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お手並み拝見

 周りにいた人が大分減ってすっきりしたので、昼寝でもするかと駕籠に戻ろうとしたら明智に声をかけられた。


「プニ長様、早速ですが私に出陣の許可をいただけますか?」

「キュン(どうぞ)」

「かたじけなし」


 明智は踵を返して敵陣に向かう……かと思えば、握りこぶしを顔の前に掲げながら大声で周りのやつらに呼びかけた。


「勇気あるみんな! 僕と一緒に、敵陣へと行こうじゃないか!」


 どうやら気持ちが昂ると某テレビ局の体操のお兄さんみたいなテンションになってしまうらしい。

 誰も呼応しないどころか、「誰こいつ」みたいな空気感がすごく、みんな明智を怪訝な眼差しで見つめたまま動こうとしない。こいつについて行って本当に大丈夫かな、と疑問視されているんだろう。

 そんな空気に気付いているかいないのか、何と明智はそのままその演説のようなものを続けた。


「どうして誰も応えてくれないんだい!? そうか、まだまだ僕の方も気持ちが足りていないからだね! よし、じゃあいくよ~はぁっ!」


 そう言って明智は上着をばりばりっと破り捨てた。筋肉はないが細くも太くもない、中途半端な肉体があらわになる。

 出オチのネタをやり出した、売れない芸人のようなノリについていける強者がこの場にいるはずもなく、周囲一帯は静まり返り、誰もが固唾を呑んで場の成り行きを見守っていた。


「これでどうだい! それじゃ僕は先に行ってるから、よろしく!」


 何が「どうだい」なのか全く掴めない織田家の面々は、意気揚々と敵陣に向かう明智をただ見送ることしか出来なかった。

 さあ、何か変なのもいなくなったし、もう一眠りするか……。


 しばらくするとまた伝令役みたいな武士がやってきた。相当慌てているらしく、駕籠の中からでも内容がわかるほどに声を荒げている。


「天筒山城陥落! 天筒山城陥落にござる!」


 まじ? 明智のやつ、本当に一人でやったのか。

 外に出て見ると、ちょうど伝令役の人と近くにいた偉そうなちょんまげのおっさんが話しているところだった。


「一体、明智殿はどのようにして天筒山城を攻略したというのだ?」

「聞いた話によると、城の裏口からこっそりと侵入し、他の家臣のふりをして最上階までいって城主にカンチョーをかましたそうです」


 あいつ、あのテンションでそんな忍者みたいなことしたのか。別にいいけどギャップがすごいな。


「そして見事なカンチョーをくらった城主は、『もうお婿にいけない』とその場で切腹をしたそうです」

「そうか……敵ながら天晴な最期でござったな」


 ちょんまげのおっさんは、何やら感慨に浸るように神妙な面持ちでうつむいたまま瞑目している。

 そうしているうちに道の向こうから明智が爽やかな笑顔と共にやってきた。片手を上げながら俺に挨拶をしてくる。


「何とか城をおとして参りました。ここからはどうなさるおつもりなのですか?」

「キュンキュンキュウンキュキュン(明日には金ヶ崎城を下すとか言ってたよ)」

「ふむ。噂に違わず言葉が通じないのですね」


 顎に手を当てて唸りながらこちらを見つめる明智。そりゃそうだろうな。


「六助殿もいなければ、木下殿と柴田殿は泣いてばかりいるでござるし……これはしばらく奪った天筒山城に滞在するしかないですね」


 まあそうなるか。でも明智は比較的まともな思考が出来るみたいで助かった。他の家臣なら「残った者たちで突撃する」とか言い出しかねん。

 木下や柴田、そして六助の戦力が使えない今の織田家は普段に比べて大分弱くなっていた。元より主力な武将の何人かは本国である美濃の守りに置いているし、この状態で朝倉家を攻めれば負けるのは目に見えている。

