第13話 覚醒の片鱗
「ご両親に挨拶していかなくて大丈夫なのかい?」
「両親は今家を空けてるの、大丈夫よ」
「そうか」
翌日、俺はアリシア家の馬車に乗った。
――そういえば、昨日の夜は大変だった。
キィが俺と一緒に寝ると言って聞かなかったのだ。
さすがに、それはまずいということでアリシアと一緒に寝てもらうことにした。
「マスターの言うことなら……」
と、何度も説得してやっと納得してくれたのだ。
ついでに、アリシアは俺の着替えも用意してくれていた。
新品のハードレザーアーマーだ。
装飾が施されていて魔法の力で防御力もアップしているらしい。
使っていたハードレザーアーマーがボロボロになっていたのでちょうど良かった。
なんでも、王様に会うのだからきちんとした格好をしなければならないのだと言う。
そんなこんなで俺達は馬車で王都へ向かう。
ヨハンが
「道中お気をつけて」
と見送ってくれた。
馬車は派手な装飾が施されたいかにも貴族、といった感じの馬車だった。
御者の方が一人ついてくれた。
道中は朝に出発し、一日目の昼までは順調だった、事件が起きたのは一日目の夜のことだった。
焚火をつけながら 野営をしていたときのことだった。
はじめに気づいたのはアリシアだった。
グルルルルルル……。
「狼の群れのようね」
どこからともなく獣の唸り声が聞こえてくる。
アリシアが剣を取り出す。
「キィちゃんと、御者さんは馬車の中に隠れていて」
キィと御者は慌てて馬車の中に隠れる。
「狼か……。ならば、俺でもなんとかなりそうだ」
俺も剣を抜く。
そして、鬱蒼とした森の中に注意をやる。
「5頭はいるみたいね、ジョウ君は馬車を守って」
アリシアのレベルなら狼ぐらい余裕だろう。
「ああ……」
丁度いい、試してみたいことがある。
ほどなくして、狼の群れが俺達を襲ってきた。
アリシアに4匹が一斉に飛び掛かった。
刹那、アリシアの剣が一筋の円の軌道を描く。
一瞬で狼の4匹に致命傷を与えていた。
「さすが……!」
「ぼーっとしてないで、馬車に一匹行ったわよ!」
残り一匹が馬車に乗っているキィ達をめがけて走り寄ってくる。
俺は間に飛び込み、左手を前に出す。
「ジョウ君! 何を……」
アリシアが唐突な俺の行動に叫んだ。
「試してみる、この力が本当かどうか!」
俺は左手を開き、そしてぎゅっと握った。
「遠隔施錠!」
手から放たれた光が狼を襲った。
刹那!
キャイイイン!
狼がそんな声を出し、空中で動きが止まる。
次の瞬間、見えない鎖で固められたかのように地面に狼は落ちた。
「やった!」
俺は言い、動けない狼に右手の剣で止めを刺す。
狼は絶命した。
それを見ていたアリシアは驚きの表情で
「ジョウ君、今のは何……?」
と聞いてきた。
「キィを助けたとき、生身に施錠解除が効いた。だから試す価値はあると思ったんだ」
「前からそんなことが出来たの……?」
「いや、生身に施錠や施錠解除が効くなんてことはなかった。」
「そっか、じゃあやはり鍵の勇者の覚醒した力の片鱗なのかもしれないね」
「覚醒……」
そう、開かずの扉の迷宮を攻略し、キィを助け出したことにより確実に俺の中で何かが変わりつつある。
――これが鍵の勇者としての覚醒した力なのか?
疑問を持ちつつも、それからは特に狼や他の魔物に襲われることなく俺たちは無事王都へ辿り着いたのだった。
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