第11話 アリシアの正体
光の洪水が収まり、俺は瞼を開いた。
目の前に現れたのは高価そうな絨毯がしきつめられた部屋だった。
窓はないがこれまた豪勢な重たいカーテンが全体を覆っている。
部屋の中は薄暗かった。
魔法の灯りが上からぼんやりと照らしている。隅にはよくわからないが値段が高そうな調度品が置かれてある。扉は正面にあったが閉じていた。
俺達をここまで運んだ転移石が作ったであろう転移陣が、足元で光っていたがやがて消えていった。
「ここはどこだ? やけに豪勢な部屋だけど」
「ここどこ~?」
俺の袖を握ったままのキィが俺の言葉を繰り返した。
「私の家よ」
アリシアがその疑問に応じるように答えた。
「家って……こんな豪勢な部屋が?」
そのとき、バタンと正面の扉が開いた。
神聖なローブを着た初老の男性が現れた。
「お嬢様、お戻りになられましたか!」
アリシアを見て言う。
「お嬢様? アリシアが……?」
初老の男が、むっとする。
「無礼であろう、アリシア様を呼び捨てにするなど……」
さっぱり事情が呑み込めない。
「アリシア、君は一体何者なんだ……?」
はぁ、とアリシアは息を吐く。
「ここはグーテンベルク家」
「グーテンベルク家? 聞いたことがある」
グーテンベルク家と言えば噂に聞く王家ともつながりがある大貴族だ。
「私の家よ、私の本当の名前はアリシア・グーテンベルクって言うの。アリシア・マシナリーっていうのは冒険者のときの仮の名前よ」
俺は思わずおののいた。
「ええええええええっ! おまえ、貴族のご令嬢だったのか!?」
確かに、印象から裕福そうな家庭だとは思っていたが……まさか貴族だなんて。
「ヨハン!」
アリシアは初老の男に向かって呼びかけた。
「この人達は私の大事なお客様よ、もてなしてあげて。それと――」
キィの方を見て言う。
「この子に何かちゃんとした服を着せてあげて」
ヨハンと呼ばれた初老の男はかしこまり。
「ははっ、直ちに。ですが、お嬢様、怪我などはないのですか?」
「私は大丈夫よ。無事に試練も済んだわ」
「本当ですか!? ということはこの者たちが……」
俺たちのほうを見て何か驚いている。
「そう、封印の鍵と、それを解いた者よ」
アリシアが意味深に言う。
それを聞くと、ヨハンは驚き、顔をひきしめた。
「はっ、わかりました、今すぐ人を呼んできます!それじゃああなたはこちらに……」
キィに向かって手を伸ばす。
キィは慌てて俺の後ろに隠れる。
「キィ、マスターのもと離れたくない……」
と背中にギュッと張り付いた。
「キィちゃん、大丈夫よ。ちょっとお召し変えするだけだから」
アリシアが諭すように言う。
俺もキィを説得した。
「その恰好じゃ寒いだろ、大丈夫すぐに会えるから」
「マスターが言うなら……わかった」
キィは俺のもとを離れおずおずとヨハンの方に歩き出す。
「こちらです、メイドに着替えをさせましょう」
ヨハンが開いた扉を出て右へ進んでいく。
「私たちもちょっと休もう、ついてきて」
アリシアが振り向き歩き出す。
「あ、ちょっと待って」
俺は慌ててアリシアのあとを追った。
廊下に出ると、豪華な大理石の床が延々と続き、部屋の扉もたくさん並んでいた。アリシアはまっすぐ進んでいく。
「ひええっ、これは屋敷というかもうちょっとした城だなこりゃ」
俺はひとり呟いた。
「ジョウ君、こっちよ」
俺はアリシアに導かれるままについていく。
応接室らしきところに通された。
応接室といっても普通の何倍もの広さがある部屋だ。
上には豪華なシャンデリアがある。
部屋には大きな机とソファがあった。
俺はソファに座るよう促され、アリシアと机を挟んで向かい合わせに座った。
ほどなくして、メイドが飲み物を運んできて俺とアリシアそれぞれの前に置いた。
「あの、アリシア……様?」
「アリシアでいいわよ、紅茶飲んで落ち着きましょう」
言われるるままに差し出された紅茶に手を着ける。
「うまっ……!」
俺は思わず声に出す。それは俺が今まで飲んだどの紅茶よりも美味しかった。
アリシアはクスリと笑いながら自分も紅茶を一口飲んだ。
「何から話そうか、そういえば報酬の話はまだだったよね」
しばらくしてアリシアが話しかけてきた。
「ほ、報酬なんてとんでもない。俺がアリシアを助けたかっただけだって言ったろ。とはいえ文無しだから必要最低限いただければ……」
「そんなにかしこまらないでよ。でもジョウ君がいなければ絶対あの迷宮は攻略できなかったわ」
「開かずの扉の迷宮か、試練だって言ってたな」
「そう、私の家は遥か昔、魔王を倒した勇者パーティの一員だったの。以来、グーテンベルク家はたとえ女でも代々、戦士として鍛えなければいけなかった」
アリシアはまた紅茶を一口飲む。
「そして今、魔王が復活しつつある。だから魔王を封印した鍵の勇者と鍵の一族を探し出さなければならなかったの、そのためには開かずの扉の迷宮を私と鍵開け師の二人で攻略しなければならなかった、それが試練。」
「ちょっ待っ、今、魔王を封印って言ったか」
俺は驚いて声を荒げる。
衝撃の事実に頭がついていかない。
「だから、あの開かずの扉の迷宮の封印を解いたものこそ鍵の勇者と呼ばれるのよ、封印が鍵の一族のあの子を指すものだとすればだけど」
「鍵の勇者……?」
「そう」
アリシアは再び紅茶を一口飲み、まっすぐに俺を見て言った。
「あなたのことよ、ジョウ君」
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