第78話 喪失
俺はアリシアがこちらにゆっくりと倒れるのを呆然として見ていた。アリシアの胸には魔王の攻撃で出来た穴が空いていた。
「フフフ、我の最後の力を振り絞った一撃だった。鍵の勇者は殺せなかったが蘇生の魔法は効かん。おまえの一番大切なものを奪ってやった」
そう言って魔王の声は沈黙した。
俺はアリシアを抱き止める。
「アリシア! 」
必死に呼び掛ける。
アリシアは
「良かった、ジョウ君無事で……」
そう言って俺に全身を預ける。
アリシアの体は冷たくなっていく。俺はアリシアの命の灯が非情に消えていくのを眺めるしかできなかった。
「アリシア、なんで俺をかばって……」なんで、なんでという思いが止まらない。
「ジョウ君…ごめん……ね」
アリシアの胸に空いた穴から血が出続けていた。血はアリシアと俺の服と床を赤く染め上げていく。
「アリシア、しっかり!」
俺は必死の思いで呼び掛ける。嘘だこんなの嘘だ、本当であるはずがない。
「ジョウ君、あい……し……てる」
弱々しくアリシアが言葉を発する。アリシアの全身から力が抜けていく。
アリシアの手がだらんと下がる。
……そしてアリシアはこときれた。
「アリシア!!」
俺は深い暗闇の中にいた。
いつも俺を助けてくれた。明るい笑顔を見せてくれたアリシア。王都で俺と出会ってから何度も俺の危機を助けてくれた。愛しい金髪とアイスブルーの瞳。王城で最後に交わした口づけを思い出す。
「誰か、早く蘇生の魔法を!」
俺は必死で誰ともなく呼び掛ける。
「だめや、蘇生の魔法を使える者はおらへん。それに魔王が言うことが本当ならあの攻撃に蘇生の魔法は効かへん」
ステラが床を見つめ悔しそうに言う。
「そんな、誰か助けてくれ!アリシアを助けてくれよ!」
俺は只、だだっ子のように泣きながら叫ぶ。
声はただ魔王の間に無限にこだましていく。
俺はアリシアの亡骸を力一杯抱きしめる。
「アリ……シア」
「マスター……泣かないで」
そこに突然、鍵の姿から戻ったキィが現れる。
「キィ、アリシアを助ける」
キィがいきなりそんなことを言いだす。
「何、何を言っているんだ、キィ」
「マスターが助けてくれたこの命、マスターの一番大事なものに使いたい」
そう言うとキィは輝きだす。それはまるで命の光のようだった。
「キィ、何を……?」
「キィの命の力を使ってアリシアを助ける!」
キィはまた大きな鍵の形に変化していく。
そして鍵は宙に浮かび、アリシアの胸元に来たかと思うとアリシアの胸に吸い込まれていく。
「やめろ、やめるんだキィ! それじゃあおまえの命が失われてしまう!」
俺は必死でキィに呼びかける。
「キィ、やめない。マスター、好き、あいしてる……」
そう言ってキィの鍵はアリシアの胸に入っていった。
光は大きく輝き、そして失われていく。
「キィ!!」
俺は必死に叫ぶ。
しかし、キィの鍵は光と共に完全に消えていった。
と、同時にアリシアに穿たれていた傷跡は癒されていく。
……しばらくして、アリシアは目を覚ます。
「ジョウ君、ここは……私、一体……?」
「アリシア……良かった。だけど、キィが、キィが……!」
俺はアリシアの手を握りながら涙を流す。
「「泣かないで、いつも一緒にいるから」」
アリシアの声とキィの声が重なって聞こえた。
しかし俺はただひたすらに泣き続けるのだった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!
ややあって、城全体が揺れ始めた。
キアーヴェは言う。
「いけない、魔王の力を失った城が崩れ始めようとしている、早くわらわの背に乗れ!」
そう言って、キアーヴェは金色の鍵の竜の姿となる。
「ジョウ、アリシア、とにかく今は逃げるで。悲しむのはその後や」
ステラがそう言う。
俺と目を覚ましたアリシアは急いでキアーヴェの背中に乗った。
キアーヴェは大きく翼を広げたかと思うと、崩れ行く魔王の城から飛び立つ。
「さようなら、ありがとう、キィ」
俺はアリシアの手を握りながらその光景をただ眺めるのだった。
あと二回で、完結予定です。
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