第60話 その頃のスライドのパーティ(11)
「何ー、値段がつかないー?」
スライドは黒の転移石を質屋で売り飛ばそうとしていた。
「何でだよ、転移石だろ。普通の転移石ならすごい高値で売れるじゃねえか!?」
「普通の転移石なら、な。この転移石はどこに飛ばされるかわかったもんじゃない。例えば、転移先が魔王の島だったりしたらどうするんだ?」
店主は知らず知らずのうちに核心を突いたことを言う。
「う……それは、でもこの転移石はお宝のある島に連れて行ってくれるって話だぞ」
「そんな不確かな情報だけじゃ買い取れないね。それにそんなお宝がある島に行けるならお前さん方が行けばいいじゃないか?」
店主はにべもない。
スライドは返す言葉がなく、うなだれた。
「さあ、帰った帰った」
店主はスライド達に帰れと手を払った。
「ちっ、計算が狂ったぜ」
スライドは大通りを歩きながら言う。
「あの台座にあった文字、あの文字が読めればこの黒の転移石が何なのかはっきりわかったのにね」
ミレイは残念そうにする。
「やっぱりあの部屋の残った扉の先を確かめるべきだったかのう」
メルビルが指摘する。
「残りの扉は魔法もかかっていて強力な鍵でした、残念ながらあっしじゃ開きませんでした」
モラドが申し訳なさそうに言った。
「ちっ、言い訳はいいんだよ。まあ、あの時はこの黒の転移石さえ見つかりゃいいと思ってたからな」
「それにしてもこの転移石が売れなかったことでパーティの借金は増えるばかりよ」
「はーっ」
全員がため息をつく。
「こうなったらこの転移石を使って俺たち自ら確かめるしかないか!?」
スライドが提案する。
「そうは言っても、どこにあるかわからない宝島に行けたとしてもどうやって帰ってくるの?」
ミレイが疑念を口にする。
「そんなもん宝島なら普通の転移石の一つや二つ落っこちてるだろうさ」
「なるほどね、さすがスライド。冴えてるじゃないのさ」
「そうと決まりゃあ、善は急げだ……と言いたいところだが」
グウウゥと腹が鳴る。
「腹が減っては戦は出来ねえとも言うし、前祝いでご馳走たらふく食うか!」
「宝島で大金持ちになるんだから問題ないわ」
「よーし、こうなりゃ景気よく食事に行くぞ」
スライドが先頭を切って歩き出す。
「借金でだけどな」
エドガーがぼそりと呟く。
こうしてスライド達は宝島行きの前祝いとして食堂で豪勢な食事を味わうのだった。
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