第54話 起床
暗い世界だ。
俺は何かを必死に叫んでいた。
アリシア、アリシア……!!
俺はアリシアを抱きしめていた。
アリシアの体が手の中で冷たくなっていく。
アリシア……!
瞬間、明るい光が差し込んだ。
俺は、それで自分が瞼を開けたことを知った。
「ジョウ君、起きたの……?」
「アリシア、良かった無事で……」
俺はアリシアの顔を見て、さっきのは悪い夢だと気づく。
夢で良かったと安堵する。
「それはこっちの言葉よ、無茶をして……」
あたりを見廻すと俺が寝ているベッドに低い天井、床には擦り切れてシミがあるカーペットが、窓からは日の光が溢れていた。
どうやら宿屋の一室のようだ。
アリシアは椅子に座って俺の看病をしてくれていたみたいだ。
「う……。俺はどうなったんだ?」
俺は軽い頭痛を覚えつつもアリシアに尋ねる。
「おそらく鍵の力の使いすぎで、気を失っていたの。でも良かった目を覚ましてくれて、もうこのまま起きないんじゃないかと……」
アリシアは心なしか目が赤かった。
「丸二日眠っていたのよ」
「丸二日……!? そうだリュウセイは、リドラはどうしたんだ」
急に全てを思い出す。
「リドラは倒したわ、でもリュウセイは飛んで逃げていった」
「そうか、街は?」
「衛兵や、冒険者総出で当たったおかげで、リザードマンは撤退していったわ」
「それは、良かった」
アリシアの言葉に俺は安心する。
そのとき、部屋のドアがガチャリと開いた。
「おー、やっと目を覚ましたんか、ジョウ」
「マスター、良かった」
ステラとキィが入ってくる。
「アリシアに感謝せなあかんで、つきっきりで看病していたんやから」
「ステラ、それは言わなくても……」
「ジョウ君が……とあんさんを担いで来たときの泣きそうな表情ったらもう、本気で心配したで」
どうやらアリシアには想像以上に心配をかけてしまったみたいだ。
「アリシア、そうだったのか、ありがとう」
「ううん、本当に無事で良かったジョウ君……」
二人で見つめあう。
しばらくそのままの時が流れた。
「何、いつまでも見つめ合ってるんやお二人さん」
ステラの声で我に返る。
「い、いや別にそんなわけじゃ。それより丸二日何も食ってないからお腹が減ったな」
俺は慌てて声に出す。
「キィもお腹すいたー」
キィも同調する。
「そ、それもそうね、食事にしましょう」
アリシアもちょっと慌てていたようだった。
宿屋の一階で遅い昼食をとる。
「ジョウ君、大丈夫?」
「もう大丈夫だよ。しかし自分に施錠解除を使うのは最後の手段だな」
「うん、でも驚いちゃった。マスターキィソードがなくてもあの威力なんだもの」
「一人で四天王のとこ行く言い出した時はどうしようかと思ったけどな」
「マスター、このパン美味しいよ」
俺達はしばし歓談した。
「そういえば、シーモアの奴はどうしたんだ」
アリシアを執拗に追いかけていたのに彼の姿は宿にない。
「なんや、アリシアがあんな野蛮だと思わなった。婚約も親に言って解消してもらう!って出てったで」
「そうか、それなら良かった」
頭の隅にひっかかっていたことなので解決してホッとする。
「……で、この街の南に突然現れたらしいんだ」
隣で昼間から酒を飲んでいる冒険者らしき声に気づく。
「迷宮がか?」
「ああ、鍵の扉の迷宮と言われているらしい」
それを聞いて、俺は思わず立ち上がっていた。
「あの、その話詳しく聞かせてもらえませんか!?」
男達は驚いた様子で俺のことを見た。しかし、同じ冒険者だと認識すると話し出す。
「鍵の扉の迷宮ってのがこの街の南に現れたって話か?」
「そうです!」
いつのまにかアリシア達も俺の話に聞き耳を立てている。
男は話し出す。
「最近になって現れたんだよ、突如ダンジョンが」
「なんでも魔王が復活したときに対抗して現れる迷宮だって噂で冒険者でも尻込みする奴が多いって話だ。この街にも四天王が現れたばかりだしな」
もう一人の男が相槌を打つ。
「兄ちゃん、もしかして鍵の扉の迷宮に行くつもりかい?」
「はい」
俺は返事をする。
「確かにその迷宮はお宝がある場所へ連れて行ってくれるという話だが、魔王が怖くないのかい?」
「怖くないも何も……」
封印するつもりだなんて言えない。
「あの、その鍵の扉の迷宮の場所を教えていただけますか?」
アリシアが助け船を出す。
「なんだい、姉ちゃん、えらい美人だな。美人の頼みならお安い御用だ」
そうして俺達は鍵の扉の迷宮の場所について聞くのだった。
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