第1話 鍵師、勇者パーティをクビになる
初めての投稿です、お手柔らかにお願いします。
「率直に言おう、ジョウ・ローレット、おまえはクビだ」
「クビ……?」
思わず俺は聞き返した。
「そうだ、このパーティにお前は必要ない、そういうことだ」
続けて冷たい言葉を投げかけられ、俺はさらに混乱した。
「なんで、急に?俺のどこがいけないって言うんだ!」
大声をあげて俺は聞き返す。
その声は俺たちがいる冒険者の宿のフロアに響き渡った。
周りの席に座っている冒険者たちが何だ?という顔を向ける。
「決まってるだろう、扉や宝箱の鍵を開けるくらいしか能がないお前はこのスライド様の勇者パーティには力不足なんだよ」
「そうよ、自分で気づかなかった?」
僧侶のミレイが言う。
「そんな、いままでずっと、上手くやってきたじゃないか。それを急になんで」
俺は言葉を絞り出す。
「上手くやってきたんじゃない、ずっと我慢していたんじゃよ。戦いに貢献できない、鍵開け魔法しか能がない役立たずをな」
魔法使いのメルビルが吐き捨てた。
「そうだ、そうだ!」
戦士のエドガーが相槌を打つ。
「……そんな言い方」
俺は唇を噛み締めた。
「俺がいたから攻略できたダンジョンや開けられた宝箱もあったはずだ」
俺はスライドの目をまっすぐ見て言った。
「俺がいたから?ハッ、思い上がりも甚だしい。あの程度の鍵、そこらのシーフでも簡単に開けられるんだよ」
「そんなことはない!俺はどんな鍵も開けられる能力を持っているんだ!」
冒険者の宿の酒場中にその声は響き渡った。
そして訪れる沈黙。
クスクスクス……。
しばらくして宿中のあちらこちらから聞こえてくる小さな笑い。
勇者スライド、僧侶ミレイ、魔法使いメルビル、戦士エドガーもその一員だった。
「ククク……それはすごい。なんならその能力を生かして鍵屋でも始めたらどうだ?」
スライドは小馬鹿にしたような声で言った。
「……わかった。もういい」
俺はそれ以上、反論するのは諦め、席を立ちあがった。
そしてスタスタと入り口を目指して歩き、扉を開け、宿を後にした。
――くそっ、スライドのやつ、あんな奴だったなんて。
あてもなく道を歩き始めながら思う。
……でも、これからどうしよう?スライドの言うようにいっそ鍵屋でも始めたほうがいいのか?
急に不安になる。
だが。
幼いころから憧れていた職業、冒険者。
それをやめるのは身が切られるくらい辛いことだった。
「あぁ、どうしたらいいんだ」
そう独り言を言った瞬間だった。
――急に後ろから声をかけられた。
「そこのハードレザーを着た黒髪のお兄さん!さっきのあの話は本当かい?」
振り向くと、ローブを目深に被った俺より少し背の小さい男が一人。
なんだ、この小男……?
「俺のことか、何の用だ?さっきの話ってことは宿屋にいたやつか」
「そうだ。」
ローブの小男は頷く。
「本当だよ、俺はあのスライドの勇者パーティをクビになったのさ。なんだい、なぐさめてくれるのかい?」
「いや、そうじゃなくて、あの話だよ」
「あの話?」
「俺はどんな鍵も開けられる能力を持っているんだ!ってのは本当かって話さ」
ローブ越しだが男は笑ったように見えた。
・面白い!
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