第3話 アリシアの頼みごと
「ここが、ヴァトーの遺跡か」
丸一日かけて、王都から森を抜けヴァトーの遺跡という古代魔法文明があった遺跡にたどり着いた。
結局俺は、あれからアリシアと行動を共にしている。
というのも、アリシアの頼みごとにつきあうことにしたからだ。
もちろん、俺の鍵開けスキルを褒めてくれたこの少女の力になってやりたいという気持ちがあるのは確かだ。しかし、本来ならアリシアの依頼に従う筋合いは俺にはない。
だが、それでもとりあえず俺はこの少女についていく切実な理由があった。
――とどのつまり、金だ。
スライドの勇者パーティは金には苦労していなかった。
なにせどんな難しい宝箱も俺の施錠解除で開くので宝物は思いのままだった。
しかし、スライドから俺への配分はいつも微々たるものだった、おかげでパーティーから抜けた俺はほとんど一文無しの状態だったのだ。
「鍵開けしかしてない奴が財宝の分け前を貰うなんて図々しい」
スライドの侮蔑的な表情が頭に浮かぶ。
思い出してムカムカする。
「どうしたの?ジョウ君、難しい顔して」
先を歩いていたアリシアが怪訝そうな目でこっちを見ていた。
知らないうちに険しい表情をしていたらしい。
俺は慌てて、顔を元に戻した。
「いや、ちょっと考え事をね。それよりアリシア……さん、このクエストの報酬の話は本当かい?」
「アリシアでいいわよ。お金なら十分持っているって言ってるじゃない」
「いや、それならいいんだ。……アリシア」
このクエストに関してアリシアが提示した報酬は破格と言えた。
正直、こんな少女が一人で出せる金額を超えていると思えた。
普通なら、怪しむところだがなにせ勇者パーティを抜けて先立つものがない。
それに俺はこの少女が嘘を言っているようには思えなかった。
というのも、アリシアがあのローブをとった姿を見せたからだ。
明らかにミスリルで出来た盾とアーマー、そしてソード。
どれも高価な装備だった。自分自身で裕福だというのも嘘ではないのだろう。
「何よ、足りないの?前金は少し渡したでしょ?家に戻ればお金はいくらでもあるんだから」
「いやっ、そういうわけじゃないんだ。なにせ文無しだから、必要最小限いただければ……それに金目当てじゃない、俺が手伝いたいと思ったから手伝いに来たんだ」
嘘じゃない、俺は俺を認めてくれたこの少女の力になりたいと思ったのだ。
「……そっか、ありがとう」
素直な性格なのだろう、彼女は本当に感謝しているようだった。
気のせいか、いくらか頬を染めている。
彼女は自身をA級ライセンスの魔法戦士だと言っていた。
この世界ではS級からE級への冒険者ランクがあり、A級はちょっとした英雄レベルだ。
一方、俺といえばD級ライセンスの冒険者だ。
剣は持っているが、腕の方は心もとない。
「なぁ……、でもなんで俺なんか連れてきたんだ?足手まといにしかならないと思うけど」
「何言ってるの、この『開かずの扉の迷宮』にはジョウ君のその鍵開けスキルが絶対必要なんだから!」
鬱蒼とした森を抜けた遺跡のその先の扉をアリシアは指し示した。
・面白い!
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