第21話 謎の男
妖精の森はその名の通り、神聖な雰囲気のする森だった。
気のせいか妖精の笑い声やささやきが聞こえる。
同じような木々や茂みに囲まれ、ステラの案内がなければ迷ってしまうところだった。
「もうすぐ森を抜けるで」
ステラの案内についていく。
そして、ついに俺たちは森を抜けた。
――――しかし。
そこにあるのは遠くまで広がる荒野だった。
「これは……、村がない?」
「この本に書かれていることは300年前も昔のことだから……、もう鍵の一族の村はなくなってしまったのかもしれないわ」
アリシアが残念そうに言う。
「骨折り損っちゅーことかいな」
しかし、キィの反応は違った。
「こっち……」
……まただ、禁書庫でも導かれるように鍵の本に辿り着いたように、キィは何かを目指して歩いていく。
「これ」
そう言って、キィは荒野にポツンと置かれた岩を指し示す。
そこには鍵穴があった。
「鍵穴……そうか!」
俺は両手を鍵穴につけて唱える。
「施錠解除!」
次の瞬間、目の前が光に包まれた。
そしてその光が収まって見えたのは、家々が立ち並ぶ村の風景だった。
「どうやら、目くらましの魔法がかかっていたようやな。そりゃあ、あたいも気づかんわ」
ステラが村の風景を見つつ言う。
「でも、家はあるけど生活の気配はないわ。人もいないみたい」
「とりあえず、中へ入ってみよう」
俺達は村の中に入る。
そこでは、昔ながらの家が立ち並んでいたがアリシアが言うように人の気配はなかった。
「誰かいませんか!?」
大声で叫んでみる。
反応はない。
「もうとっくの昔に廃村になってしまったのかもしれんな」
ステラが周りを見渡して言う。
「あっ、あれ!」
アリシアが指し示したのは神殿のような建物だった。
俺達はとりあえず神殿に入ってみることにした。
そのときだった。
「君たちは何者だい?」
神殿の屋根の上の方から男の声で呼び止められた。
「自分の名前も名乗らんとあたいたちのことを尋ねるなんて失礼やろが!」
ステラが杖をその男に向けた。
「すまん、すまん目くらましの封印が破られたから魔王軍の手下どもの可能性も考えたんだ、どうやら違うようだ」
男はしゅっと目の前に降り立って言った。
「お初にお目にかかる。私は鍵の一族の賢者リミットだ」
そう言って名乗ったのは耳の先がキィと同じように尖った、清潔感のある白いローブを着た若く美しい青年だった。
銀色の長髪を首もとで縛っている。
そして俺達を見廻して、キィに目が止まると驚愕の表情で言った。
「これは……、姫様!」
「姫……キィが?」
俺が驚いてそのリミットと名乗った男に尋ねると。
「そうだ、このお方こそ、鍵の一族の姫様、キィ姫様だ。」
キィに近づいてリミットは言った。
「となると、君が鍵の勇者か」
振り向き俺を指さす。
「そうよ!」
アリシアが代わりに答える。
「そうか、それじゃあ、試してみてもいいかな?」
そう言ってリミットは指をパチンと鳴らした。
すると、五体の剣と盾を持った骨の化け物が建物の影からわらわらと現れた。
「スケルトンだ!」
俺は叫ぶ。
即座に右手を構え握り唱える。
「遠隔施錠!」
閃光が走り先頭のスケルトン一体が動きを止める。
次の瞬間、アリシアが残り四体のスケルトンもろとも一閃のもとに仕留める。
がらがらと五体のスケルトン共は壊れていく。
「どういうこと、あなたのほうこそ魔王の手下じゃないの?」
アリシアはスケルトンの残骸を背にして、リミットに剣を向けて言った。
「試したと言ったろう、鍵の勇者としての実力を見てみたかったんだよ」
「試したって……一体!」
「そのままの意味だよ、鍵の勇者君、名前は何という」
俺を指さしリミットは言う。
「俺? 俺はジョウ、ジョウ・ローレットだ」
「そうか、がっかりだよジョウ・ローレット君」
――そしてそう言い放ったのだった。
・面白い!
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