「生き返ったぞ。」
「生き返りましたわ。」
パリス王太子はオーレリアを抱き締めて、
「魔法の石が効力を発揮した。」
マリアも嬉しそうに、オーレリアに縋って、
「そうでしょう。さすが私のおばあ様。素晴らしいでしょう。良かった。オーレリア様。」
メルシスト公爵も夫人も、周りの人達も驚いていたが、我に返り、
泣きながら、娘を抱き締めるメルシスト公爵夫妻。
オーレリアは目を白黒させて、
「わたくしは…死んだのですよね…突然、病で倒れて…死んでいたはずなのに何故、生き返ったのでしょう。」
皆が落ち着いた頃を見計らい、改めてパリス王太子は魔法の石をオーレリアに見せながら、
「この石のお陰だ。」
マリアもニコニコして、
「魔法の石ですわ。ただ、死者にこの世へ戻りたいと言う強烈な気持ちを抱かせないと、
戻る事が出来ないのですのよ。後、身体のダメージが酷くても駄目で。
今回はオーレリア様が生き返ってよかったですわ。」
「ああ、有難う。マリア…それからパリス王太子殿下。それで、わたくしは婚約破棄をされたのかしら?」
パリス王太子を睨みつけるオーレリア。
パリス王太子は再びオーレリアを抱き締めて、
「私の昼食と夕食は、オーレリアにあーんして貰わないと食べた気がしない。君が傍にいないと私は駄目な男だ。マリアには協力して貰ったのだよ。」
マリアも説明する。
「私は身分は低いですけれども、母が王宮のメイドをやっている関係で、そして祖母は有名な魔法使い。だから、今回、協力したのです。私はオーレリア様が先々王妃様になるのを楽しみにしている一人ですわ。」
「まぁ。有難う。マリア。嬉しいわ。」
葬儀の会場は一気にめでたい雰囲気に包まれた。
パリス王太子はオーレリアを抱き締めながら、
「愛しているよ。オーレリア。今回は君が生き返る事が出来て良かった。」
「わたくしも愛していますわ。これからは更に、王太子殿下にべったりしますけれどもよろしいかしら?」
「勿論だ。うんとべったりしてくれていい。私は幸せだな。」
幸せな二人を祝福するかのように、空には綺麗な虹がかかっているのであった。
この件があって以降、パリス王太子は朝食もオーレリアにあーんをしてもらう事になったと言う(笑)