第63話 スライド達との邂逅
俺達は神殿に至る坂を登っていた。
スライドは大きなことをなす前にいつもこの神殿に来ていた。
まだ黒の転移石を使っていないことを祈りながら、俺達は坂を登り続ける。
神殿から少し離れた大木がスライド達の結託の場所だった。
俺は坂を登っていき、その大木の下の人影に気づく。
――間違いない、スライド達だ。
見ると、向こうも丁度こちらに気づいたようだった。
こちらに数歩足を進めて上からあざけるように俺を見た。
「よう、久しぶりだなジョウ・ローレット」
憎しみを込めた眼差しでこちらを見るスライド達。
「久しぶりだな、スライド」
同じく複雑な感情を抱きながらスライドを見つめる俺だった。
「パーティに戻して貰えるように頼みにここへ来たのかァ……?鍵の開け閉めしかできないくせに」
スライドは侮蔑の表情でこちらを見る。
「違う、今の俺はあの頃の俺じゃない。今は鍵の勇者としてパーティを率いてる」
「鍵の勇者か、名前付きの勇者になったってのは本当だったんだな」
スライドは嫉妬と狂気が入り乱れた目でこちらを見ている。
「その後ろの女どもはおまえのパーティか、やるじゃねえか」
アリシアは前に一歩踏み出す。
「あなたたち、黒の転移石を持っているんでしょ? こちらに渡しなさい」
その言葉にスライド達は少し戸惑ったようだった。
「黒の転移石……なんでお前らがそのことを知っている?」
「その転移石は危険な石なんだ、俺達に渡せ!」
俺はスライドに呼びかける。
「危険な石? ははん、魂胆が読めたぞ。お前らこの黒の転移石で宝島へ行くつもりなんだろう?」
懐から転移石を出したスライドはその石を持ち問いかけてくる。
「何を言ってるんだ!? その転移石は宝島なんかに連れていってなんてくれやしない、むしろ逆だ」
「そうよ、魔王の居城へ通じてるのよ、それは」
アリシアも必死で説得する。
しかし、それは逆にスライドの疑念を増幅し、確信に至らせてしまったようだった。
「鍵の勇者がそこまでして手に入れたい財宝がそこにあるってことか、ククク……」
スライドは不気味な笑みを浮かべた。
その歪な表情に俺は一瞬怯む。
「だが、ジョウ、おまえにはこの黒の転移石は渡さねえ!」
その言葉を聞いてアリシアは叫ぶ。
「お金ならいくらでも出すわ、だからどうか大人しく……」
「金~? 金ならこの黒の転移石が導いてくれる場所にいくらでもあるんだろォ……」
黒の転移石を手に持ち振って、スライドは嘯く。
「お生憎様、これは俺達が先に見つけたんだ、だから俺達が使わせてもらう」
スライドが煽るような口調で言った。
次の瞬間、スライドは信じられない行動に出た。
黒の転移石を天高くかざしたのだ。
「我らを転移させたまえ、転移!!」
「しまった、遠隔施錠……」
とっさにあまりのことに反応できなかった。
溢れた光はスライド達を包み、地面には転移陣が描かれたがそれはやがて消失していった。
「あらー、行っちゃったわ。はっきり言ってバカやなあいつ」
ステラが呆れ顔で言う。
「俺の失敗だ、まさか奴がいまここで黒の転移石を使うなんて」
「ううん、ジョウ君はよくやったわ」
アリシアが慰めの言葉をくれたが、俺はとっさに遠隔施錠できなかったことを悔やんだ。
「しかし、どうするんやろなあいつら。宝島と勘違いして魔王の島なんてあほとちゃうか」
ステラがまだ呆れた顔をしている。
「だけど、これで俺達は魔王の城に直接乗り込む手段を失った」
俺は悔しそうに言う。
「ううん、まだこれがあるよ、マスター」
キィが例の羅針盤を持って言う。
「そうか、船で行くことになるだろうけど絶海の孤島と言っていたからな、上陸手段があるか……」
そう考えていた時だった、俺の腰につけていた鍵束の中の金の鍵が光った。
――と思うとその光は大きくなり人の形をとった。
銀の髪に金色のローブを身に着けている角が生えた綺麗な女性の姿になった。
「あなたは……一体?」
突然のことに俺とアリシア達は呆気にとられる。
「わらわは鍵のドラゴン、キアーヴェ、王都で竜形態になると人々に驚かれるのでな」
「キアーヴェ、力が戻ったのか!?」
俺は嬉しさで叫ぶ。
金色の鍵のドラゴンは人型にもなれるようだ。
「うむ、鍵の羅針盤があれば竜形態で魔王の島へと飛んでいけるぞ」
「そうか、ドラゴンに乗って飛べれば……」
アリシアも喜んでいる。
こうして俺達は魔王の島へ渡る手段を手に入れたのだった。
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