 正直に言えば美濃に帰るのが俺としては一番なんだけど……せめてソフィアがいれば意志を伝えられるのに。

 そんなわけで、とりあえずと言った感じで天筒山城への滞在が決定した。


 その日の夜、元城主の部屋でごろごろしているとソフィアがやってきた。手のひらサイズの妖精の形をした光があいつになった途端、元気よく挨拶をしてくる。


「こんばんは、武さん! 調子はいかがですか?」

「キュウンキュウン(早く帰って帰蝶に会いたい)」

「武さんもお年頃ですもんね! 帰蝶ちゃんとあんなことやそんなこと、したいですよね!」

「キュキュウン(この身体じゃ出来ないけどな)」


 それだけ聞くとソフィアはあちこち飛び回って部屋を観察し始めた。本当に俺の様子を見に来ただけって感じなのかな。

 そんな呑気な女神様にお願いごとをしてみることにした。


「キュ、キュウン。キュキュンキュキュンキュンキュウン(なあ、ソフィア。お前もうちょっとこっちに来られないのか?)」

「あら。もっと私と会いたいですか?」


 宙に浮かんだままこちらを振り返ったソフィアは、いつもとは違って大人の女性のような悪戯っぽい笑みを浮かべている。

 不覚にも少しだけ動揺してしまいながら応じた。


「キュウ、キュウン……キュキュン(い、いや。そう言う話じゃなくてさ……単純に不便なんだよ)」

「ですよね。いつも不便をおかけしてごめんなさい」


 急にしゅんとしたかと思えば、ソフィアは顎に人差し指を当てて宙に視線を躍らせ始めた。


「でも、私も忙しいんですよ。日本でサ〇エさんを観たり、〇点を観たり」

「キュキュキュキュウンキュン(観てる番組が庶民的過ぎない?)」


 ていうか、ソフィアって普段どんな仕事をしてるのだろうか。さすがに国民的アニメを観ているばかりじゃないとは思うけど。とふと気になったので尋ねてみることにした。

 

「キュ、キュキュウンキュンキュンキュ? (普段、ソフィアはどんな仕事をしてるんだ?)」

「私が担当している世界群を管理するのが主ですが、最近は武さんが元いた世界で女子高生をやったりもしています!」


 女神だけあってさすがに壮大、かと思えば女子高生かよ。


「キュウンキュンキュン(それだけだといまいち忙しさが伝わって来ないな)」

「最近では管理する世界も一つ増えましたし、後は他の神々が不正を働いた際に裁く仕事なんかもたまにやってたりします!」


 仕事が多岐に渡っていそう、という点だけはつかめた。どうやら本当に忙しいというのはわかったので、話を本題に戻すことにした。


「キュウン(ところでさ……)」


 ここで俺がいかに困っているかを伝える為、現在の状況を伝えてみる。

 朝倉家を攻めていること、木下隊と柴田隊が突っ込んで泣いて帰ってきたこと、六助が実家に帰ったこと、明智が参戦したこと……。そして主要な戦力が使えない今はここに待機するしかないことも伝えた。


「キュキュンキュキュン(俺としてはなるべく早めに城に帰りたいわけよ)」

「わかりました。そういうことなら、もう少しこちらに顔を出せるよう、〇点を観るのを我慢したりしてみます」

「キュキュン(是非そうしてくれ)」


 一瞬そこは三十分枠のサ〇エさんじゃないのか、とは思ったけど、恐らくはそれだけこちらにいる時間をちゃんと確保してくれるということなのだろう。その気持ちは素直にありがたかった。

 俺は右後ろ脚で首の後ろ辺りをかきながら続ける。


「キュ、キュウキュウンキュキュキュンキュン(まあ、俺がソフィアを介して意志を伝えたところで、聞き入れてもらえるかどうかはわかんないけどな)」

「そこは当主なのですから、強気にいきましょう!」

「キュウンキュン(皆すごく優秀なんだけど、六助はおバカだし、秀吉はどこか腹黒いし、柴田は正面から突撃くらいしか出来ないし、明智は絡みづらいし……)」

「どうどう!」

「キュキュンキュン? (それって馬とかの慰め方じゃね?)」


 それから少しだけ雑談をした後にソフィアは去っていった。俺も、前途多難な織田家にため息をつきながら眠りにつくことにした。

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