第36話 エルフの里
俺達はアリシアの回復を待って、馬車を買いロンジョの街を後にして陸路で北へ向かっていた。
やがて聖なる森と呼ばれる地点に近づいたがステラがどうも様子がおかしい。
「あたい、ここ苦手や……」
と言い馬車の奥にこもる。
俺はそんなステラの行動に疑問を持ちながらも馬車の手綱を取っていた。
すると前方で何か物音が聞こえる。
見ると荒れ地で女性が何かと戦っている。
どうやらオークの群れだ。
ハイオークもいる。
女性は一人でオークの群れに魔法を繰り出していたがいかんせん多勢に無勢だ。
俺は叫んだ。
「女性が戦っている! 俺が遠隔施錠をするからステラは魔法を!」
そして馬車を止め、遠くのオークの群れに向かって両手を開き握って叫ぶ。
「遠隔施錠!」
すると両手から放たれた光は、地上のオークやハイオークに降り注ぎ動きを止める。
「今だ、ステラ!」
奥からステラが出てくる。
「しゃーないな、火球!」
そう言うと杖から巨大な火球が現れ動きを取れないオーク共を焼き尽くしていった。
オークが全滅した後、俺はその女性に近づく。
見ると耳がピンと立っていた。
エルフの女性だった。
「ありがとうございます、危ないところでした」
エルフの女性はこちらに向けてお礼を言う。
「たいしたことじゃないですよ、なっステラ!」
俺はステラに呼びかける。
エルフの女性はステラを見た瞬間、驚きの声を上げる。
「ミーナお姉ちゃん!」
それを聞いてステラはエルフの女性の方を見る。
「ニーナ、お前、ニーナやないか!?」
俺は状況がつかめず困惑した。
「ミーナお姉ちゃん、帰ってきたんだね!」
ニーナと呼ばれた少女は叫ぶ。
「う……あたいはミーナやない、ステラや。今は一介の冒険者や」
「何を言っているのミーナお姉ちゃん!?聖なる森のエルフの里に帰ってきたんじゃないの?」
「おい、どういうことだ、ステラ。説明してくれ」
俺はステラに説明を求める。
「だからあたいこの近くを通るの嫌やったんや、ここはあたいの故郷のあるところや」
「ええっ、おまえこの近くの出身なのか」
「あたいはもう村を出たんや、だからニーナ、あたいはミーナという名前も捨てた、今はステラや」
「そんなこと言わないでミーナお姉ちゃん、百年振りじゃない?」
……エルフは長命で有名だが、百年も妹と会ってなかったのか。
「みなさん、あたしはニーナ、エルフの里の寄って行ってください。お礼がしたいです」
ニーナと名乗ったその少女は俺達を小道に案内する。
「だからあたいは帰りたくない」
「まあまあ、いいじゃないか。野宿も何だし今夜一晩泊めてもらおう」
俺はステラを説得する。
「むぅ……」
ふてくされるステラを載せて馬車はエルフの里へ向かったのだった。
里は聖なる森に囲まれたのどかな村だった。
ニーナは村長の家に行って事情を話した。
すると村長は歓迎するとともに、帰ってきたステラ……ミーナに会いに来た。
村長といっても人間で言えば見た目はまだ中年に差し掛かったぐらいの年齢の女性だった。
エルフだけあって美しい。
「久しぶりですね、ミーナ。お前が退屈な村暮らしは嫌だと言って出て行ってから百年ですか」
「あたいは帰ってきたくて帰ってきたわけやあらへん、それに今のあたいはステラや」
「言葉まで外の世界に汚染されてしまいましたか」
「あたいの勝手や」
「そんなこと言わないでミーナお姉ちゃん」
妹のニーナが言う。
よく見るとステラ……ミーナとニーナも美人姉妹だ。さすがエルフ。
「このお方たちはどういった方々ですか?」
「フフン、聞いて驚いたらあかんで、鍵の勇者ご一行様や」
ステラが見たか!といった感じで俺達を紹介する。
しかし、村長の反応は違った。
「鍵の勇者……、本当ですかそれは?」
村長の表情は驚愕のそれだった。
・面白い!
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