第24話 卒業試験
俺たちは村の一軒の家を借りて寝泊まりしていた。
なんでも元村の長の家らしく古めかしくも立派な邸宅だった。
「まだ、記憶は戻らないのか」
俺はキィを横目に見ながらアリシアに尋ねる。
「そうね、さすがに鍵の一族の村に来れば記憶は戻ると思ったけれど……楽観視しすぎだったみたい」
「俺もリミット師匠に聞いてみたけれど、昔のことは話したがらないんだ」
「まだなんか隠してるでー、あのリミットっちゅー男」
ステラが確信めいたことを言う。
「無理矢理聞き出すってことは出来ないだろうし……、師匠も時がくればわかるって言ってたよ」
「まあ、昔のこと言うても思い出すのがキィにとって幸せかはわからんけどな」
ステラがポンとキィの肩を叩く。
「キィ、昔のこと思い出したい。それでもっとマスターの役に立ちたい!」
キィはけなげなことを言う。
「ありがとう、キィ。でも少しづつでいいんだ。今でも十分俺たちの役に立ってるよ」
俺はキィの頭の髪の毛をくしゃっと撫でた。
そうして夜は更けていく。
――あっという間に一か月が経った。
「卒業試験だ、この神殿の地下の迷宮に潜るがいい、そこで君は新たな力を得ることだろう」
リミット師匠は言う。
「まあ、死ななければの話だが」
「そんな物騒なこと言わないでください!」
でも師匠の目は本気だった。
「ジョウ君、ほんとに大丈夫?」
「マスター……」
アリシアとキィは本気で心配してくれてる。
俺は努めて明るくふるまう。
「大丈夫、この一か月死ぬ気で修行したんだ。 これぐらいへっちゃらさ」
地下への扉は施錠されていた。
俺は両手を着けて唱える。
「施錠解除!」
すると、ゴゴッという音とともに地下への入り口が開く。
おそるおそる入っていくと階段の先に道が続いていた。
長い地下道には魔法の照明が設置されていて、コツコツと空虚に響く自分の足跡だけが聞こえている。
しばらく通路を歩くとおどろおどろしい翼のある化け物の石像が六体ある広間に出た。
奥には女神?の神像があった。
「いかにも、だな」
俺は六体の石像に目を凝らす。
そして広間の中央に達したその瞬間だった。
「キシャアアアアァァァ!」
六体の石像は魔法の生物に姿を変え、翼で飛んで襲ってきた。
「ガーゴイルかっ!」
六体全部に即座に目をやり集中する。
「複数遠隔施錠!」
両手を開き、握る。
閃光が六手に分かれ飛んでいく。
刹那、ガーゴイル六体が空中で止まる。
「やった……!よし!」
俺は複数遠隔施錠しながら、強引に光を動かし六体のガーゴイルを一つに集める。
「これでいい……複数遠隔施錠解除!!」
次の瞬間、ガーゴイルどもはお互いに激しくぶつかる。
そして 悶絶しながらガーゴイル六体は床に落ちて転がった。
「上手くいった!これなら!」
俺は右手に剣を取りガーゴイルどもに向かっていく。
翼が無事な三体のガーゴイルは再び飛翔しようとしている。
「させるか、複数遠隔施錠!」
左手から放たれた光がガーゴイル三体の翼を押さえる。
たまらずガーゴイルはよろける。
そこを一気に俺は切り込んだ。
一体、二体、三体……俺は続けざまに斬撃を打ち続ける。
ガーゴイルの反撃で牙や爪が俺をかすめていったが、構わず中央突破する。
四体、五体、六体!
すべてのガーゴイルは倒れ、石の屑へと戻っていく。
「やった!」
俺は改めて自分の剣技がレベルアップしていることを確信する。
「師匠のおかげだ……」
ガーゴイルがもういないことを確かめ、奥の女神の像に近づく。
よく見るとキィと同じように胸元に鍵穴がある。
「これは……」
俺は逡巡するが覚悟を決めて鍵穴に両手を当てる。
「施錠解除!」
瞬間、光が像から放たれる。
そしてどこからか女性の声がした。
「私は鍵の女神。あなたの力を解放します」
――この声はキィを助けたときにも聞いた気がした。
「施錠解除!」
鍵の女神と名乗った声がする。
どこかでカチャリという音がした。
・面白い!
という方は広告下の☆☆☆☆☆からの評価、ブックマークへの登録をお願いいたします。
執筆の励みになります!