第9話 転移
いきなり抱き着かれて俺は戸惑った。
「マスター……」
キィは目を潤ませながらこちらを見ている。
「ちょ……待って、マスターって一体? 君は何者なんだ、石にされてたのか」
抱き着かれたまま俺は問いただす。
「キィ、封印されてた。ずっと待ってた、封印を解く者……」
「封印を解く者、俺が?」
ひたすらあせっていると。
オッホン!
と咳をしてアリシアがジトッとこちらを見ていた。
「……ジョウ君、そういう趣味だったの?」
気がついて、あらためて自分の状況を見た。
布一枚をまとった半裸のあどけない見た目は12~3歳の少女が俺に抱き着いているという状況。
「うわ―――っ! ちがうちがう!!」
慌てて両手でキィを引きはがす。
「まんざらでもない様子だったけど」
アリシアが茶化す。
「ちがうって!! アリシア、これは一体どういうことなんだ? 鍵の一族って、封印ってなんだ?」
真面目な顔をして、アリシアに向き直った。
ふぅ、と息をしてアリシアは言う。
「私にもよくはわからないわ、我が家に伝わる伝承では詳しいことはわからなかったから、ただ」
「ただ?」
「こういう一節があるわ、封印を解きし者、鍵の勇者なり、と」
「鍵の勇者……?」
俺はアリシアの言葉を繰り返す。
「これ以上は、家に戻らないとわからないわ。あるいは」
アリシアは言葉を区切った。
「あの禁書庫に行けば何かわかるかも……」
「禁書庫……それはどこにあるんだ?」
俺はアリシアに尋ねる。
「場所はわかってるわ。でも、いろいろと準備が必要よ、とりあえず今は戻りましょう。この部屋にはもう何もないみたいだし」
アリシアと俺はキィが封印されていた壊れた壁と、石造りの周りの部屋の様子を見返した。
「戻るって、この娘を連れてか?」
キィと名乗ったその少女は俺の服の袖を握って離さない。
「当たり前よ、幼い女の子一人で迷宮に残していくわけにはいかないじゃない」
「だけど、あのアイアンゴーレムがいた部屋にキィを連れて行くのは危険すぎる」
「そうね、ゴーレム達を倒せば入ってきた隠し扉以外の道も見つけられるかもしれないけど……」
そのときキィが俺たちの会話に割って入ってきた。
「その石、使えばいい」
キィはアリシアの懐を指差していた。
「石……転移石のこと?」
アリシアは転移石を取り出した。
その石はアイアンゴーレムがいた部屋とは異なり、輝きを取り戻していた。
「うん、これなら使えそうね!ちょっともったいない気もするけど、こういう時のためにきっとこの転移石はあの宝箱の中にあったんだわ」
アリシアは決心したように言った。
「転移するわ!ジョウ君と……キィちゃん、もっと近づいて」
俺とキィは慌ててアリシアのそばに駆け寄った。
「一応、つかまって」
アリシアの呼びかけに俺は彼女の左手をつかんだ。
「行くわよ、準備はいい?」
俺はゆっくりとうなずく。キィは俺の袖につかまったままだ。
アリシアは転移石を右手に高くかざし、大声で唱える。
「我らをこの場所から転移させたまえ、転移!!」
次の瞬間、大きな光の洪水が俺達を包んだ。
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