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新たなる阿呆の登場

 それから数日後、家臣を集めての軍評定が行われた。

 くだらない理由での朝倉攻めを止めようと俺も久しぶりに参加してみたけど、ソフィアもいないので言葉が通じず無念な結果に終わる。抗議の為にワンワンと吠えてみたところで、「プニ長様もやる気だ!」と言われるだけだった。

 そして出陣の日。勝手にやる気と勘違いされた俺は戦にまで参加する流れになってしまい、家臣たちに同行するはめになる。


「いやあ、絶好の戦日和ですなあ。はっはっは」


 いたずらに照り付ける陽射しが夏の接近を予感させる天気の下で、六助はとても機嫌が良さそうだ。

 いつもなら駕籠に乗せられて移動するんだけど、たまには馬がいいと思い、六助の前、馬の首の根本辺りに乗せてもらっている。横には疲れたらいつでも寝れるようにと、駕籠が並んで歩いてくれていた。

 自分の身体が小さいせいもあるのかもしれないけど、馬に乗るのって結構怖いな……。意外と揺れるし、本当にこんなでかい動物が人間の思い通りに動くのかという不安もある。

 こいつらは間違いなく人間より強いんだから、もっと逆らったりしてもいいのにと思う。きっと優しい動物なんだろう。


 そんな風に馬に乗せてもらったり、疲れたら駕籠に入って寝たり蹴鞠を転がしたりして道中を過ごす。すると数日後には最初の目的地らしき場所に着いた。

 遠くにそびえる城を手で示しながら、六助が紹介してくれる。


「あれが最初に攻める予定となっている手筒山城です」

「キュン(ふ~ん)」


 そんな説明を受けたところでよくわからない。抱く感想はせいぜいが「立派なお城だなぁ」くらいのものだ。


「ここを皮切りに朝倉氏側の城に攻撃を仕掛けていって、明日には金ヶ崎城を下す予定です」

「キュン(はい)」


 金ヶ崎……何かどこかで聞いたことのある響きだな。なんて思っている内にも、六助は説明を続けていく。


「ひとまず、ここの城主が大の甘党という情報を掴んだので、城の前に大量のおはぎとようかんを設置しておびき寄せてみようと思います」

「キュン(了解)」


 家臣たちのあほっぽい行動にも慣れて来たので、敢えてツッコんだりはしない。というより、放置しておいた方がいいと思っている。何だかんだ言って、こいつらは苦境を乗り越えて来ているからだ。

 六助を始めとした武将たちに属する隊がおはぎとようかんを設置するのを見送ってから、再び駕籠の中で休むことにした。


 しばらくすると、扉の向こうからの声によって目が覚める。


「プニ長様、プニ長様」

「キュ(ん)」


 昼寝の心地よいまどろみの中から引きずり出されてしまっていらっとするも、向こうにそんなことは知る由もない。返事と同時に駕籠の扉が開かれると、その先には秀吉の顔が現れた。


