第20話 ステラ登場
「ジョウ君! 遠隔施錠で援護を!」
「わかった!」
俺達は、王都から西の妖精の森に馬車で向かっていた。
そして森を目の前にして渓谷にさしかかった際に、突如として怪物に襲われた。
巨大な体躯にメイスを持つトロール三体、この間のゴーレムに比べれば弱いがかなりの強敵だ。
「遠隔施錠!」
俺は右手を開き、握る動作をしアリシアに一番近いトロールに対して光を放った。
ビタっとトロールの動きが止まる。
その瞬間を逃さずアリシアの斬撃がトロールを切り裂いていく。
しかし、残りの二体のトロールがこちらに近づいてくる。
御者とキィは馬車の中に避難しているがトロールのメイスで殴られたら馬車は粉々に吹き飛ぶだろう。
――マスターキィソードを使うか?
俺は逡巡する。
マスターキィソードは強力だが、消耗も激しい。
しかし、迷ってる暇はなかった。
「キィ、マスターキィソードを!」
俺が、キィに呼びかけたその時。
急に戦況が一変した。
「火球!」
トロール二体が突如、火に包まれた。
見上げると空に人影が浮いていた。魔法の力で浮いているみたいだ。
「火力が足りてないな~、ここはあたいにまかせな! 火柱!!」
そう言って、その人影は杖を振りかざした。
トロール二体が燃え盛る炎の柱に焼かれていく、やがてトロールどもは絶命して倒れる。
「危なかったな~、火力が足りんと違うか」
その人影はそれを見て、地上に降りてくる。
なんと人影はエルフの女性だった。長い尖った耳が特徴的だ。
そしてローブに杖をまとったいかにも魔法使いといういで立ちだった。
「誰だか知らないけど、ありがとう。おかげで助かった」
俺はそのエルフに礼を言った。
「ありがとうございます」
アリシアも残り一体のトロールにとどめを刺した後、駆け寄ってきて彼女に向かって礼を言った。
「礼ならお金で頂戴な~。あんたら金持ちやろ、こんなん立派な馬車に乗って」
そして長い紫色の髪をなびかせながら言う。
「あたいはステラ、あんたら妖精の森に行くんやろ。あそこは案内がいないと必ず迷う禁忌の森や、あたいを水先案内人兼ボディガードとしてやとわんか~? こう見てもあたいはAランクの冒険者やで」
ずいぶんとなまりがひどい。なんだかいろいろな地方の方言がごっちゃになってるみたいだ、長く生きているエルフだからか?
「それは願ってもない」
「本当ですか、助かります」
アリシアも礼を言う。
「しかし、妖精の森なんかに行くなんてもの好きやな~、なんの目的があるん?」
「ステラさん、実は俺たち、鍵の一族の村を探してるんです。この娘の記憶を取り戻すために」
キィは馬車から出て、俺たちに走り寄ってきていた。俺はキィの頭に手をやりながら言った。
「ステラと呼び捨てでええよ。ん……この娘、鍵の一族やな」
「「鍵の一族を知ってるんですか?」」
俺とアリシアは驚く。
「詳しいことはよく知らんけどな、確かに妖精の森を抜けた先に鍵の一族の村が昔はあったみたいやが」
「昔は……?」
「今はどうなっているか、あたいも知らへん」
「そう……ですか」
俺達は残念がる。
「そうか、あんたら。鍵の勇者ご一行と違うか? 王都から風の便りで聞いたで~新たに鍵の勇者の称号を得たものが出たとか」
さすが魔法使い、物知りというか、耳が早い。
「実は……、そうなんです」
「そうか、あんたが鍵の勇者か。ふーん、よう見たら思ったよりかわいい顔してるやないの、あたいのタイプやわ」
ステラと名乗ったそのエルフは茶化すように言う。
すると、急にアリシアがちょっと怒ったような顔で間に割り込む。
「あんまりからかわないでいただけますか?」
「冗談や冗談。怒らせちゃったか? しかしあんたらラッキーやな、どう見ても火力が足りてへん。魔法使いがパーティ的にも必要と違うか?」
「まったく、その通りです、ステラさんが仲間になってくれるなら心強い」
「だから呼び捨てでええって」
「じゃあ、ステラ。 俺はジョウ・ローレットです、この娘はキィ。よろしく」
「キィだよ」
キィも自己紹介する。
「わたしはアリシアです、よろしく」
アリシアはまだ難しい顔をしていたが、頭を下げた。
「じゃあ、行こう。妖精の森へ、そして鍵の一族の村へ!」
俺達は、アリシアの屋敷の馬車に妖精の森の手前で別れを告げた。
そしてステラという心強い仲間を得て、一路妖精の森へ入っていくのだった。
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