第49話 婚約者
俺達は、アリシアの屋敷に戻ってきていた。
幸い、帰り道はおおむね無事に強力な魔物に襲われることもなく済んだ。
「久しぶりに帰ってきたわ」
アリシアが言う。
見るとヨハンが出迎えてくれている。
「アリシア様、ジョウ殿、キィ殿もよくご無事で……こちらの方は?」
ステラを見てヨハンがアリシアに尋ねる。
「ステラと言うの、旅の中で出会って仲間になってくれた魔法使いよ」
「そうですか、ステラ殿、初めまして。アリシア様がお世話になっております」
そう言うとステラは照れる。
「別にあたいは大したことしてないで」
ヨハンは言う。
「アリシア様、丁度ご両親も帰ってきておられます、またシーモア殿もいらっしゃってます」
「シーモアが……?」
アリシアが顔色を変える。
「シーモア、誰なんだ?」
俺はアリシアに聞く。
「私の……、婚約者よ」
そう困ったような顔で言ったアリシアの言葉に俺は心をかき乱されるのだった。
「久しぶりね、アリシア。鍵の勇者様を守る戦士としてきちんと責務を果たしているみたいね」
屋敷の中に入り、アリシアは両親と再会する。
「はい、お母様」
母親に会い、アリシアは挨拶をする。
両親は威厳ある貴族といういで立ちだった。
「アリシア、こちらが鍵の勇者殿か?」
アリシアの父親が言う。
「はい、ジョウ君といいます」
「ジョウ・ローレットと言います」
握手を求めてきた父親に対し、俺は手を握る。
――そのときだった。
「アリシアー、久しぶりだね」
貴族のおぼっちゃまという感じの男が部屋に入ってくる。
栗色の髪がくるんとくせ毛になっていた。
「シーモア……」
アリシアは困ったような顔で再び俺の顔を見る。
この男がアリシアが言っていた婚約者なのか。
「心配してたんだよー、冒険者なんて危険な仕事するから」
「でも、あなたは何もしてくれなかったじゃない」
アリシアが珍しくきつい口調で言う。
「そんなことないよ、部下に頼んで常に探させてたんだ、危ないことがないようにって」
「部下って、あなたはそのときどうしていたの?」
「どうしていた?って僕らは貴族じゃないか。本来危険な役目は部下たちにやらせればいいんだ。僕は婚約者の君をずっと心配していたんだよ」
「心配していたならあなたが助けに来てくれれば良かったじゃない?」
「何度も言わせないでよ、僕らは貴族なんだ。本来、君のように鍵の勇者の戦士として危ない目に会う必要なんてないんだよ」
そう言って俺のほうを見る。
「名前付きの勇者だか、なんだか知らないけど君はもともと平民だろう? アリシアを危険な目に会わせていいって道理はないよ」
俺は何も言えず立ち尽くす。
「それにアリシアにあんまり馴れ馴れしくしないでよ、アリシアは僕の婚約者なんだから」
「それは親が勝手に決めたことでしょう?」
アリシアが反論する。
「親が勝手に決めたことなんて関係ない、僕は君を愛してるんだアリシア」
アリシアの手を握りシーモアは言う。
アリシアはその手を振りほどく。
「私は今の生活が気に入ってるの。鍵の勇者のジョウ君と一緒に様々な危険を乗り越えてきたんだから」
そう突っぱねるアリシアを見つつも俺は思っていた。
確かにアリシアは見惚れるほど気高く美しい。そんな貴族のお嬢様と対等に今までやってこれたのは奇跡だったのかもしれない。
それにクリップのときは単なる横恋慕だったが、今度は本物の親公認の婚約者だ。
「ジョウ君、ジョウ君も何か言ってやってよ」
「いや、俺は確かに鍵の勇者だけど平民の出身だし貴族の婚約者に言えることなんて何もないよ」
その言葉を聞いてアリシアは目を見開く。
「本気で言ってるの、ジョウ君……?」
俺は俯き何も答えらえれない。
それを見てステラがイライラしたように言葉を挟む。
「婚約者かなんか知らんけど、自分は安全なところにいてただ心配してただけなんてのが愛してるなんて言えるんか?」
「なんだい、君は? 確かに美しいけど言葉遣いが悪いね、貴族に対して」
シーモアはステラに対し一瞥する。
ステラはその言葉にさらにイライラしたみたいだ。
「あーもう、鬱陶しい。アリシアもキィもこれからのこと戦略立てなあかん。とりあえず出ていくで」
「うむ、鍵の勇者殿もアリシアもかなり長旅で疲れているはず。ゆっくり休める部屋を用意しよう」
アリシアの父親は言った。
「あー、イライラする。あの婚約者、シーモアと言ったか? 一番あたいの嫌いなタイプや」
用意された応接室に俺とアリシア、キィとステラは座って話していた。
「ジョウもジョウや、もっとビシッと言い返せないんか?」
「俺は……」
ふと、俺を見るアリシアの瞳に気づく。
アイスブルーの愁いを秘めたその瞳は俺に必死に何かを訴えているようだった。
そんなアリシアも美しい、だけど……。
「マスター、どうしたの?」
そのときキィが割って入る。
「い、いや、なんでもないんだ」
調子を崩されて俺は慌ててそう答えた。
「とりあえず、王都に行って今までの成果をブレイブ王に報告しに行こう」
俺達は今後の方針について話し合った。
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