第61話 スライド達を追って
俺達は鍵の扉の迷宮からブレイブ王都に戻ってきていた。
とりあえず、黒の転移石を冒険者が売ることも考えて質屋に来ていた。
「おう、ジョウじゃねえか、久しぶりだな。おまえなんでも出世したみたいじゃないか。確か鍵の勇者とかいう名前付きの勇者になったとか? 俺はおまえは出来る男だと思ってたぜ」
店主は調子いいことを言う。
「しかも、そんな美女三人も引き連れて……うらやましいこったな、おい」
アリシア、ステラ、キィを見て言う。
「本命はやっぱ金髪の嬢ちゃんか? それともナイスバディ―の姉ちゃん? まさか少女趣味?」
そんなことを聞いてきたので俺は慌てる。
が、アリシアは質屋に来たことがないのか、珍しそうに辺りの商品を見回していた。
そりゃあそうだ、金持ちの貴族には縁がない場所だ。
キィも興味津々に辺りを見ている。
ステラはつまらなそうに入り口の近くに立っていた。
「そんなこと今は関係ないだろ、それより今日は聞きたいことがあって来たんだ」
「へいへい、鍵の勇者様の言うことならなんなりと」
「黒の転移石って知らないか?」
「黒の転移石……? そういや最近見たような……」
「本当か? どこにあるんだそれは!?」
アリシアがその声に驚いて振り向く。
「いやいや、買い取れなかったんだよそれは。転移石と言ったら青だろ普通? 黒の転移石なんてどこに飛ばされるかわからねえ、そんな危ないもんうちじゃ扱えない」
「誰だ、誰が売りに来たんだ!」
「えーと、誰だっけな。今日は忙しかったからな……そうだ、スライドだ、おまえも仲間だったんだから知ってるだろう、スライドのパーティが持ってきたんだよ」
「スライドが……!?」
その名前を聞いて俺は愕然とする。
と同時にスライドのパーティを外されたあの苦い記憶が俺の脳裏に蘇っていた。
「ああ、間違いねえ、スライドの奴だ。なんでも宝島に行ける黒の転移石を手に入れたってことで売りに来たんだ。しかし、俺は買い取らなかった」
「宝島……そんな勘違いしているのか、スライドは!」
俺は頭に来て声を荒げる。
「スライドって……確かジョウ君がメンバーを外されたっていう勇者パーティよね」
アリシアが近づいておそるおそる確認するように言う。
「ああ、そうだ。俺はあいつらのパーティをクビになって……それでアリシアと出会ったんだ」
「じゃあ、ええやないか。そんないけ好かない奴らがどうなったって? 仮にも勇者パーティを名乗るものなら魔王の島へ転移しようと魔王と対決することになろうと」
「そういうわけにはいかないよ、確かにあいつらにはいろいろとひどい目に合わされたけど」
「確かに、それに魔王の城へ行く転移石なら私たちにこそ必要よ」
アリシアが同意する。
「スライドを探しに行こう、転移石を使われる前に!」
俺はアリシア達に呼びかけた。
俺達はスライドの足跡をたどった。
いつもたむろしていた冒険者の宿には戻っていないらしい。
ただ、店主に近く自分たちは大金持ちになれると吹聴していたらしい。
そんなことは、黒の転移石を売り飛ばすか自ら宝島と勘違いしている魔王の島に行くことしか考えられない。
「あいつ等……、早まるなよ!」
俺は必死でスライド達がどこに行ったか探すのだった。
スライド達のパーティの痕跡は食堂で途絶えていた。
俺達は事情を話し、食堂からどこに行ったか聞いたみたがわからないとのことだった。
「マスター、お腹空いたー」
キィがそんなことを言い出すが、今は構っている余裕がない。
俺は必死で記憶を探る。
スライド達がいつもたむろしていた冒険者の宿、ひいきにしていた食堂、時々訪れた質屋……。
スライド達は何か儲け話が入ったときは必ず、前に豪遊をしていた。
それが今、訪れた食堂だ。
それから……?
俺は突然思い出す。
「そうか、ゲン担ぎだ。あいつ等はいつも何か大きなことをなす前に神殿に行くんだ!」
俺はアリシア達と一路、神殿に向かうのだった。
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