「お休みのところ失礼致します。プニプニを賜りたいのですがよろしいですか?」

「キュン(嫌だ)」

「ありがたき幸せ」


 いつも通りの流れで、秀吉が一礼してこちらに腕を伸ばして来たその時、後ろから柴田の声が制止をかけた。


「待てい、ハゲネズミよ。お昼寝中のところを無理やりに起こしてプニプニを賜ろうなど、礼を欠いているのを通り越して外道ではござらぬか」

「良いではないですか。プニ長様は昼夜を問わず、家臣にプニモフを授けることに労をいとわない方なのですから」


 いやいや、俺っていつからそんな社畜設定になったの? 第一、まだ織田家にそこまで愛着があるわけじゃないし。

 それと柴田はいい加減そのハゲネズミってあだ名をやめてやれ。


「それを言うなら柴田殿の方がよっぽど礼を欠いているでござろう? 何でござるかあのお犬様名は」

「ああ、あの『肉球プニプニしたい願望ありあり』の話でござるか。あれならとっくの昔に『肉球プニプニしたい願望はあれどお犬様そのものが大好き』に改名したでござるよ」

「キュキュン(長い長い)」


 秀吉は柴田のお犬様名とやらが気にくわないらしく、反論を始める。こいつら仲が良いのか悪いのかわからんな、本当に。


「そんな取ってつけたような名前では駄目でござろう。いかにも文句を言われたから変えましたと言わんばかりではないでござるか」

「やけに突っかかって来るでござるな。それならばどちらが天筒山城を先に陥落させるかで競おうではござらぬか。勝った方がプニ長様をプニプニモフモフし放題ということで」

「望むところです」

「キュキュキュンキュウン(俺が望んでないんだけど)」


 好き勝手に言い争った末に、柴田と秀吉は城の方面へと向かっていった。もう勝手にしてくれ。

 ようやく静かになったなと、フンスと鼻息をついてからもう一度昼寝をしていたら、しばらくして誰かの忙しない足音で目が覚める。

 何事かと外に出て見ると、武士風の男が六助に報告をするところだった。


「木下隊と柴田隊、敗走!」

「甘いものでおびき寄せたのではないのか!?」

「いえ、柴田隊は真正面から突っ込み、木下隊は城を囲んで石を投げつけたところ敵方のお母さんが出て来てしまい、両隊とも怒られて泣いて帰って来ました!」

「むう。お母さんまで出て来たのでは仕方ないな……」


 仕方ないんかい。はあ、もう美濃に帰りたい。

 六助は顎に手を当てながらぶつぶつと何かをつぶやいている。


「木下殿と柴田殿は、しばらくの間は泣いていて使い物にならないだろう。そうなると戦力的にはかなりの痛手だ。この城を無事に陥落させたところでその後が心配になるな……」


 どうでもいいけど六助のやつ、本当にちょっと臭いな……。案外朝倉家の家臣たちも事実を言っただけなのかもしれない。

 これは注意した方が六助の為になるのだろうかと思索を巡らせていると、俺の背後から何やら元気な足音がした。


「どうしたんだい君たち! 何か困っていることがあるのなら、拙者に打ち明けてごらんよ!」

「あなたは……! えっと、どちら様でしたか?」


 長い黒髪は伸ばしたというよりはただ切っていないだけのようで、前髪が目元を覆い隠してしまっている。けど、そこからちらりと覗く切れ長の双眸は鋭利で、その容貌は美丈夫と言える程度には整っていた。

 振り向けばそこには、根暗な引き込もりのような見た目で熱い教師のような言葉を投げかけて来る、ギャップの激しい人物が。

 六助に誰何された熱血漢は我に返って態度を一変し、静かに一礼をしながら落ち着いた口調で話し始めた。


「これは失礼をことをいたしました。拙者、明智十兵衛お犬様ハァハァ、お犬様ハァハァ光秀と申します。以後よろしくお願い致します」


 こいつが明智かよ。何か思ってたより見た目も性格も随分と違いそうだ。


「あなたが明智殿ですか。今までどうなさっていたのですか?」

「争いごとばかりの世に疲れ果ててしまい、働かずに実家でごろごろとする職無しの生活を送っておりました。しかしある日、何故か母上が突然に激昂し、実家から拙者を追い出したのでやむなくこちらに」


 そこは一応士官したくてやって来たとか言っといた方がいいんじゃないのか。

 それにしても常識的な母親がいてうらやましい限りだ。是非ともこの狂った織田家に招き入れたいところ。

 明智の話を聞いた周りのやつらが途端にざわつき出した。


「何てことだ」「実家でごろごろ無職生活?」

「羨ましすぎるでござる」「我も実家に帰るでござる」

「母上にも会いたくなったで候」「いざ実家」


 そして何人かが迷うことなく実家に帰っていく。こいつらめちゃくちゃだな。

 去っていく武士たちの背中を見送ると、六助がこちらを振り返って尋ねた。


「プニ長様、私も実家に帰りたいのですが、よろしいですか?」

「キュン(勝手にしろ)」

「かたじけなし。いざ実家」


 そう言って六助まで実家に帰っていった。

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