第12話 鍵の勇者
「俺が、鍵の勇者……?」
アリシアの言葉に、動揺していると。
――そのとき、扉が外側からコンコンと叩かれた。
「入って」
アリシアが促す。
「お待たせいたしました」
ヨハンが入ってきた。
次にキィが入ってくる。
キィは神聖な装飾がなされた白いローブ姿に着替えていた、よごれた布のドレス一枚から見違えた。
「まぁ、とっても似合うわ、キィちゃん」
アリシアが褒める。
「あ、おう、なかなかだな!」
俺もつられて言った。
「キィ、恥ずかしい……」
キィは赤くなって下を向いた。
「お話の途中でしたかな」
ヨハンがこちらに向かって歩いてくる。
キィは
「マスター……!」
と言って、トテトテと歩いてきてちょこんと俺の隣に座った。
ヨハンも
「失礼いたします」
とアリシアの隣に座る。
「どこまで話したっけ?」
「俺が鍵の勇者? ってところまでだよ」
「やはりこの者が、鍵の勇者なのですか。するとキィ殿は鍵の一族ということになりますな」
ヨハンが割って入る。
「いきなり鍵の勇者って言われても訳がわからないですよ。それに……おい、キィ、おまえ鍵の一族なのか?」
「キィ、わからない。何も覚えてないの……」
「えぇ? 記憶喪失なのか」
俺は困ったという感じで手をあげる。
「伝承に歌われる開かずの扉の迷宮に秘められし封印を破った者となれば、それは間違いなく、鍵の勇者です。ええと……」
「俺はジョウ、ジョウ・ローレットです」
「これは紹介が遅れましたな、ジョウ殿。私はヨハンです。アリシア様に仕えております、よろしく」
「こちらこそ」
改めて紹介が終わる。
「俺が鍵の勇者なんて信じられないですよ。そんな力は俺にはありません」
俺は自分が鍵の勇者だということを否定した。
「封印が解かれたということは、勇者として覚醒したということでもあります。今までと違う感覚がジョウ殿にはありませんか?」
「それは……」
一つだけ思い浮ぶことがある。
だが、試してみないとわからない。
「伝承では鍵の一族がいなければ鍵の勇者の本当の力は発揮できないとありました」
ヨハンが話を続ける。
「しかし、詳しいところはグーテンベルク家に伝わる書物では書かれてありません。」
「じゃあ、どうすれば……」
「王都にあるブレイブ王城の禁書庫……」
アリシアが言葉を挟んだ。
「王城?」
「そう、そこに行けば何かわかるかもしれない」
「王城って、王様の城だろ? そんなところに行くのか」
「心配しないで、王様とは顔見知りだから」
「そういう問題じゃ……」
「舞い戻ることになるけど王都までは、この屋敷から馬車で二日ほどよ。転移石があればすぐに行けるんだけどね、そういう訳にもいかないから」
「だから俺はまだ、鍵の勇者になるって決めたわけじゃない!」
――ついに大声を出してしまった。
「認めたくないけど、俺は鍵の開け閉めしかできないD級の冒険者だ。開かずの扉の迷宮だってアリシアが助けてくれなければやばかった……、勇者って器じゃない」
アリシアがたしなめる。
「ごめん、そうだよね。私達が勝手に盛り上がってるだけだよね。ジョウ君の気持ちを考えてなかった」
俺はアリシアの申し訳なさそうな顔にうっと罪悪感に襲われる。
「でも、私はジョウ君が鍵の勇者だって信じてる。迷宮でも人食い箱から私を助けてくれたじゃない?」
「それは……」
「お金ならいくらでも出すわ。私を手伝ってくれない?」
「だから、お金の問題じゃない。俺は……」
自分の力を認めてくれたアリシアを助けたかった、ただ、それだけだ。
「ジョウ君、お願い……」
アリシアの目が潤んでいる。
それを見てまたしても俺はうっとなる。
「マスター、だいじょうぶ?」
キィが心配そうな顔で見つめていた。
そうだ、これは俺だけの問題じゃない。キィにとって失われた過去を知るためにも必要なことなんだ。
俺は息を吐きだした。
「わかったよ、一緒に王城へ行くよ。キィのこともどうにかしなきゃいけないしな。ただし、期待に沿えなくても俺は知らないぜ」
「ジョウ君……ありがとう!」
アリシアが美しい花がパッと開いたように明るい笑みを浮かべる。
――こうして俺達は一路、王都へ向かうことになったのだった。
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