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 握手を交わした後、どちらともなく手を離してから、先に口を開いたのはビオの方だった。


「それで、私が言ったことはいったいどこまで合っているのかしら」

「中央から来た冒険者という点は正解です」

「落ちてきたわけじゃないと?」


 ビオが笑いながらそう問いかけると、グレンは失笑し、そうしてしまったことに一言だけ謝罪を挟んでから話を継いだ。


「……微妙なところですが。

 今は違う、と表現するのが正しいのでしょうね」

「……中央で受けた依頼の仕事場がここだった、と」

「そうなります」


 グレンの首肯を受けて、ビオは猜疑心と戸惑いが混ざったような表情を浮かべてしまった。


 ……嘘は言っていないと思うけれど。


 仕事というものは、生活圏の中で行うものである。

 行商や運搬などの仕事の種類、あるいは交通手段の充実具合などによっていくつかの例外は出てくるが、ひとりひとりの仕事はひとつの街の中で完結していることが常だ。

 特に冒険者稼業というものはその傾向が強く、基本的に街から街へと移ることは殆どない。


 依頼を受ければ何でもやる、というのが冒険者稼業なので、拠点とする街ではない別の街で行う案件も存在するけれど。受けようと思う人間はかなりの少数派だろう。

 

 そんな、他の街に行ってまで仕事をしたくないという傾向は、端っこにあるこのミスタンテという街にさえ存在するのだ。


 ヒトと物が際限なく集まっている中央では、その傾向は更に強く、顕著にあらわれていた。

 

 ……逆ならまだわかるんだけどね。


 ヒトや物は中央に集まるのだ。報酬なども当然そうなる。

 依頼内容の達成難易度も比例してあがっていくが、成功したなら活躍の場を移す機会にもなるだろう。


 だから、中央以外から中央へと向かう依頼はそれなりに人気があるし。

 やっかみも乗じて、中央で仕事ができなくなった人間を落ちてくると揶揄する文化も出来上がってしまったのだ。


 ……本当に珍しい。


 ゆえに、ビオは心底からそう思って問いかけた。


「差し支えなければ、仕事の内容を教えてもらいたいのだけど」


 純粋に興味がわいたからだった。


 ただ、応じてもらえるかどうかは微妙なところだと、そう考えてもいた。


 ……守秘義務とか、面倒なことはあるものね。


 しかし、ビオの吹けば消えるくらいの淡い願望は叶えられた。


「少し協力をしていただけるのなら、内容の説明も兼ねて教えてあげましょう」


 条件つきではあったが。


「……内容と報酬次第です」


 ビオは散々迷った末に、搾り出すような声でそう応じた。



 


 受けるかどうかは内容と報酬次第という返事を聞いて、グレンはビオに好感をもってこう返した。


「冒険者としては満点の回答です。素晴らしい」


 そしてこう続けた。


「ちょうど、地元の方から話を聞きたいと思っていたところでして。

 協力していただきたい部分というのはそこです。

 したいことは、最近変わった出来事はなかったかとか、まぁそういった世間話ですよ」


 グレンの言葉を聞いて、ビオは無言の視線で問いかけていた。

 

 ――本当に?


 だから、グレンはその視線にこう返した。


「この街でおいしい食事と上等な酒を出してくれる店はご存知で?」


 ビオは小さく笑ってから、もちろん、と頷いた。




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